→◆英米法・大陸法〔法の歴史〕🔗⭐🔉振
◆英米法・大陸法〔法の歴史〕
えいべいほう・たいりくほう
イギリスにははじめゲルマン民族に属するアングロサクソンの法が行われたが、ノルマン人(ゲルマン民族に属する)の侵攻があり、ウィリアム一世がノルマン王朝を樹立した。ウィリアム一世およびその後継者は各地の慣習法を尊重するとともに、国内の法を統一しようとして国王の裁判所を設立し、裁判官はイギリス国民の一般慣行によって裁判した。しかし、イギリスには、あらかじめ規則を作って、具体的事件にこれを適用するという考えはなく、判決が法と考えられ、後に起こった事件は前の判決を先例として裁判した。このようにして、判決の集積したものを普通法(コモン・ロー)という(普通法・特別法という場合の普通法とは別の意味である。「一般法」の項参照)。
イギリスには普通法と並んで、もう一つの法体系が成立した。衡平法がこれである。国王の最高顧問である大法官は、普通法で救済を受け得なかった者を個々的に救済する裁判をし、この裁判が先例となって衡平法が成立した。議会の制定する法(制定法)は判決の上に位するものであって、近代になって制定法もたくさん制定されたが、普通法はイギリス法の根幹をなすものである。イギリス法はローマ法の影響をも受けたが、その影響は少なく、この点で後述の大陸法とは異なる。普通法および衡平法はアメリカをはじめイギリスの旧植民地にも継受され、英米法は現在の世界において一大法系となっている。
大陸法とは、ヨーロッパ大陸の法を意味し、英米法に対する言葉である。ヨーロッパ大陸の法にはローマ法およびゲルマン法の影響が多く、また、大陸法は英米法と違って、あらかじめ、抽象的な法を作って、これを具体的な事件に適用するという考えの下に制定されたものである。大陸法は英米法とともに一大法系をなしており、その中には、ドイツ法系、フランス法系およびロシア(旧ソ連)法系を認めている。もっとも、現在、世界の諸国は資本主義国と社会主義国とに分かれ、その法律も異なった点が多いからこの点に着目すれば、資本主義法の法系と社会主義法の法系とを分けることもできる。
→◆環境権〔基礎 憲法 用語〕🔗⭐🔉振
◆環境権〔基礎 憲法 用語〕
かんきょうけん
環境権という観念は,公害の急激な拡大に伴う大規模な環境破壊に対して、早急に抜本的対策が求められるとともに主張されるようになった新しい観念であり、いわゆる「新しい人権」の一つといえる。
その意味は、この言葉を使用する者によって多少異なるが、「良い環境を享受し、かつこれを支配する権利である」とか「人間が健康な生活を維持し、快適な生活を求めるための権利」だといわれている。
<1> 従来、環境権を唱える者は、憲法二五条の生存権規定を根拠にしている。すなわち、「良い環境の享受を求める権利は、憲法二五条にいう基本的人権であると考える」とし、また、公害対策基本法は、「国民の健康で文化的な生活を確保するうえにおいて公害防止がきわめて重要であることにかんがみ」と述べている。これは、憲法二五条一項の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という規定に合致するものと考えてよい。
したがって、環境権の根拠を憲法上の生存権の理念に求めることは、憲法解釈として当然の帰結と考えられ、生存していくための基本的条件である水、空気、食物が汚染されることが、憲法二五条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を侵害することになることは明らかである。ただ、環境権を広く市民的人権としてとらえる立場からは、憲法一三条の幸福追求権をも根拠として理論構成することが望ましい。一九七二年の第一回国連人間環境会議(ストックホルム)における「人間環境宣言」は、環境権を持って現代世界共通の「基本的人権」であるとした。
ところで、歴史的・沿革的にみると、生存権は、社会権の一つとして認められているものであり,国家の積極的行為を要求する個人の権利であって、国家権力の介入を認めてはじめてその目的を達成し得るものである。したがって、憲法二五条を根拠に国家権力が公害問題や環境問題について、企業の産業活動に対し制約を加えることは可能であろう。
<2> 次に、企業の財産権と環境権の関係が問題となる。憲法二九条一項は、「財産権は、これを侵してはならない」としているが、二項は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」と規定し、財産権について、政策的に制約を加えることができることを明らかにしている。現代国家は、社会的法治国家として、社会正義の原則の実現を要求されているため、財産権の内容に加えられる制約は、次第に増加する傾向がある。
したがって、憲法が人間性尊重の確保という大原則を目的としている以上、生存権と環境権は、私的所有権や企業の自由に優位すると解されなければならず、かくして、環境権が確認されることにより、公害をめぐる紛争は、新たな角度から解決されることになろう。
<3> 一般に、権利は法により保護される一定の利益を意味するが、それが完全なものになるには、その侵害に対する裁判上の救済が必要である。この意味で、環境権は未完成である。しかし、環境権を主張した場合の現行法制度上の実益は、
(イ) 環境に対する利益が積極的な権利に高められることにより、物権的請求権を有するものを超えて、広く原告適格を有する者を拡大できること、
(ロ) 具体的争訟において加害者の利益と環境に対する利益とを比較衡量した場合、後者の利益を優越させることができること、
(ハ) 整備された環境立法の制定を促進させること、
にある。
かかる意味で、環境権は現代社会において極めて重要な権利であるといえよう。
しかし、最高裁は原告適格の拡大については消極的であり、行政事件に関していえば、権力分立論や処分性といった点に問題が多い。この点で、大阪国際空港騒音訴訟(大阪高判昭和五〇・一一・二七)は、「人格権」論を踏まえ、環境権への一定の理解を示したことは注目されるが、この上告審で最高裁は、本件の差止請求は運輸大臣による空港管理権と航空行政権との不可分一体的な行使の取消し・変更・発動を求める請求を含むものであり、民事上の請求(一・二審)として不適法として却下した(最判昭和五六・一二・一六)。
→◆明治憲法〔統治機構 基本原理〕🔗⭐🔉振
◆明治憲法〔統治機構 基本原理〕
めいじけんぽう
正式には大日本帝国憲法(明治二二年)と呼ぶ。この憲法は、先進西欧諸国に後れをとった日本が、富国強兵策によって強大国家となる体制作りの基調として、明治藩閥政府のイニシアチブで、天皇の名において制定された。その特質として次のものを挙げることができる。第一に、天皇主権であり、「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」(一条)と明記され、天皇の権限(大権)が国政全般にわたって定められていた(立法権、国家緊急権、軍事権限等)。第二に、議会制度は認められたものの、国民の意思を反映すべき衆議院は、選挙によらない議員で構成される貴族院の同意権および天皇の承認(裁可)を経なければ法律を作り得なかった。第三に、国民の権利は法律の範囲内で保障されるのみで、天皇から与えられた権利とされた。第四に、憲法外に重要な国家機関(重臣会議、陸軍参謀本部、海軍軍令部)が設けられていた。第二次世界大戦での敗北により、明治憲法は、国民の力によってではなく戦勝国の指示により、日本国憲法と替わり(法的には「改正」)廃止された。
→◆選挙区制〔国会〕🔗⭐🔉振
◆選挙区制〔国会〕
せんきょくせい
憲法四七条は、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」として、選挙区制については公選法(一二条)にゆだねている。選挙区とは、有権者全体(選挙人団)を構成する単位(議員選出の単位)で、通常地域に基づいて形成される。都道府県その他の地理的行政企画を単位として(公選法一三条・一四条、別表一・二)人口をできるだけ等しくするように全国を区分する。
小選挙区とは、選挙区から選ばれる議員の定数を一人とする、すなわち定員一名の選挙区である。定員が二人以上の選挙区を(広義の)大選挙区というが、大選挙区のうち、定員が三人ないし五人の選挙区をわが国では一般に中選挙区と呼び、定員が五人を超える選挙区を(狭義の)大選挙区と呼んでいる。わが国の衆議院議員選挙については、明治二二年に小選挙区制を採用して以来、大選挙区、小選挙区、中選挙区、大選挙区と紆余曲折、試行錯誤を繰り返しながら、昭和二二年以来、中選挙区制を採用してきたが、平成六年の公選法改正で小選挙区比例代表並立制が採用され、小選挙区で三〇〇人、比例代表で二〇〇人(全国を一一のブロックに分ける)を選出する制度となった。
→◆代表制〔国会〕🔗⭐🔉振
◆代表制〔国会〕
だいひょうせい
多数代表制とは、各選挙区における議員定数を当該選挙区の多数派が独占する制度で、小選挙区制および大選挙区完全連記制(選挙人に当該選挙区の定員と同じ数だけ候補者を連記させる制度)がこの典型である。
少数代表制とは、「少数派も代表されねばならない」とする考えから、少数派にも当選の機会を与えようとする制度で、大選挙区単記制、大選挙区制限連記制(例えば定員五人の選挙区で三名連記させる制度)がこれに属する。
→図 【比例代表制】
比例代表制とは、各政党の得票数に比例して議席を配分する制度で、単記移譲式(選挙人が投票用紙に記載された候補者に、議員定数に達するまで当選希望順位を付して投票すると、基準得票数に達した候補者の得票がその指名順に投票の移譲がなされる方式、すなわち、超過得票の移譲を選挙人の意思に従って定める方式)と名簿式(選挙人は候補者名があらかじめ登載された各政党提出の名簿そのものに投票し、各政党はその名簿が取得した総数に比例して議席の配分を受け、あらかじめ提出した名簿の登載順に当選を決定する方式)との二つに大きく分けることができる。
名簿式は、更に、当選基数方式(当該選挙区における有効投票を議員定数で除し当選基数をまず算出し、各政党の得票数を当選基数で除する方式)と除数方式(各政党の得票数を1・2・3……で除し、その商の値の大きい方から順に当選者を決定する方式。現行の衆・参議院の比例代表選挙方式)とに大別できるが、その種類は三〇〇以上あるといわれている。
単記移譲式は、選挙人の意思を尊重するという利点を持つ反面、移譲の方法が複雑なため実行に移しにくいという欠点を有する。これに対し、名簿式は、実行は容易であるが、選挙人の意思よりも党の意思を尊重する党本位の選挙となるため選挙人になじみの薄い候補者が名簿に登載されたり、逆に、芸能人・スポーツ選手などの著名人を必要以上に名簿に登載したり、また、党本部で行う名簿登載順位の決定が極めて難しくなる。
ここで、選挙区制と代表制とを併せて考えてみると、小選挙区制は、多数党を作るのが容易なため政局の安定をもたらし、有権者と候補者との関係も緊密で両者の意思疎通を常に保つことができ、また同一政党内のいわゆる同士討ちがほとんどなくなるため派閥解消ひいては党の近代化に寄与し得る反面、大量の死票(デッド・ボート)が出現し、買収による選挙の腐敗および党略的不当区画の危険が他の制度に比べて増大し、大物が育ちにくいといわれている。
いわゆる中選挙区制は、選挙費用が小選挙区制に比べはるかにかかり、同士討ちによる党内分裂の危険および比例代表制にみるほどではないにしても小党分立による政局の不安定を引き起こす確率が高い。
比例代表制は、死票をなくすことができ、有権者の意思をほぼ正確に議会に反映させることができるが、強力な(政党)阻止条項を設けない限り小党分立による政局の不安定を招く。既述のごとく、移譲式は方法が複雑で、名簿式は候補者に対する有権者の関心の度合が薄れる。
小選挙区制と比例代表制とを組み合わせた制度として小選挙区比例代表制がある。併用型と並立型が主張されているが、前述の如く、平成六年の公選法改正で衆議院議員選挙については小選挙区比例代表並立制が採用された。

→◆議院内閣制〔内閣〕🔗⭐🔉振
◆議院内閣制〔内閣〕
ぎいんないかくせい
→図 【議院内閣制と大統領制】
権力分立の原則に基づきながら、立法部と行政部との厳格な区別を行わないで、相互の依存関係を強くすることによって成立する制度である。
歴史的には議会制の母国イギリスにおいて、一八世紀ごろ生まれた。この当時、君主はまだ実権を握っていたので、大臣が君主と議会の両方から信任を得なければならないという均衡型の議院内閣制が誕生した(二元主義的議院内閣制)。フランスでも一八三〇年七月革命後のオルレアン王制時代において、君主と民選議会との間を均衡・抑制させる制度として生まれた。この均衡型は、君主がその実権を失い名目的になるにつれて、行政権の実権が内閣にある、議会優位型の議院内閣制に移行するようになる。イギリスでは、一九世紀になって、君主が行政権の実権を内閣に譲り渡し、内閣は議会の信任だけに依存するようになった(一元主義的議院内閣制)。この制度において、強い与党があり、または二大政党制であれば内閣の運営は安定するが、その基礎のないところでは、連立内閣の形成によって内閣は不安定になるおそれがある。
議院内閣制と対照的なのは大統領制である。大統領制は、厳格な権力分立を前提としている。大統領は議会ではなく、国民により選出され、強い行政府の長としての権限を有するものの、議会に対しては間接的に対応するにすぎない。また、議会の多数とは異なった政党から大統領が選出される可能性もあり、その対立を調整する機関として司法部の役割も高くなる。
明治憲法では、天皇主権(一条)の下に、議会、政府、裁判所があり、これらは天皇大権に対する翼賛機関にすぎなかった。議会と内閣は分離した関係に立ち、超然内閣制を形成した。天皇の信任によって内閣の進退が決められ、内閣は法的には議会に対して責任を負わないことがこの制度の特色である。これは一九世紀ヨーロッパの外見的立憲主義国家が採用していた制度で、内閣は民主的コントロールを受けるものではなかった。しかし、明治憲法下でも、政党政治が支配的となると、二元主義的議院内閣制の様子をみせた時代があった。
日本国憲法が採用した議院内閣制は、典型的な一元主義型である。この憲法がこの型を採用したのは、戦前の体制とのある程度の連続性を配慮したことによる。議会と内閣の一体化は、議会運営において安定的な機能を果たすものとみなされた。他方、民主主義の要請としての権力分立主義は内閣のところで抑制され、国民→議会→内閣という単線型の民主主義の実現を目指すことになっている。国民主権の完全な展開として、内閣の長である総理大臣を公選制にしたほうがよいとの首相公選論を唱える者もいる。
→図 【新内閣の成立】
→図 【内閣の総辞職】
日本国憲法が規定する議院内閣制とは、<1>内閣総理大臣(首相)を国会が指名する(六七条)、<2>内閣総理大臣と他の国務大臣の過半数は、国会議員であること(六七条・六八条)、<3>内閣は国会に対して連帯して責任を負うこと(六六条三項)、<4>内閣は衆議院の信任を必要とすること(六九条・七〇条)、<5>衆議院による内閣不信任の場合は、衆議院が解散するか、そうでない場合は内閣は総辞職する(六九条)、にみられる。
議院内閣制においては、国会、特に下院である衆議院との一体性が強く要求されるので、衆議院によって内閣が不信任された場合には、内閣は総辞職するか、解散の道を選ぶことになる。一般に内閣の持つ解散権は、内閣の議会に対する最も強力な武器といわれる。その根拠は、第一に、政府はいつでも行為能力、決断能力を持たなければならない(最大の統治可能性)、第二に、最終的なあらゆる決断が、公的に提議され、首肯されること(最大の正当化)、第三に、政治機関は、他の機関による要求を拒むことはできない(最大の制裁)ということにある。衆議院の解散は六九条よりも七条三項の天皇の国事行為によってなされているほうが多い。この点について違憲論もあるが、最高裁判所は苫米地事件判決(昭三五)において、統治行為の理論を用いて実際に審査することを避けている。



→◆最高裁判所〔司法〕🔗⭐🔉振
◆最高裁判所〔司法〕
さいこうさいばんしょ
→図 【大法廷と小法廷】
<1> 構成――最高裁判所は、長官一人、判事一四人の計一五人で構成されるが、その裁判官は「識見の高い、法律の素養のある年齢四十年以上の者の中から」任命され、そのうち少なくとも一〇人は、法曹関係者でなければならない。
最高裁判所における審理および裁判は、裁判官全員の合議体である大法廷、三人以上で最高裁判所の定める員数(現在は五人)の裁判官の合議体である小法廷のいずれかで行われる。どちらで行うかは最高裁判所の定めるところによるが、法令等の新規の憲法適合性判断、違憲判断、判例変更をする場合は大法廷に限られる。
<2> 権限――最高裁判所は、通常裁判所の系列の最上級に位置する終審裁判所として、(イ)上告および特別抗告について裁判権を有し、(ロ)法令等の違憲審査権を行使する。また、司法作用に関する権能のほかに、(ハ)規則制定権(七七条)、(ニ)下級裁判所裁判官の指名権(八〇条一項)、(ホ)司法行政監督権(裁判所法一二条・八〇条)、(ヘ)分限事件の終審裁判権(裁判官分限法三条二項→司法権の自主性)を有する。
<3> 最高裁判所裁判官の国民審査性――アメリカ合衆国諸州の州民審査を母法とするこの制度が、日本国憲法において新たに採用されたのにはそれなりの理由がある。第一に、違憲審査権の行使により政治的作用を営み得る最高裁判所の裁判官に対しては、その憲法政治的職責のゆえに、国民の民主的コントロールを制度的に保障して、裁判官政治の成立を防止する必要があること、第二に、裁判官の選任権限を有する内閣の政治的配慮に基づく専断的人事を国民がチェックする必要があること、が挙げられる。しかし、反面、裁判官の独立に対する脅威ともなり得ることや、最高裁裁判官の適格性を審査する国民の能力に対する懐疑、更には部分的棄権を認めない現行の審査方式など、問題点も多い。

→◆司法権の独立〔司法〕🔗⭐🔉振
◆司法権の独立〔司法〕
しほうけんのどくりつ
→図 【司法権の独立・自主性】
→図 【国民審査】
近代憲法の基本原則の一つである司法権の独立には、二つの意味がある。
一つは、公正な裁判を通じて国民の権利を守ることを職責とする裁判所が、政治性の強い部門からの干渉を受けないことであり、この意味では三権分立の一内容をなすものである。
他は、裁判を担当する個々の裁判官が、外部からのいかなる干渉や圧力にも屈することなく司法権を行使することであり、裁判官の職権の独立ともいわれる。そして、これこそ司法権の独立の核心をなすものである。憲法七六条三項は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と定め、裁判官の職権の独立を保障している。
この保障を強化・徹底するものが裁判官の身分保障である。裁判官は、<1>「心身の故障のために職務を執ることができない」と裁判で決定された場合(七八条、裁判官分限法)、<2>公の弾劾により罷免される場合(七八条、裁弾法)、<3>最高裁裁判官についてのみ、国民審査の結果、「罷免を可」とされた場合(七九条、最高裁判所裁判官国民審査法)を除けば、その意に反して裁判官たる地位を失うことがない。このような身分保障の意義に照らせば、下級裁判所裁判官の任期制に伴う「再任」に際しては、裁判官としての不適格性が前記事由に準ずるような場合にのみ再任拒否は許されると解すべきであろう。
なお、司法権の独立を守ったケースとして名高い大津事件(明治二四年)は、確かに時の大審院長児島惟謙が政府の圧力に屈せず裁判所の独立を守った点では評価に値するが、他面、大審院長の職を利して担当裁判官に直接働きかけた点では、裁判官の職権の独立を侵害するものともいえることに注意しなければならない。


→◆学問の自由〔人権保障 各論〕🔗⭐🔉振
◆学問の自由〔人権保障 各論〕
がくもんのじゆう
→図 【内心の自由と制約】
明治憲法の下では、大学人に対する政府による干渉や圧迫があった(いわゆる瀧川事件・昭和八年や美濃部達吉の天皇機関説事件・昭和一〇年)。日本国憲法は、このような事件の反省をも含めて「学問の自由は、これを保障する」と定めた。
学問の自由は、<1>研究の対象や方法を自由に選ぶ権利(研究の自由)、<2>研究成果を発表する自由、<3>研究成果を教授する自由(教授の自由)を内容とし、更にそれらの自由を保障するために「大学の自治」を保障している。従来、ドイツでは、「学問の自由」を「大学の自由」(アカデミッシェ・フライハイト)と呼び、「学問の自由」と「大学の自治」とを結びつけて理解していた。日本でも「学問の自由」を大学の自治、大学教授の学問の自由、大学における教育の自由に限定する見解が多かったが、現在では小・中・高校における教師や教育についても基本的には教育の自由の保障は否定されていないと考えるようになってきている。
しかし、特に「大学の自治」は大学の管理運営の自主的決定権限を意味し、<1>教員人事、<2>教育研究の内容や方法、<3>大学施設の管理、<4>大学の財政に関する自主決定権限を、「制度」として保障していると解されている(「制度的保障」)。昭和四五年前後のいわゆる「大学紛争」の中で、「大学の自治」の主体はだれか、「学生」の地位はいかなるものかについて激しく争われた。最高裁は学生の大学における地位を教授の学問の自由と自治に由来する反射的効果であるとする見解を示したが(最判昭和三八・五・二二)、学生も大学の構成員として固有の権利を持ち、それぞれの役割において大学の自治を形成するという有力な批判が出された(東京大学確認書・昭和四四年)。

→◆アメリカの憲法〔外国の憲法〕🔗⭐🔉振
◆アメリカの憲法〔外国の憲法〕
あめりかのけんぽう
→図 【アメリカの統治機構】
アメリカの憲法は、イギリス植民地支配から独立し、その際に発した独立宣言を基に一七八七年に制定された。この憲法は、一三州からなる連邦国家として、諸州の上に統一的な安定した政府を作り上げることを意図して制定されたものである。しかし、この連邦憲法が制定された当初は統治機構のみ定められていたが、一七九一年に修正一〇カ条が増補され権利規定の内容も整備された。その後もしばしば修正条項が加えられ、現在では、本文七カ条のほかに修正二六条の条文となっている。その修正条項の中で特に重要なのは、南北戦争後に増補された奴隷制の廃止等を内容とする修正一三条ないし一五条であるとされる。以下、連邦憲法の内容を紹介すると、次のような特徴がみられる。
まず、統治機構としては、第一に、国民主権を前提に、国民から委託された「政府」という形態をつくっている。
第二に、政治権力を連邦と州とに分割した連邦主義を採用している。憲法では、連邦政府の沿革が示すように、連邦の権限は憲法自体に列挙された権限のみとし、残途の部分を州の権限とした。しかし、現実は連邦規模での労働保護法や人権差別禁止法を制定するなどして連邦の優位性が保持されている。
第三に、大統領制を採用している。すなわち、大統領は四年の任期をもって国民からの選挙(間接選挙)によって選ばれ、イギリスやわが国にみられるような国会との関係はない。その点で厳格な権力分立制となっている。
第四に、国会は二院制を採用している。すなわち、国会は上院(House of Senate)と下院(House of Representative)からなり、前者は各州から州代表として二人ずつ選出され、任期は六年であり、後者は人口に応じて各州から選ばれた議員で構成され、任期は二年である。
第五に、「法の支配」という思想が、「司法権の優位」(Judicial Supremacy)という形で制度化されている。司法権の一つとしての違憲立法審査制の確立である。というのも、アメリカの違憲立法審査制は、通常裁判所が司法権の行使として、具体的事件の審理の過程において下す判断であり、いわゆるドイツ的な抽象的違憲審査を内容とするものではないからである。
基本的人権としては、「アメリカの自由の歴史は、少なからず手続の歴史である」といわれているように、手続的保障が最も重視されている。すなわち、第一に、権利規定として追加された修正第一条から第一〇条までの規定のうち、半分以上が公正を確保するための手続に関する規定となっている。第二に、権利規定は連邦と州の間で別個に定められ、両者の関係は無関係であったが、修正第一四条が加えられてから、この条項を通して、州が人権を十分に保障しない場合は連邦最高裁判所により違憲であると判決されるようになった。
また、権利保障の実体面についても厚い保護を図っている。しかし、保護の内容は第一次世界大戦前と後では大きな変化がみられる。特に、裁判所では戦前には財産権の保障を重視していたが、戦後は、表現の自由に力点を置いた判決を出し、弱者の保障が図られるようになった。平等についても、人種問題でみられた「分離すれども平等」(Separate but equal)の原則が破棄され、真の平等への保障が確立されてきている。

→◆選挙区〔公職選挙法〕🔗⭐🔉振
◆選挙区〔公職選挙法〕
せんきょく
選挙区とは選挙施行の単位たる地域区画をいう(一二条一項)。しかし議員は建前上全国民を代表すべき地位にあるのであって、地域的単位の利益代理・委任によるわけではない。
選挙区は選出される議員の定数が一であるか二であるかにより、小選挙区制と大選挙区制とに分けられる。わが国の衆議院議員の選挙区制は、以前は一選挙区の定数を三人から五人までとする中選挙区制を採用していたが、平成六年の改正により、現在では小選挙区制と比例代表制(全国を一一のブロックに分ける)との二本立てによる、小選挙区比例代表並立制が採用されている。選挙区の異動において現任者の地位への影響はあり得ない(一六条)。選挙区は法定主義により公職選挙法別表に明示されている(一三条・一四条)。その基準として行政区画による選挙区編成があるとともに、人口比率に代表基盤を求めている。衆議院では小選挙区選出議員の選挙区が別表第一に、比例代表選出議員の選挙区と選挙区別の定数が別表第二に定められ、現在議員総定数は五〇〇人(うち小選挙区選出議員三〇〇人、比例代表選出議員二〇〇人)になっている。参議院では定数二五二人中一〇〇人は比例代表選出議員とし、三年ごとに半数ずつ改選する(四条二項)。残余の一五二人は都道府県を一区画とする選挙区選出議員とし、三年ごとに半数ずつ改選する。近年参議院の政党化が問題となり、衆議院に対し第二院たる存在意義の発揮が求められていたにもかかわらず、昭和五七年に金のかかる選挙を改めるため、政党本意の選挙である拘束名簿式比例代表制が導入されたのである。
→◆監査役の職務と権限〔株式会社〕🔗⭐🔉振
◆監査役の職務と権限〔株式会社〕
かんさやくのしょくむとけんげん
→図 【監査役の制限】
監査役の職務は取締役の職務の執行を監査することである(二七四条一項)。これは昭和四九年の改正によって監査役の監査が従来の会計監査のほかに業務監査まで拡大された結果である。従来は、会計監査は監査役が、業務監査は取締役会が各々に担当していると解されていたが、後者の監査は、むしろ業務執行の一態様であって、業務監査の結果の報告は株主に対してなされるものではなく、その実効性に疑問を持たれていた。監査役による業務監査については、業務執行の適法性監査に限定されるのか、妥当性監査にも及ぶのか争いがあるが多数説は、妥当性監査に及ばないと解している。また計算書類の監査報告をその職務権限としているのは従来どおりであるが、昭和四九年の改正により、監査報告書の記載事項が法定されることになった(二八一条の三第二項)。この記載事項は、会計監査・業務監査に共通する事項(同項一号・一一号)、会計監査に関する事項(同項二号〜五号・七号)、業務監査に関する事項(同項六号・八号・一〇号)、それぞれの付属明細書に関する事項(同項九号)に分けられる。監査役の職務を全うするために種々の権限が認められている。
まず、監査役はいつでも取締役および支配人その他の使用人に対し営業の報告を求め、または会社の業務および財産の状況を調査することができる(二七四条二項)。監査役の請求があった場合には、請求を受けた者は会社の秘密を理由にこれを拒み得ない。また妨害等で必要な調査ができなかった場合には、その旨を監査報告書に記載しなければならない(二八一条の三第二項一一号)。更に、子会社に対しても報告請求権や調査権が認められる(「監査役の子会社に対する調査権」の項参照)。監査役はまた取締役が株主総会に提出しようとする議案および書類を調査し、法令もしくは定款に違反しまたは著しく不当な事項があると認めるときは、株主総会にその意見を報告しなければならない(二七五条)。
次に、監査役には取締役会に出席し、意見を述べる権限が認められている(二六〇条の三)。監査役は業務監査をする業務を負い(二七四条一項)、また善良なる管理者の注意義務をもって職務を遂行しなければならないので、取締役会への出席権限は義務でもあると解される。取締役会においては、二七四条二項との関連から、必要があれば説明を求めることができる。監査役への招集通知漏れは事柄の性質上、取締役会決議の無効の問題を生ずる(二五九条の二)。
ここで出席意見陳述権の行使と関連して一定の場合に監査役自ら取締役会の招集をなし得ることも認められている(二六〇条の三第三項・同条四項・二五九条三項)。
また、取締役が会社の目的の範囲内にない行為、その他法令または定款に違反する行為をなし、これによって会社に著しい損害を生ずるおそれがある場合には、監査役は取締役に対しその行為をやめるべきことを請求することができる(二七五条の二第一項)。これは事前に業務執行の適正を図るためであり、監査役の権限であると同時に義務でもある。差止めの対象は、代表取締役、業務担当取締役または平取締役のいずれの行為であってもよい。差止めの方法は口頭でも書面でも、または訴えによってもよいが、差止めの仮処分申請については、裁判所は監査役に保証を立てさせることを要しない(二七五条の二第二項)。
更に、取締役と会社間の訴えの代表には、監査役が当たる(二七五条の四)。監査役が数人いる場合は、協議によって会社を代表する者を一人定めれば、それでもよい。昭和五六年商法改正以前は取締役会の定める者が会社を代表するのを原則としていたが(昭五六改正前二六一条の二第一項)、訴訟の公正さ等、常に会社の利益が図られるとは限らないので、監査役が会社を代表することになった。したがって株主総会の選任による会社代表の制度(同条第二項)は、認められなくなった。
なお、監査役の職務権限は資本の額により特例が設けられている。資本の額が一億円以下で負債総額二〇〇億円未満の株式会社(小会社)の場合には、監査役監査は会計監査だけに限られ、多くの商法の適用除外が規定されている(特例法二二条・二三条・二五条)。また資本の額が五億円以上または負債総額が二〇〇億円以上の株式会社(大会社)においては監査役会が置かれるとともに(同法一八条の二)、会計監査人による会計監査をも必要とすることになった(同法二条)。

→◆株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律〔商法関連法〕🔗⭐🔉振
◆株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律〔商法関連法〕
かぶしきがいしゃのかんさとうにかんするしょうほうのとくれいにかんするほうりつ
この法律(商法特例法)は、資本の額が五億円以上または負債の合計金額が二〇〇億円以上の株式会社(大会社)および資本の額が一億円以下の株式会社(小会社)における監査等に関し、商法の特例を定めるものである(商法特例法一条)。
◆大会社の特例〔商法関連法〕🔗⭐🔉振
◆大会社の特例〔商法関連法〕
だいがいしゃのとくれい
平成五年の法改正により、大会社の監査役制度は、監査役の任期の伸長(商法二七三条一項)のほかに、監査機能を強化(業務執行および会計処理の適正確保)するために、大会社の監査役を三人以上に増員するとともに、社外監査役制度を導入し(商法特例法一八条一項)、監査役会制度(商法特例法一八条の二)が新設された。大会社の業務が、特に広範かつ複雑になっていることに対応しようとするものである。大会社の監査役のうち、一人以上は、その就任の前五年間会社または子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者(社外監査役)であることを必要とする。親会社の取締役または使用人は、子会社の取締役から影響力を行使されるおそれがないと考えられるので、子会社の社外監査役としての資格があるが、子会社の取締役または使用人は、その地位を去ってから五年経過しないと、社外監査役としての要件を具備しない。社外監査役を選任しないと、取締役は一〇〇万円以下の過料に処せられる(商法特例法三〇条一一号)。
大会社にあっては、監査役の全員で監査役会を組織する(商法特例法一八条の二第一項)。したがって、監査役会という機関が置かれるのは、大会社に限られる。大会社以外の株式会社の場合、監査役は、独任制の機関として、各自が単独ですべての監査権限を行使する(小会社の監査役は、業務監査権限を有しない―商法特例法二五条)。大会社の監査役会は、この法律(商法特例法)に定める権限を有するほか、その決議をもって、監査役の権限の行使を妨げない範囲内で、監査の方針、会社の業務および財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項を定めることができる(商法特例法一八条の二第二項)。大会社の監査報告書は、監査役会が作成する(商法特例法一四条二項)。この監査報告書には、各監査役の意見を付記することができる(商法特例法一四条三項)。例えば、付記された監査役の意見が、会計監査人の監査の結果を相当でないという場合には、計算書類についての定時総会の承認を省略するという効果は生じない(商法特例法一六条一項)。もとより、監査役会による監査報告書の作成に当たっては、監査役会において、協議され、多数決により監査役会の監査意見が形成される。この場合、監査役全員の意見が一致すれば、各監査役の意見を付記する必要はない。監査役会は、各監査役が招集することができる(商法特例法一八条の三第二項、商法二五九条一項本文)。監査役会の招集は、一週間前に各監査役に通知しなければならないが、定款でこれより短い期間を定めることができるし、監査役の全員の同意があれば、招集手続を省略して、監査役会を開催することができる(商法特例法一八条の三第二項、商法二五九条の二・二五九条の三)。監査役の決議方法は、原則として監査役の過半数をもって決せられる(商法特例法一八条の三第一項本文)が、会計監査人の解任の決議(商法特例法六条の二第一項)に限り、監査役の全員一致をもって決せられる(商法特例法一八条の三第一項但書)。監査役会の議事については、議事録を作成しなければならない。議事録には、議事の経過の要領およびその結果を記載し、出席した監査役は署名しなければならない。取締役は、監査役会の議事録を一〇年間本店に備え置かなければならないし、株主は、裁判所の許可を得て、議事録の閲覧・謄写を請求することができる(商法特例法一八条の三第二項、商法二六〇条の四)。
大会社においては、監査役の監査のほかに、公認会計士または監査法人である会計監査人による決算(会計)監査を受けなければならない(商法特例法二条)。会計監査人は、株主総会において選任され、設立の際には発起人または創立総会によって選任される。取締役会が会計監査人の選任の議案を株主総会に提出するには、監査役会の同意を要し、また、監査役会はその過半数の同意をもって、会計監査人の選任を議題とすることなどを、取締役に請求することができる(同三条)。
会計監査人は、会計書類およびその附属明細書(商法二八一条一項)の監査を職務とする(商法特例法二条)が、いつでも、会社の会計の帳簿および書類の閲覧もしくは謄写をし、または取締役および支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求め、その職務を行うため必要があるときは、会社の業務および財産の状況を調査することができる。更に、会計監査人は、その職務を行うため必要があるときは、子会社に対して会計に関する報告を求め、また、その業務および財産の状況を調査することができる(商法特例法七条・三〇条一項三号〜四号・同条二項、商法二七四条の三第二項・同条三項)。
会計監査人が、その任務を怠ったことにより、会社に損害を生じさせたときは、その会計監査人は、会社に対し連帯して損害賠償の責めに任ずる(商法特例法九条)。会計監査人が、重要な事項について、監査報告書(同一三条一項)に虚偽の記載をしたことにより、第三者に損害を生じさせたときには、その会計監査人は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しない限り、その第三者に対し連帯して損害賠償の責めに任ずる(同一〇条)。これらの場合において、取締役または監査役も責任を負うときは、会計監査人、取締役および監査役は連帯債務者となる(同一一条)。
大会社の場合、各会計監査人の監査報告書に、貸借対照表、損益計算書が法令・定款に従い、会社の財産および損益の状況を正しく表示している旨の記載があり、かつ、監査役会の監査報告書に会計監査人の監査の結果を相当でないと認めた旨の記載がないときは、取締役会の承認によって確定したものとされる。この場合には、取締役は、定時総会に貸借対照表、損益計算書の内容を報告すれば足りる(商法特例法一六条一項)。
◆大会社の監査報告書に関する規則〔商法関連の重要省令〕🔗⭐🔉振
◆大会社の監査報告書に関する規則〔商法関連の重要省令〕
だいがいしゃのかんさほうこくしょにかんするきそく
この規則(監査報告書規則)は、大会社における会計監査人および監査役の各監査報告書の記載方法を定めるもので、昭和五六年の商法改正の際に、新たに制定された。商法二八一条の三第二項によって監査報告書の記載事項が定められているが、大会社における監査報告書の内容、監査の実質および株主への開示を充実させる目的で設けられたのである。
商法特例法一三条一項に定める会計監査人の監査報告書および同法一四条一項が定める監査役会の監査報告書の記載方法は、この省令の定めるところによる(監査報告書規則一条)。監査報告書規則の原則として、監査報告書は、その記載すべき事項ごとに監査の方法および結果を正確に示すよう明瞭に記載しなければならないとともに、監査の方法の概要は、監査の信頼性を正確に判断することができるように記載しなければならない、とされている(同規則二条)。
会計監査人の監査報告書には、これを作成した公認会計士または監査法人の代表者が、その資格を記載して署名押印しなければならず、監査役会の監査報告書にも、監査役が署名押印しなければならない(同規則五条・八条)。
◆大会社の株主総会の招集通知に添付すべき参考書類等に関する規則〔商法関連の重要省令〕🔗⭐🔉振
◆大会社の株主総会の招集通知に添付すべき参考書類等に関する規則〔商法関連の重要省令〕
だいがいしゃのかぶぬしそうかいのしょうしゅうつうちにてんぷすべきさんこうしょるいとうにかんするきそく
昭和五六年の商法改正は、株主総会を活性化させるために、種々の制度を新設したが、株主の分散度の高い会社にあっては、一般株主が総会に出席して議決権を行使するということは、実際上、容易ではないため、これら株主の意思を総会の決議に反映させるための手段として、商法特例法が定める大会社につき、議決権の行使に関する参考書類の送付および書面投票の制度を設けたのが、この省令(参考書類等規則)である。
大会社で、議決権を有する株主の数が一〇〇〇人以上の会社にあっては、株主総会の招集通知には、議決権の行使について参考となるべき事項として、参考書類等規則で定めるものを記載した書類(参考書類)を送付することを要するが、このような会社にあっては、株主総会に出席しない株主は、書面によって議決権を行使することができる(商法特例法二一条の二・二一条の三第一項)。
したがって、このような会社は、株主総会の招集通知に、株主が議決権を行使するための書面を添付しなければならない(同二一条の三第二項)。
この議決権行使書面には、議案ごとに、株主が賛否を記載する欄を、また、議決権を行使すべき株主の氏名および議決権を行使することができる持株数を記載し、株主が押印する欄を設けなければならない(参考書類等規則六条一項・八条)。
→◆恩赦〔罪数と刑罰〕🔗⭐🔉振
◆恩赦〔罪数と刑罰〕
おんしゃ
→図 【恩赦】
国家の元首ないし行政の最高機関の特権によって刑罰を消滅させ、あるいは刑罰権の効力を減殺すること。現行憲法の下では、内閣の決定により、天皇の認証を経て行われる(憲法七三条七号・七条六号)が、その詳細は恩赦法(昭和二二法二〇)に規定されている。
恩赦の中でも、最も重要なものは、大赦であって、政令で罪の種類を定めて行われ、有罪の言渡しを受けた者については、その効力を失わせ、まだ有罪の言渡しを受けていない者については、公訴権を消滅させる。そのほか恩赦には、特赦、減刑、刑の執行の免除、復権の五種がある。
昭和三一年一二月、国連加盟を機会に、政府が公職選挙法違反を主な対象として強行した恩赦や、昭和四三年一一月にいわゆる「明治百年」を記念して同じく公職選挙法違反を主な対象として行った恩赦は、恩赦権の濫用であるとして、世論の厳しい批判を浴びた。
〈その他の戦後の恩赦と事由〉 昭和二〇年一〇月(第二次大戦終局)、二一年一一月(日本国憲法公布)、二二年一一月(二〇年・二一年の恩赦における減刑令の修正)、二七年四月(平和条約発効)、二七年一一月(皇太子殿下〈明仁親王〉立太子礼)、三四年四月(皇太子殿下〈明仁親王〉ご結婚)、四七年五月(沖縄復帰)、平成元年二月(昭和天皇ご逝去)

→◆恩赦法〔刑事政策関連法〕🔗⭐🔉振
◆恩赦法〔刑事政策関連法〕
おんしゃほう
旧憲法における恩恵的な恩赦大権に基づく恩赦令は、新憲法の施行によって廃止され、恩赦は内閣の権限として恩赦法の定めるところによることとなり、特赦、減刑、刑の執行の免除、復権についても広く本人の出願が認められ、恩赦を本人の改善更生その他刑事政策の観点から運用する道が開かれた。
恩赦とは、国家が行政権の作用によって刑罰権を消滅させ、またはその効力を減殺させる行為で、政令恩赦と個別恩赦に大別される。
<1> 政令恩赦は、政令で一定の標準を定め、それに該当する者に一律に行うもので、(イ)大赦(法令で罪の種類を定め、公訴権を消滅させるか、有罪の言渡しを将来に向かって失効させる。二条・三条)、(ロ)一般減刑(政令で罪または刑の種類を定め、言い渡された刑を減軽し、またはこれとともに執行猶予の期間を短縮する。七条)、(ハ)一般復権(政令で要件を定めて喪失・停止中の資格を回復させる。九条・一〇条)の三種類である。
<2> 個別恩赦は、有罪の確定判決を受けた特定の者に対して個々に行われるもので、その手続概略は次のとおりである。監獄の長、保護観察所長または検察官は、職権もしくは本人の出願に基づき、中央更生保護審査会に対して上申し、同審査会が相当と認めるときは、内閣に申出をする。内閣はこの申出をまって恩赦を決定し、天皇が認証する。法務大臣は、同審査会をして恩赦状を検察官に送付させ、それは恩赦を上申した者から本人に交付される(一二条、一三条)。
個別恩赦は、刑事政策的見地から随時行われることとなっていて、年間二〇〇件前後であるが、これを常時恩赦といい、国家的慶事などの際に、一定の期限を限って通常の場合と異なった特別の基準で行われる個別恩赦と区別している。その種類は、<1>特赦(有罪言渡しの効力を失わせる。四条・五条)、<2>刑の執行の免除(刑の執行猶予期間を経過しない者に対しては行われない。八条)、<3>特別減刑(刑またはその執行を減軽する。刑を減軽する場合、これと併せて執行猶予期間を短縮することもできる。六条・七条)、<4>特別復権(法令により喪失・停止中の資格を回復させる。原則としては資格のすべてを回復するが、特定の資格だけを回復させることもできる。九条・一〇条)の四つである。
→◆公の営造物〔国家補償法〕🔗⭐🔉振
◆公の営造物〔国家補償法〕
おおやけのえいぞうぶつ
→図 【国家賠償法2条】
国家賠償法二条一項は「道路・河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」と規定している。
右の「公の営造物」とは、具体的にどのようなものを指すかが問題となる。例えば、国または公共団体が病院をつくり、ベッドを設けて医者に患者の治療をさせる場合、この病院の建物とかベッドといった物的設備を公物といい、これを通じて行われる事業(治療)に着目した場合、これを公企業といい、更にその中の人に着目した場合、これを公務員といっている。学問上は、右の公物および公務員の総合体を指して公の営造物といっている。したがって、営造物と公物とは異なる。国家賠償法二条の「公の営造物」の解釈については、公務員の人的問題については国家賠償法一条で処理されているので、二条の公の営造物は、道路、河川など物的設備を指し、公物の概念に当たる。しかし、この公物という語も、実定法上の用語ではなく学問上の概念である。
この公物はその併用される公の目的からみた場合、<1>公共用物(直接、一般公衆の共同使用に供せられるもので道路・公園・河川・港湾など)と、<2>公用物(国または公共団体自身の使用に供せられるもので、官公署の建物、国公立学校の建物、職員の官舎など)に分けることができる。このような公物はすべて国家賠償法二条一項の「公の営造物」に当たると解してよい。裁判所も、警察署の自動車、国が公用に供するために借りた自動車、刑務所工場の脱水機、公立小学校のプール周辺の金網のフェンスなどは、この「公の営造物」に入るとしている。
公の営造物の設置・管理の瑕疵――国家賠償法二条は一条と異なり、無過失責任の原則に依拠している。したがって、国民に対し損害を与えたことが法令に違反していなくとも、また公の営造物の設置・管理の安全性を欠くに至る原因がなくとも、また管理者の過失が存在しなくとも損害賠償をしなくてはならないことを意味する。公の営造物の設置・管理に瑕疵が存在する場合(この瑕疵のあることについての挙証責任は原告〈被害者〉にある)、例えば、道路に大きな穴があいていた場合には、管理者はこれを補修して、道路の安全性を確保する責任がある。もしこれをしない場合は管理の瑕疵に当たるし、また、道路に石が落ちてくる危険があるような場合に、それを防護する施設が不十分な道路であれば設置の瑕疵に当たるであろう。したがって、通説や最高裁の判例は、公の営造物の設置・管理の瑕疵とは、営造物が通常有するべき安全性を欠いている状態を意味するとしている(最判昭和四五・八・二〇)。また、この「公の営造物の設置または管理の瑕疵」の意義については、主観説、客観説、折衷説がある。客観説は、客観的に営造物の安全性の欠如が営造物に内在する物的瑕疵または営造物自体を設置し管理する行為によるか否かにより決すると主張する。これに対し、主観説は、営造物を安全良好な状態に保つべき作為または不作為義務を課せられている管理者がその義務に反することをいうと主張する。
最高裁は、客観説に立っている。
なお河川の管理について大東水害訴訟に関し最高裁は、<1>道路などの管理と河川の管理とは異なること、<2>河川は本来洪水などの自然原因による災害をもたらす危険性を内包していること、などを理由に、河川管理についての損害賠償を否認している。
求償権――国家賠償法一条に基づく国または公共団体の賠償責任の性格については、公務員の責任に代わって負う責任、つまり代位責任の一種と考えられているので、被害者は国または公共団体に対してのみ賠償を請求し得る。したがって、国または公共団体が賠償した場合には、国または公共団体はその公務員に対して求償権を有する。ただ、軽過失についても国が公務員に弁償させることは、政策的にみて行政事務の運営・執行を停滞させる危険があるので、求償権は公務員の故意・重過失に限って行使することができる(国賠法一条二項)。
また、国家賠償法二条二項は、「他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対し求償権を有する」と規定する。「損害の原因について責に任ずべき者」というのは、営造物の設置または管理の瑕疵を生ぜしめた者である。
管理権者と経費負担者――どの行政主体が損害賠償責任を負担すべきかについては、公務員の選任監督者(管理権者)と俸給給与などの支払者(経費負担者)とが異なっているときは、被害者はそのいずれに対しても損害賠償請求権を有し(国賠法三条一項)、そうして損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任がある者に対し求償権を有する(同三条二項)。これは、賠償請求権行使の相手を誤ったために権利の実現を妨げられることのないよう配慮したものである。

→◆選挙権〔地方自治法〕🔗⭐🔉振
◆選挙権〔地方自治法〕
せんきょけん
→図 【住民の権利】
地方自治法は、地方公共団体の議会の議員および長の選挙に関する基本的事項のうち、選挙権および被選挙権の所在を定めるだけで(地自法一七条〜一九条)、他はすべて公職選挙法の規定によっている。
選挙権に関しては、日本国民たる年齢満二〇年以上の者で三カ月以上市町村の区域内に住所を有する者が、その属する普通地方公共団体の議会の議員および長の選挙権を有する(同一八条、公選法九条二項)。衆議院議員、参議院議員の選挙権の要件(公選法九条一項)と異なり三カ月の住所要件が地方公共団体の選挙要件となっているのは、沿革上のみならず、地縁的要素を考慮したものと思われる。しかし国会議員の選挙の場合でも、選挙人名簿の調製は三カ月以上住所を有する者についてなされるので、実質的には地方公共団体の議会の議員および長の選挙の場合と国会議員の選挙の場合とでは差がない。
普通地方公共団体の議会の議員、および市町村長の被選挙権は、年齢満二五年以上の者が有し、都道府県知事については満三〇年以上である。
なお、議会の議員の被選挙権には住所要件が必要であるが、長の被選挙権には住所の所在を要件としていない(地自法一九条、公選法一〇条)。
選挙と選挙区――選挙方法を構成する主要な要素は、<1>代表法、<2>選挙区制、<3>投票方法の三つである。選挙を行うために分割された地域的な単位を選挙区という。選挙区は、その地域の大小にかかわらず、一選挙区の議員定数を一名とするものを小選挙区制、二名以上の場合を大選挙区制といっている。
わが国の従来の衆議院議員の選挙区制の方式は、二名ないし五名程度に分割した区割りの中選挙区制といわれるものであるが、右の分類からいえば、大選挙区制に属する。
現在の選挙区制は、小選挙区制と比例代表制の二本立てをとっている。前者は都道府県ごとに一人ずつ配分したうえで、中選挙区制の区分をもとに、人口比例による配分を行う小選挙区、後者は全国の地域を一一に分ける大選挙区である。このことは地域の広狭はもとより、投票の格差をいかに抑えるかという観点から、改正が行われたことを意味する。
小選挙区制の特徴は、小政党の進出を困難ならしめ、二大政党の対立による政局の安定をもたらすことができ、選挙が政策本位になり、地域の狭小化に伴い選挙費用の低減を図ることができるが、その反面、死票を多くし、少数政党に不利になるという点がある。これに対し、大選挙区制をとると、少数代表を可能ならしめ、また、人物選択の範囲を広くすることができる。しかし、その反面、小政党乱立による政局の不安定を招く危険がある。中選挙区制は、両者の中間を意図したものといえよう。
選挙区――市町村の議会の議員については特に必要のある場合は、条例で選挙区を設けることができる。しかし、指定都市(大阪、名古屋、京都、横浜、神戸、北九州、札幌、川崎、福岡、広島、仙台、千葉の一二大都市→地自法二五二条の一九)の区では、区が選挙区となる(公選法一五条六項)。なお、選挙区を設ける場合には、行政区画、衆議院議員の選挙区、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない(同条七項)。
地方公共団体の議会の議員の選挙の種類――地方公共団体の議会の議員の選挙には、一般選挙、再選挙、補欠選挙、増員選挙などがある。一般選挙は、任期満了、解散、総辞職に基づき、議員全員を改選する選挙、再選挙は議会の議員の選挙において所定の当選人が得られない場合に行われる選挙、補欠選挙は議会の議員の欠員が所定の数に達した場合にこれを補充するために行われる選挙、増員選挙は議員定数の増加に伴い行われる選挙である。
選挙事務の管理――都道府県議会の議員および知事の選挙の管理は、当該都道府県の選挙管理委員会が、また、市町村の議会の議員および長の選挙の管理は、当該市町村の選挙管理委員会が行う(公選法五条一項)。自治大臣は、都道府県の選挙管理委員会を指揮監督する(同条二項)。また、都道府県の選挙管理委員会は、市町村の選挙管理委員会を指揮監督する(地自法一八六条二項)。

◆大型間接税〔租税法〕🔗⭐🔉振
◆大型間接税〔租税法〕
おおがたかんせつぜい
→図 【大型間接税の種類】
学問上の消費税は、学問上の個別消費税と学問上の一般消費税とに区分される。個別消費税というのは、課税対象が税法上特定・限定されているものであり、従来の物品税等がこれに該当する。個別消費税の場合には課税物品表の規定がある。人々には消費行為の選別を通じて税を負担するかどうかを考える余地がある。一般消費税というのは、課税対象が税法上特定・限定されていない課税ベースの広い消費税のことである。この一般消費税にはその性格上、課税物品表の規定がない。例外的に課税しないこととなる非課税物品表の規定があるだけである。
大型間接税という概念は、学問的には厳密には存在しない。強いて大型間接税というときは、この学問上の一般消費税を指すことになる。このように、大型間接税というのは学問上の一般消費税を指称することになるので、税率が低いとか、免税点が高いとか、非課税項目が多いとかということは、大型間接税であるかどうかを考えるにあたって、重要ではない。その租税の性質・しくみが課税対象を特定・限定している建て前を採用しているかどうかが、大型間接税に該当するかどうかの判断において決定的となる。これを見分けるには、問題の税法に課税物品表の規定がないかどうかをみればよく、課税物品表の規定のない租税は、大型間接税ということになる。
大型間接税(学問上の一般消費税)に該当する場合には、人々は消費行為を選別する余地がない。大型間接税では、人々は各自の意思とは無関係に多額の税の負担をしかも消費者の地位において余儀なくさせられる。別言すれば、本当の納税者(担税者)である消費者は、各自の意思とは無関係に形式的にも租税法律関係から排除させられて、多額の税の負担を余儀なくさせられるわけである。この意味において、大型間接税の場合には個別消費税(個別間接税)の場合以上に憲法の国民主権原理に大きく抵触する。このほか、応能負担原則、申告納税権の法理(国民主権の税法的展開)、地方自治、平和主義などの憲法の諸原理に抵触する度合いが、個別消費税の場合に比べて質的に高い。
学問上の一般消費税はさらに単段階税と多段階税とに区別される。
単段階税というのは、製造段階、卸売段階、小売段階のうち一回だけ課税されるもの。課税の時期に応じて製造者売上税、卸売売上税および小売売上税に区分される。
多段階税というのは、製造段階、卸売段階、小売段階のすべての段階に対して課税されるもの。もし、製造段階が素材メーカーの段階、完成品メーカーの段階というふうに二つ存在する場合には二回とも課税されることになる。卸売段階が第一次問屋、第二次問屋という形で二つ存在する場合には、二回とも課税されることになる。
この多段階税は、さらに累積税と非累積税とに区分される。
累積税というのは、前の段階で課税された税額相当分を、つぎの段階で控除しないというもので、業者サイドからいうと、売上金額に対して税率を乗ずるだけで税額がでてくるものである。つまり、税込みの取引金額に対してまた税がかけられるものである。したがって、同一商品であっても、取引の回数がふえればふえるほど税金がふえていく。それを最終的には消費者が負担するということになる。日本では、第二次世界大戦後、占領下において昭和二三年九月から二四年一二月までに実施された取引高税がこれに該当する。
非累積税というのは、製造段階、卸売段階、小売段階の各段階において課税されるという点では累積税と同じであるが、前の段階で課税された税額相当分はつぎの段階で控除されるという点だけが異なる。つまり、非累積税は、制度的には二重課税、三重課税を行わないという建て前になっている。業者サイドからいうと、売上げに対する税額から仕入れに含まれている税額相当分を引いた差額が当該業者の納付すべき税額ということになる。別言すれば、各業者の付加価値分だけに対して課税されるということになる。前の業者の付加価値については重ねて課税されないという建て前になっている。この非累積税は、別名、付加価値税と呼ぶことが可能である。
この非累積税である付加価値税は、伝票式付加価値税と帳簿式付加価値税とに区分される。
前の業者の発行した所定の伝票(インボイス)に基づいて、つぎの業者が仕入れに含まれている税額相当分を控除するものが伝票式付加価値税である。つまり、法律上所定の伝票の存在が仕入れ税額控除の前提要件となっているものである。ECで行われている付加価値税や昭和六二年に問題となった中曽根売上税は、この伝票式付加価値税である。
帳簿式付加価値税というのは、所定の伝票がなくても当該業者の帳簿に基づいて、仕入れに含まれている税額相当分を控除することを認めるものである。つまり、所定の伝票の存在が必ずしも仕入れ税額控除の法律上の前提要件になっていないということになる。昭和五四年一二月の国会で超党派で「今後導入しない」という決議の対象になった大平内閣の一般消費税や昭和六三年一二月に成立した竹下内閣の消費税は、この帳簿式付加価値税である。

◆大蔵省主税局〔租税法〕🔗⭐🔉振
◆大蔵省主税局〔租税法〕
おおくらしょうしゅぜいきょく
→図 【大蔵省・国税局の機構】
大蔵本省の内部部局の一つ。国税庁は、大蔵省の外局として、内国税の賦課徴収事務を担当するのに対し、大蔵省主税局は、内国税に関する制度の企画立案等の事務を担当している。国税庁が、内国税に関する税法の執行機関とすれば、大蔵省主税局は、立案機関といえよう。
同局は、現在、総務課、税制第一課、税制第二課、税制第三課、国際租税課、および調査課の六課からなる。

◆大牟田訴訟〔租税法〕🔗⭐🔉振
◆大牟田訴訟〔租税法〕
おおむたそしょう
大牟田市が地方財政危機に対処するために昭和五〇年四月九日に福岡地裁に提起した訴訟。
地方税法四八九条一項・二項は巨大企業にかかる電気税の非課税措置を定めている。これらの規定によって大牟田市は巨額の税収を失っている。
そこで大牟田市は地方財政の危機を救う見地から次の理由をもって減収相当分の損害賠償を国に請求する裁判を提起した。<1>憲法は自治体に固有の課税権を保障している。地方税法四八九条一項・二項は大牟田市の事情をまったく無視して不合理な租税特別措置を一方的に自治体に押しつけるものであって憲法で保障された自治体の課税権を侵害し違憲である(憲法九二条違反)。<2>特定企業の電気税の非課税措置を規定する地方税法四八九条一項・二項は憲法上不合理な差別に該当し違憲である(憲法一四条違反)。<3>国が違法な立法を行いこれによって他人に損害を与えた場合には国は国家賠償法によりその損害を賠償すべき義務を負わなければならない。国は憲法に違反する地方税法四八九条一項・二項の立法を行いこれによって大牟田市に損害を与えたので国は大牟田市に対し賠償する責任を負わなければならない。
この訴訟は国の法律による自治体課税権の侵害に対する自治体側からの画期的な抵抗訴訟である。
なお、福岡地裁では大牟田市側は敗訴し、福岡高裁に控訴したが、その後、控訴は取り下げられた。
◆大蔵省証券〔財政法〕🔗⭐🔉振
◆大蔵省証券〔財政法〕
おおくらしょうしょうけん
国が、国庫の資金繰りの必要から発行する証券である。その発行の最高額については、毎会計年度、国会の議決を経なければならず、また、これは、その年度の歳入で償還しなければならない(七条)。
→◆差止請求権〔総論〕🔗⭐🔉振
◆差止請求権〔総論〕
さしとめせいきゅうけん
公害の排出原因者に対して、公害防止装置の設置、設備の改善、操業の停止などを請求する権利。
継続中の公害では、損害賠償とあわせて請求されることが多い。
騒音事件や日照阻害事件では、差止請求が活用されており、裁判所によって認容される事例も少なくない。騒音の場合には、「何ホンを超える騒音を出してはならない」とか「夜間何時から早朝何時までの間は、機械を動かしてはならない」という仕方で、差止めが認められる。有名な事件として、大阪国際空港騒音訴訟(最判昭和五六・一二・一六)や名古屋新幹線騒音訴訟(名古屋高判昭和六〇・四・一二)があるが、いずれも原告の差止請求は認められなかった。
差止請求の根拠としては、不法行為説(民法七〇九条を根拠とするもの)、人格権説、環境権説、物権的請求権説などの説があるが、判例は人格権説をとっている。
◆大阪国際空港騒音訴訟〔公害訴訟〕🔗⭐🔉振
◆大阪国際空港騒音訴訟〔公害訴訟〕
おおさかこくさいくうこうそうおんそしょう
大阪国際空港に離発着するジェット機の騒音・振動等により、周辺住民が睡眠妨害等の健康被害を被っているとして、国に対し夜九時から翌朝七時までの飛行禁止および損害賠償を求めた訴訟。最判昭和五六・一二・一六は、差止めについては、空港の供用は国の管理権および航空行政権に属するので民事訴訟の対象にはならないとして請求却下、損害賠償については、受忍限度論に基づき、過去分について認容し、将来分についてはあいまいであるとして否認した。
◆大気汚染防止法〔環境公害法 規制〕🔗⭐🔉振
◆大気汚染防止法〔環境公害法 規制〕
たいきおせんぼうしほう
→図 【公害法の体系】
大気汚染を防止するために必要な規制を行うことを目的とする法律。昭和四三年六月一〇日に公布された。
この法律の前身は、昭和三七年六月二日に公布された「ばい煙の規制等に関する法律」であった。しかし、ばい煙規制法は、いおう酸化物、自動車排ガス汚染に対しては有効適切な規制手段を欠いていた。
そこで、昭和四二年に公害対策基本法が制定された後、ばい煙規制の根本的な再検討がなされ、昭和四三年に旧法を廃止して大気汚染防止法という新しい法律が制定されることになったのである。
大気汚染防止法は、その後昭和四五年の第六四国会(いわゆる公害国会)において大きな改正を受けた。すなわち、経済調和条項を削除し、それまでの指定地域制を廃止し全国を規制対象とする、都道府県知事の権限を強化する、直罰主義(排出基準に違反すれば、改善命令を待たないで、直ちに罰則が適用されること)をとり入れる、などの大幅な改正がなされた。
昭和四七年の第六八国会においては、新たに第四章の二に損害賠償に関する諸規定を入れ、健康被害物質を排出する者の無過失責任が明文化された。
昭和四九年の第七二国会においては、総量規制方式が導入され、個別排出源規制によっては環境基準の確保・達成が困難な地域については、都道府県知事が指定ばい煙総量削減計画を作成し、それに基づき総量規制基準を定めることとなった。
平成元年、石綿の規制を目的とする本法の一部改正が行われた(六月二八日公布)。石綿(アスベスト)は建材などの製品に使用されているが、近年発ガン性が認められるに至った。
改正法では、粉じんのうち、石綿その他の人の健康に係る被害を生ずるおそれがある物質で政令で定めるものを「特定粉じん」とし、また、工場または事業場に設置される施設で、特定粉じんを排出または飛散させるもののうち政令で定めるものを「特定粉じん発生施設」と定め、特定粉じんの規制基準(一八条の五)、特定粉じん発生施設の届出等(一八条の六・一八条の八)、規制基準の遵守義務(一八条の一〇)、改善命令等(一八条の一一)などを新たに定めた。

◆大規模事業会社の株式保有総額の制限〔独禁法〕🔗⭐🔉振
◆大規模事業会社の株式保有総額の制限〔独禁法〕
だいきぼじぎょうがいしゃのかぶしきほゆうそうがくのせいげん
大規模事業会社の一定の株式保有総額以上の株式保有を禁止したもの(九条の二)。資本金三五〇億円以上または純資産額一四〇〇億円以上の会社を対象とし、これらの会社が、自己の資本金額または純資産額のいずれか多い額を超えて国内の他の会社の株式を取得・所有してはならない(九条の二第一項)。
この制度のねらいは、企業集団の中核となり得るような大規模な企業の株式保有に一定の枠をはめることによって、事業支配力の過度の集中に歯止めをかけることにある。平成九年の改正法では、九条の改正に伴って、持株会社をこの規制対象から除外している。
九条の二においては、保有制限の対象に算入しないいわゆる適用除外株式が定められている。この制度には、その事業がもっぱら海外で行われる会社や資源開発など国策的会社の株式保有、およびやむを得ない理由により取得した株式保有については、一定の要件のもとで適用除外としている。平成九年の改正法は、九条の改正と関連して事業支配力の過度の集中の防止という九条の二の規制の趣旨からみて問題ないと考えられる株式について、新たに適用除外株式として追加した。追加されたものは、<1>共同分社化により設立した子会社の株式、<2>一〇〇%子会社の株式、<3>ベンチャー・ビジネスの株式などである(九条の二第一項但書)。
大規模事業会社の株式保有総額の制限規定に違反した場合には、公正取引委員会によってその排除措置が講ぜられる(一七条の二第一項)。またその違反には罰則が予定されている(九一条二号)。
◆大店法〔その他の企業法〕🔗⭐🔉振
◆大店法〔その他の企業法〕
だいてんほう
正確には「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律」(昭和四八法一〇九)という。本法は百貨店法(昭和三一法一一六)を廃止して制定されたものである。本法は、消費者の利益の保護に配慮しつつ、大規模小売店舗における小売業の事業活動を調整することにより、その周辺の中小小売業の事業活動を適正に確保することを目的とする(一条)。
大規模小売店舗とは、第一種大規模小売店舗(一の建物であって、その建物内の店舗面積の合計が三〇〇〇平方メートル以上あるものをいい、特別区・政令指定都市では六〇〇〇平方メートル以上あるもの)と第二種大規模小売店舗(五〇〇平方メートルを超え三〇〇〇平方メートル未満であるもの)を総称したものである。第一種については、知事を経由して通産大臣に、第二種については都道府県知事に届け出なければならない。この届出があった場合、通産大臣等は、当該大規模小売店舗における小売業の事業活動について調整が行われることがある旨の公示をしなければならない(三条二項)。この公示後七カ月間は、当該大規模小売店舗において小売業を営むことはできない(四条一項)。
大規模小売店舗において小売業を営もうとする者は、第一種にあっては通産大臣に、第二種にあっては都道府県知事に、開店日の五カ月前までに開店日、店舗面積等を届け出なければならない(五条一項)。この届出があった場合、通産大臣は、当該大規模小売店舗における小売業の事業活動がその周辺の中小企業の事業活動に相当程度の影響を及ぼすおそれがあると認めるときは、通産大臣は大規模小売店舗審議会の意見を聴いて、都道府県知事は都道府県大規模小売店舗審議会(設置されていない場合は、商工会議所等)の意見を聴いて、届出を受理した日から四カ月以内に限り(必要があれば八カ月間まで延長可能)、開店日を繰り下げまたは店舗面積を削減すべきことを勧告することができる(七条一項)、勧告を受けた小売業者がその勧告に従わない場合、中小小売業の利益が著しく害されるおそれがあると認めるときは、通算大臣は大規模小売店舗審議会の意見を聴いて、都道府県知事は都道府県大規模小売店舗審議会の意見を聴いて、届出受理の日から五カ月以内に限り、勧告の内容を実施するように命ずることができる(八条一項)。
大規模小売店舗において小売業を営もうとする者は、第一種にあっては通産大臣に、第二種にあっては都道府県知事に、開店日までに、閉店時刻(午後八時過ぎとする場合)、休業日数(年二四日未満の場合)を届け出なければならない(九条一〜三項)。この届出に関しては、通産大臣等は、開店日、店舗面積の場合と同様に、閉店時刻の繰り上げ、休日日数の増加を勧告し、または命ずることができる(九条四項)。
なお平成三年の改正では、<1>「商調協」を廃止し大型店の出店調整を大規模小売店舗審議会に一元化<2>調整期間を一年以内に短縮し「出店抑制地域制度」も廃止<3>第一種と第二種の境界面積を二倍に引き上げ<4>地方公共団体の独自規制の抑制などが定められた。
◆大陸棚〔国際公法〕🔗⭐🔉振
◆大陸棚〔国際公法〕
たいりくだな
→図 【海洋の国際法的規制】
本来は海洋地理学の用語であるが、国際法上では、「沿岸国の領海を越えて、その領土の自然の延長をたどって大陸縁辺部の外縁まで延びている海面下の区域の海底およびその地下(それが基線から測定して二〇〇カイリ未満のときは、二〇〇カイリまで)」をいう。
沿岸国は、大陸棚に対して、それを探索し、その天然資源を開発するための独占的な権利を持つ。第二次世界大戦後カリフォルニア油田開発のためのトルーマン宣言(一九四五・九・二八)以後各国により主張されたが、大陸棚条約(一九五八・四・二九)により国際法の制度として確認され、国連海洋法条約で拡大確定された。

→◆ポポロ事件〔事件判例 基本的人権〕🔗⭐🔉振
◆ポポロ事件〔事件判例 基本的人権〕
―大学の自治と警察権との関係
〈事件の概要〉 昭和二七年二月二〇日、東京大学内で学生団体・劇団ポポロによる演劇発表会が催されていたが、その会場内に私服警察官四名が警備情報収集活動のため入場している事実が露見し、うち三名の警察官が警察手帳を取り上げられ、学生らによって集団的暴行を受けることになり、被告人らは暴力行為等処罰法一条一項違反の罪科で訴追された。
その結果、第一審公判以後、大学における学問の自由・大学の自治と、治安情報収集活動を中心とする警察権行使との相克関係が、本件の中心的争点として話題を集めた。
〈解説〉 第一審東京地裁は、警察官の本件入場は長期にわたり恒常的になされてきた東京大学内における治安情報収集活動の一環としてなされたもので、学問の自由を中心とする大学の自治を尊重する憲法的秩序を乱す違法な行為であり、学生らによる集団的暴行による警察官の個人的法益の侵害と被告人らの自由権擁護行為の持つ法的価値の重大さは、被告人らの暴行の違法性を阻却するとして無罪の言渡しをなした。
第二審東京高裁も、右第一審判決とほぼ同趣旨で、被告人らの本件動機目的と行為被害の軽微性とを勘案し、超法規的違法性阻却事由を認め、原審判決は支持されるべき旨を判示した。
これに対し本件上告審判決は、それらと逆の立場で原判決および第一審判決を破棄し、次のように判示した。大学における学問の自由と自治は学術研究活動に対して保護されるところ、本件会場は一般公衆が入場券を購入して自由に入場することが許されていたばかりでなく、本件集会は真に学問研究と発表のためでなく、政治的社会活動とみるべきで、それゆえ大学の自治を享有しないものであるといえるとした。
そして、かような本件判決論理については、周知のように以後多くの論議を呼ぶところとなった(最判昭和三八・五・二二)。
◆大阪タクシー汚職事件〔事件判例 汚職〕🔗⭐🔉振
◆大阪タクシー汚職事件〔事件判例 汚職〕
―国会議員の職務権限の範囲
〈事件の概要〉 昭和四〇年衆議院大蔵委員会で審議中の石油ガス税法案を有利に導くべく、大阪タクシー協会長、現職国会議員らは大蔵委に属する同僚の議員に対し説得工作をなし賄賂として現金を提供した。本件は、昭和六三年四月一一日の最高裁第三小法廷決定により確定した。
〈解説〉 賄賂罪は、職務の公正につき社会の信頼を保つべきことを立法目的とし、この立場から収賄罪における職務行為の範囲を具体的職務権限に属さなくとも、その公務員の一般的職務権限に属するものであれば足りるとする考え方が判例の中に定着を見せている(最決昭和三七・五・二九、刑集一六巻五二八頁)。本件も、まさにこの論理に追尾した。被告人となった国会議員は、衆議院議員ではあるが大蔵委員会には所属していなかった。運輸委員会委員であった。しかし、本件決定は、衆議院議員として本会議における法案に対する審議・表決に参加する場面を前提に職務権限の範囲内にあったと判示している。
しかし、この論理は、判例の中にすでに確立をみせている「職務密接関連行為」論を否定するものではない。これをとらずとも本会議における議院活動を直接職務行為ととらえることが可能であったため、それに求めなかっただけのことと理解すべきであろう。
◆大統領の「独裁」?〔ロシアCIS法律話題学〕🔗⭐🔉振
◆大統領の「独裁」?〔ロシアCIS法律話題学〕
ロシアの最高権力機関である人民代議員大会は1991年11月に「経済革命の法的保障について」の決定を採択し,資本主義化の方向での一種の包括的な委任立法を大統領(エリツィン)に認めた。このような委任立法はロシア連邦の現行憲法および大統領法の規定を大きく超えるものであるが,新設の憲法裁判所がこの決定について違憲判断を下す可能性は少ない。共産党独裁は崩壊したが,新しい形をとった「忍び寄る独裁」の兆候が認められる。
◆大字と昔の登記・戸籍〔日本の法律今・昔〕🔗⭐🔉振
◆大字と昔の登記・戸籍〔日本の法律今・昔〕
昔の不動産登記法には,「金銭其ノ他ノ物ノ数量,年月日及ビ番号ヲ記載スルニハ壱弐参拾ノ文字ヲ用ヰルコトヲ要ス」といった規定があった。改ざんを防ぐためで,こういう画の多い大型の数字を大字といい,四以下を肆,伍,陸,漆,捌,玖,拾,佰,仟と書く。養老の公式令では,「凡そ簿帳・科罪…の類,数あらんは大字につくれ」と規定した。だから,正倉院にのこる当時の戸籍など,みな「正丁壱佰伍拾参」式に書いてあるわけだ。
◆大学生の制服と角帽〔法律学校の戸籍しらべ〕🔗⭐🔉振
◆大学生の制服と角帽〔法律学校の戸籍しらべ〕
いまでこそ大学生は制服・制帽を喜ばない。だが戦前はそうではなかった。戦時下の勤労働員などでも,彼らは工場服の下に学生服を着,角帽をかぶって離さなかった。その制服・角帽のはじめは,どうやら明治19年の帝国大学に始まるらしい。「制服を定むる事は当時末だ一般に其の例を見ざりしところ……帽子の形は欧米諸大学の礼服の帽子の形に倣ひしものにして,後遂に大学全般の用ひる所となるに至れるなり」(『東京帝国大学50年史・上』)。
自由国民社法律用語辞典に「大」で始まるの検索結果 1-35。