複数辞典一括検索+

対人地雷全面禁止条約🔗🔉

対人地雷全面禁止条約 (たいじんじらいぜんめんきんしじょうやく) Convention on the Prohibition of the Use / Stockpiling / Production and Transfer of Anti-Personnel Mines and on Their Destruction 対人地雷の使用、生産、廃棄目的の場合を除く委譲を即時禁止し、貯蔵は4年以内、また既敷設地雷は10年以内に廃棄することを定めた条約で、1997年12月3日にカナダのオタワで122か国によって調印され、99年3月に発効した。地雷はもともと対戦車兵器として開発されたが、60年代のベトナム戦争を通じて対人兵器としての残虐性が注目されるようになった。ゲリラという見えない敵にてこずったアメリカが、航空機や砲弾を用いて広域に、しかも敷設箇所が特定できない形で対戦車地雷とともにそれを防護する対人地雷を遠隔散布したことが大規模な対人地雷使用のきっかけであった。この対人地雷は敷設地が特定できないため除去が難しいうえ、戦闘終了後も数十年の長期にわたって殺傷能力を維持し、戦闘員と非戦闘員を区別なく無差別に殺傷し続けるからである。このような対人地雷は、その後もプラスチック製など小型軽量化が進んだこともあって70年代以降も地域紛争で用いられ、80〜90年代のカンボジアやボスニア、あるいはアフリカ各地の内戦で多用され、とくに一般人を殺傷するその残虐性に対する関心が急速に高まった。  地雷を規制しようという動きは1970年代から始まり、80年の「特定通常兵器(使用禁止)条約」のいわゆる地雷議定書(議定書?)は地雷の対文民、無差別使用を禁止し、とくに遠隔散布地雷は軍事目標を含む地域以外では使用禁止、同地域であっても敷設箇所の記録、自爆などの無害化装置の装着などが使用の条件とされた。しかしこの議定書の適用対象は国家間の武力紛争であったため、多発する人種、民族、宗教などに起因する内戦では規制効果をあげることはできなかった。この点を補うため、特定通常兵器条約の再検討会議は96年5月に地雷議定書の改正に合意した。これにより地雷議定書は内戦に適用できることになったほか、一般的な方法では探知不能の対人地雷の使用禁止、最終的に120日以内に99.9%が起爆不能になるようにすること、遠隔散布の場合は以上に加えて敷設地域を記録することなどが義務づけられた。  しかしこの改正は、改正発効前に生産された地雷に新たな無害化装置を付加するための猶予を最長で9年間も認めており、その間に新たな地雷が大量に敷設されるとの懸念はなお消えなかった。このため従来の使用の制限・禁止を基本とする戦時法(人道法)的ないしは軍備管理的なアプローチでは現状を改善できないとの思いからカナダなどが中心となって、対人地雷の全面禁止条約を求めるいわゆる「オタワ・プロセス」が1996年10月に始まった。このプロセスは、発言を認められた国際的な非政府組織(NGO)の積極的なキャンペーンもあって、当初の予想に反し急速に賛同国を増やしていった。とくに中心的な活動を行ったNGO「地雷禁止国際キャンペーン」がノーベル平和賞を受賞すると、それまでは慎重な態度をみせていたロシアや日本も条約支持に回った(日本は98年9月に批准)。この過程で条約内容もNGOの人道的な考慮が大きく反映するものとなった。逆にいうと現実の国際政治における安全保障上の考慮や条約の実効性が軽視される結果となったともいえる。たとえばアメリカは、このプロセスが大きな弾みをつけると参加に方針を切り換えたが、アメリカが求めた朝鮮半島の例外化、9年間の履行猶予などはまったく認められなかった。  こうして人道的な考慮を優先して対人地雷を全面禁止し、あらゆる例外を否定した点がこの条約の最大の特徴となった。これは、オタワ・プロセスにみられた条約形成の新しい方式を反映していた。すなわち、この条約は従来の多国間の軍縮・軍備管理取り決めを作成してきたジュネーブ軍縮会議で作られたものではなく、賛同する諸国だけで新たな交渉の場を設け、NGOの参加・発言を認め、そこで短期間のうちに作成されたのであった。したがって条約履行の実効性をどのように高めていくかという課題は今後に残された。地雷の主要な生産国、輸入国、敷設国に改めて加盟を促し、条約を早期に発効させることが最初の課題であった。また大まかにしか書かれていない事実調査団の派遣などの検証規定は、今後なんらかの補完が必要となるであろう。全面禁止を条約化、発効できたことは画期的であるが、実効性という意味では国際社会は対人地雷問題解決へ向けてスタートを切ったばかりという段階かもしれない。→地雷 →軍縮 →通常戦力の規制 →特定通常兵器使用禁止条約 <納家政嗣>

日本大百科 ページ 71109