組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法🔗⭐🔉振
組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法
(そしきてきはんざいしょばつはんざいしゅうえききせいほう)
組織的な犯罪に対処するため、組織的な犯罪の刑を加重し、また犯罪収益を規制する法律。正式には「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(平成11年法律第136号)という。組織的犯罪処罰法と略される。組織犯罪対策三法の一つとして「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(通信傍受法)」および「刑事訴訟法の一部を改正する法律」と同時に、1999年(平成11)8月に一括して制定された。組織的に行われた殺人等の処罰を強化し、また犯罪による収益の隠匿、収受ならびにこれを用いた法人事業経営支配を目的とする行為(いわゆるマネー・ロンダリング)を処罰するとともに、犯罪による収益の没収および追徴について特例を設け、さらに「疑わしい取引の届出制度」を設けている。
【法の概要】
この法律の概要は次のとおりである。
(1)まず殺人、逮捕監禁、強要、身代金目的略取、業務妨害、威力業務妨害、詐欺、恐喝、建造物損壊、常習賭博{とばく}、賭博場開帳等図利{とり}などの行為が、団体の活動として、当該犯罪の実行のための組織により行われたときは、通常の場合よりも重い法定刑を定めている。
また、団体に不正権益を得させ、または団体の不正権益を維持し、もしくは拡大する目的で、前記の犯罪(ただし常習賭博、賭博場開帳等図利、詐欺を除く)を犯した場合も同様である。
さらに組織的殺人予備罪の刑の加重、組織的営利目的略取誘拐予備罪の新設、組織的犯罪に係る犯人蔵匿等の刑の加重などを定めている。
(2)また犯罪収益の規制のためマネー・ロンダリング(資金洗浄)に対する2種類の処罰規定を設けている。その一つは、犯罪収益等を用いて株主になった者などが、法人等の事業経営を支配する目的で、株主等の権限またはこれに基づく影響力を行使するなどして法人の役員等を選任・解任し、または選任・解任・辞任させるなどした行為の処罰である。
もう一つは、犯罪収益等の取得・処分について事実を仮装し、または犯罪収益等を隠匿した行為の処罰である。
組織的な犯罪においては、犯罪が犯罪収益獲得の目的で行われ、その犯罪収益が将来の犯罪のために投資されたり、犯罪組織の維持、拡大に使われたり、事業活動に投資されると、正常な経済活動を阻害し悪影響を及ぼす。そこでこれを防ぐため犯罪収益規制を強化する必要がある、というのがその立法理由である。マネー・ロンダリング処罰規定は、この立法以前にも麻薬特例法において薬物犯罪に限って設けられていたが、組織的犯罪処罰法は組織的な犯罪にこれを拡大し、国際的要請に応えようとしたのである。
(3)さらに、犯罪収益等の没収・追徴に関する制度を整備している。その要点は、没収・追徴の対象財産の拡大と、没収・追徴の保全手続の設置である。そのうち前者としては、没収の対象を動産・不動産のみならず金銭債権にも拡大したことがあげられる。また後者の保全手続は、犯罪収益の前提犯罪またはマネー・ロンダリングに係る被告事件に関し、裁判確定前に、また公訴提起前においても、没収・追徴対象財産の処分を禁ずる保全命令を発することができるとする制度である。この制度も、麻薬特例法に設けられていたものを、薬物犯罪に限って組織的な犯罪に拡大したものである。
(4)さらに、「疑わしい取引の届出制度」の導入である。金融機関は、収受財産が犯罪収益財産等の疑いがある場合、または取引の相手方が犯罪収益等の隠匿等の罪にあたる行為を行っている疑いがあると認められる場合には、この疑わしい取引に関する情報を金融監督官庁等に届け出なければならない。この情報は検察官等に提供される。この制度も麻薬特例法から導入したものである。
【法の問題点】
組織的犯罪処罰法の妥当性については、強い疑問ないし危惧{きぐ}が識者から提示されている。その主要なものは次のとおりである。
第一に、組織的犯罪の刑の加重について、個人責任の原則からみて加重の理論的根拠について疑問があること、量刑実務との関連でみる場合、必要性および実効性について疑問があること、加重するにあたって採用している構成要件(たとえば「団体」「組織」など)が不明確なことなどである。
第二に、犯罪収益規制について「犯罪収益等」が広範囲にすぎること、「影響力を行使」「事実を仮装」などのあいまいな構成要件が多用され処罰範囲が不明確になっていること、そのため正常な経済活動が阻害される危険があることなどである。
第三に、犯罪収益等の没収・追徴の保全命令制度について、有罪確定前に刑の先取り的執行がなされる点で無罪推定の原則(被疑者・被告人は有罪判決確定までは無罪として取り扱わなければならない)に反する疑いがあること、無罪となった者に対し回復不可能な損害を与えることなどである。
第四に、疑わしい取引の届出について、金融機関に対する捜査機関の介入、干渉を強める結果となること、プライバシー侵害の危険が大きいことなどである。→組織暴力犯罪 →通信傍受法 →マネー・ロンダリング →麻薬二法 <小田中聰樹>
【本】法務省刑事局刑事法制課編『基本資料集・組織的犯罪と刑事法』(1997・有斐閣) ▽遠藤誠編著『解読・組織犯罪対策法』(1997・現代書館)
日本大百科 ページ 70416 での【組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法】単語。