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破産🔗🔉

破産 (はさん) 債務者が経済的に破綻{はたん}して、その弁済能力をもっては、総債権者に債務を完済することができなくなった状態、または、そのような状態に対する法的手段として、強制的にその者(破産者)の全財産を管理換価して、総債権者に公平な金銭的満足を与えることを目的とする裁判上の手続をいう。多数の債権者が競合する場合に弁済に充当すべき資産が不足するときは、特別の権利保護の方法が必要となるのであって、破産手続は、この要請に対応するものである。これに関しては、日本においても破産法(大正11年法律71号)が制定されている。→破産法 【破産宣告】 破産手続は、原則として債権者または債務者から、債務者の居住地などの地方裁判所に破産の申立てをしたとき(破産法105条〜107条、132条〜140条)に開始される。裁判所は、まず費用を予納させ(同法139条)、必要に応じて保全処分をしたうえで、原則として民事訴訟法にのっとって審理し(破産法108条)、破産原因がないと認めるときは申立てを棄却し、破産原因があると認めたときは破産宣告の決定をする(同法1条・126条・127条・141条参照)。また破産財団に属する財産が100万円に満たないと認めるときは、宣告と同時に小{しよう}破産の決定をしなければならない(同法358条)。これと同時に裁判所は破産管財人を選任し、債権届出{とどけいで}の期間、第1回の債権者集会の期日、債権調査の期日を定めてこれらの事項を公告し、所定の通知および登記・登録を嘱託しなければならない(同法142条〜144条、ほか)。 【破産開始後の手続】 債務者は、破産宣告と同時に破産者となり、破産財団所属財産に関して管理処分の権能を失うほか、旅行の制限、引致・監守などの処置を忍受し、説明義務を負うなど、身上に種々の拘束を受けることになる(破産法147条〜153条)。そこで破産宣告後に取得した財産の処分は自由であるが、破産宣告の時に所有していた財産は破産財団となり、破産管財人がその占有管理にあたることとなる(同法6条〜14条、185条〜192条)。  破産管財人は、原則として破産宣告当時まだ履行の終わらない双務契約の解除または履行を求めることができ(同法59条)、その他破産宣告の前後にわたって破産者のなした法律行為の効力などについては特別の規定(同法53条〜71条)によって定められている。破産宣告前の原因に基づいて生じた破産者に対する財産上の請求権は破産債権となり(同法15条〜46条)、債権者は所定の期日までに債権を届けいで、裁判所はこれに基づいて債権表を作成することとなる(同法228条〜230条)。  債権者集会は裁判所の招集によって、期日ごとに成立する組織(同法176条〜184条)であって、第1回の債権者集会では、まず破産管財人が調査の結果を報告し、債権者は所定の決議をしたり(同法193条・194条)、場合によっては監査委員の選任などをすることがある(同法170条〜175条)。  債権調査の期日またはその後の特別調査期日には、届出のあった債権の存否やその額などを調査し、右各期日に管財人または債権者から異議のあったときは、その債権者は異議申立て者に対し、債権確定の訴えを起こしてその確定を求めなければならない。もし異議申立てがなければ、その額および優先権は確定し、債権表に確定の旨を記載すると、その記載は確定判決と同一の効力を有することになる(同法231条〜255条、287条・289条)。  債権の調査が終わると、破産管財人は破産財団について換価手続をなし(同法196条〜207条、225条〜227条)、かつ破産者が破産宣告前に財産減少の行為をしたときは、否認権を行使して財産の回復を図り(同法72条〜86条)、なお第三者から取戻権の行使があったときは、破産財団のなかから破産者に属さない財産を別離し(同法87条〜91条)、担保権者から別除権の行使があったときは、別除弁済をなし(同法92条〜97条、195条)、また破産債権者から相殺{そうさい}権の行使があったときは、その債権者と破産者の債権を相殺する(同法98条〜104条)。また、破産財団のなかから財団債権を随時弁済する(同法47条〜52条)。 【配当、破産手続の終了】 破産管財人は以上の手続の途中でも配当表を作成して、適宜その破産財団を各債権者の債権額の割合に応じて中間配当することができ(破産法256条〜271条)、最後に残った配当財団のなかから、裁判所の定める破産管財人の報酬(同法166条)を差し引いた残額を債権額の割合に応じて債権者に最後配当をし、(同法272条〜280条、289条)、またその後に財産を生じたときは追加配当をする(同法283条〜285条)。配当が終わると、破産管財人は債権者集会において計算報告をなし(同法168条・281条)、この集会が終わると裁判所は破産終結決定をして、その旨を公告し(同法282条)、これで破産手続は終了する。そのほか、財団不足、総破産債権者の同意などによる破産廃止(同法145条・146条、347条〜357条)、破産者の申し立てた強制和議の認可(同法290条〜346条)などによっても終了する。 【免責・復権】 破産手続は、全債務の完済のためには足りない資産を換価して、総破産債権者に対しその債権額の割合に応じて弁済することを目的とした手続であるので、債権者は全額の弁済が受けられないことを前提としている。破産手続終了後にその債権の残額について、債権者による破産者の宣告後に取得した財産に対する権利実行を認めると、破産者の経済的再起は不可能になるおそれがある。そこで、1952年(昭和27)に英米法体系の破産制度を導入したのが、免責の制度(破産法366条ノ2〜366条ノ20)である。この制度では、破産者に一定の不誠実な行動のない限り、破産者の申立てにより裁判所は免責決定をすることになっている(同法366条ノ2.9・11)。免責の決定によって破産者は、破産債権者に対する残額債務についての責任を免れる(同条ノ12)。しかし公益的見地から、租税、不法行為に基づく損害賠償義務、雇人の給料などは免責されないし、破産者の保証人などの債務についても影響を及ぼさない(同条ノ12.13)。  また、破産宣告がなされると一定の公的資格につくことを制限される。それらに関しては、たとえば民法846条・847条・852条、信託法5条、公証人法14条、弁護士法6条、公認会計士法四条、弁理士法5条、国家公務員法5条、検察審査会法5条などの規定がある。合名会社や合資会社についても、その社員は破産によって当然に退社となるし(商法85条・147条)、株式会社の取締役も解任となる(商法254条3項、民法653条、商法254条ノ2)。しかし、破産という一事だけで破産者に対する公的資格その他を制約することは、破産者の再起を図るうえで障害となろう。そこで、1952年に、免責とともに、復権の制度が導入された(破産法366条ノ21〜373条)。免責の決定の確定などにより当然に復権し(同法366条ノ21)、また、復権の申立てにより復権の決定を得ることができる(同法367条)。また破産手続に関して、詐欺破産、過怠破産、監守違反、収賄、贈賄、説明義務違反などについては、罰則の規定が設けられている(同法374条〜382条)。  なお、破産に至る前の段階でこれを防止し、経済的再起を容易ならしめる制度として和議(破産外の強制和議)があり、とくに株式会社については会社更生法による更生手続がある。→和議 →会社更生法 →個人破産 <内田武吉>

日本大百科 ページ 50860 での破産単語。