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鉱床🔗🔉

鉱床 (こうしょう) mineral deposit / ore deposit われわれが日常生活でごく普通に使用している、金、銀、銅、鉛、亜鉛、錫{すず}のような有用金属の地殻内部の総量は膨大であるが、地殻構成物質としての岩石の平均濃度はきわめて低く、現在でも普通の岩石からこれら有用金属を経済的に回収することはできない。そして、科学技術の急速な進歩が予想される将来においても、これを期待することはまず不可能であろう。ところが、地殻の局所には、特定の金属や物質の濃度が普通の岩石に比べて異常に高い部分が存在する。われわれはこの地殻の局所に存在し、かつ有限の広がりをもったこの異常濃集部を鉱床とよび、これを構成する「特殊岩石」のうち、これから有用金属または物質を経済的に取り出せるものを鉱石とよぶ。 【鉱石と脈石】  鉱石は一般に、金属硫化物や酸化物など金属含有量の大きい鉱物の集合部と、無価値な鉱物の集合部とからできている。前者を構成する鉱物は鉱石(あるいは金属)鉱物、後者は脈石{みゃくせき}とよばれ、鉱石の金属含有量を重量パーセントまたはグラム/トンで示し、これをその品位という。  鉱床にはこのような金属鉱物の濃集によるもののほかに、石炭鉱床や石灰石鉱床のように特殊な固体物質からなるものがあり、また石油、天然ガス鉱床のように炭化水素類が流体として地層中に集積・貯溜{ちょりゅう}されたものがある。  現在でも、アフリカ大陸とアラビア半島に挟まれた紅海の海底の窪{くぼ}みや大洋の海嶺{かいれい}では多量の金属硫化物を含む堆積{たいせき}物が沈殿し、かつ陸域の地熱地帯でもこの現象が認められる。また、わが国の北海道の火山地帯(知床{しれとこ}半島)において、硫気孔から間欠的に硫黄{いおう}溶融体が流出し現世の溶流型硫黄鉱床を形成した例も知られている。しかし、世界の鉱床の大部分は、40億年以上にわたる地球がたどった長い歴史の道筋のなかで、火成作用、堆積作用、変成作用の地質的要因により形成された歴史的産物である。したがって、世界の鉱床の分布をみても、その著しい偏在性が認められ、鉱床の全地球規模での分布パターンは造山帯とかクラトンcraton(地殻の比較的安定な部分)といった地殻の大構造の要素と密接な関係をもっている。  鉱床もしくは鉱石の定義には、既述の特殊な地殻構成物質(特殊岩石)という地球科学的観点にたった基本的概念のほかに、それが利潤をもって開発、利用できるという前提がある。したがって、それらの定義は、人間社会における社会的要因による変数に左右される。たとえば金属や原油の価格変動、鉱床のもつ立地条件などの経済的要因や、開発技術や鉱石処理技術の発展がそれである。したがって、かつて鉱床としての地位をまったく認められなかったところが現在重要な鉱床となったもの、これとは逆に、かつて鉱床として盛んに開発されていたところが現在まったく顧みられなくなったもの、また高品位の鉱石の鉱床でありながら技術的問題が未解決なため未開発のまま放置されているものがある。  まず第一の例として、現在世界の銅供給源として重要な役割を果たしている斑岩{はんがん}銅鉱床があげられる。斑岩銅鉱床は大規模であるが、鉱石の銅品位が低く、しばしば「巨大低品位鉱床」とよばれている。この鉱床は19世紀にはまったく採掘されていなかったが、20世紀に入り比較的高品位の鉱床、あるいはその高品位部分から開発が進められ、1950年代以降は銅品位が0.5ないし1.0%の低品位部も鉱石として採掘されるようになった。その理由は、鉱床が巨大であるという自然条件に対応して、大型重機械の導入による大規模露天掘りを採用した結果、採掘費の低減が可能となり、十分利潤があげられるようになったからである。  第二の例として、わが国の金・銀鉱床があげられる。かつて江戸時代に隆盛を誇った佐渡金山では鉱夫の草鞋{わらじ}に金粒が付着したという伝説があり、当時の鉱石の高い金品位を暗示しているようにみえる。しかし現代の鉱床学の常識、あるいは佐渡金・銀鉱床を含めたわが国の金・銀鉱床の知識に照らしてみると、それは多分に誇張のようである。当時の江戸幕府の財政の基礎として金の確保が至上の命題であり、現在の社会ではとうてい考えられないような保安対策の無視や低賃金のもとで鉱夫を酷使し、これによってその開発が進められたようである。昭和10年代には、わが国の各地に多数の金山が存在し金・銀を稼行していた。しかし現在では伊豆半島や九州南部の南薩{なんさつ}地域でごくわずかな金山が操業を続けているにすぎない。これらのことは、斑岩銅鉱床の場合とは逆に、普通地下坑道による採掘法を用いる金・銀鉱脈の開発においては、自然条件が機械導入による合理化・近代化を阻み、また社会の発展・近代化による労働賃金の上昇により、かつて稼行された金・銀鉱床も利潤をもって開発することが不可能となったことを示している。  第三の例として、オーストラリアのマッカーサー鉱床があげられる。この鉱床は先カンブリア時代の古い地層中に賦存する層状の鉛・亜鉛鉱床であって、ほとんど変成作用を被っておらず、鉛・亜鉛をあわせると約15重量%の高品位を示すが、方鉛鉱・閃{せん}亜鉛鉱などの金属鉱物の粒子がきわめて小さく土状を示す。まだ工業的にそれらの単体分離に成功しておらず、鉛・亜鉛鉱石として利用されていない。 【鉱床の分類】  鉱床の分類は、まず人間社会の目的および産業における用途別などの立場から、金属鉱床、非金属鉱床、燃料鉱床に大別される。また、経済的・法律的立場(たとえば鉱業法による鉱種の区別)から金属鉱床は金・銀・銅・鉛・亜鉛・錫{すず}などに、非金属鉱床は硫黄{いおう}・石灰石・ドロマイト(苦灰石)・珪{けい}石・蛍石などに細分される。燃料鉱床はさらに有機燃料と核燃料に区分され、前者は石炭・石油・可燃性ガスに、後者はウラン・トリウムに細分されている。これらの分類は便宜的なものであるから、しばしばいくつかの問題がおこる。たとえば、ドロマイトは製鉄・製鋼工業やガラス工業で利用されており、ドロマイト鉱床は普通、非金属鉱床に分類されているが、これから金属マグネシウムを回収することもあり、この場合には金属鉱床に入る。核燃料鉱床の主力であるウラン鉱床は、人によっては金属鉱床に分類している。  鉱床の本質を、鉱床構成物質である鉱石を「特殊岩石」とする地質的視点から眺めるとき、鉱床の成因も岩石の成因と共通な要素がある。このため鉱床の成因形式による分類は、岩石の成因による三大別に倣って、火成鉱床、堆積鉱床、変成鉱床の三つに大別することが現在一般に行われており、これらはさらに順次細分されている。また、鉱床はこれを取り囲む岩石(母岩)との成因的関係に基づいて、同生鉱床、後生鉱床に大別することがよく行われている。  鉱床の成因形式による分類は、16世紀の中ごろドイツの鉱山学者アグリコラが最初に行って以来多くの研究者により試みられてきたが、その分類は各研究者によりかなり異なったものが示されている。それは各研究者ごとの鉱床の産状に対する認識、地質現象の理解や解釈の仕方、および鉱床生成の諸条件・要因における重点の置き方の相違によるものである。すなわち、アメリカの鉱床学者リンドグレンによる分類は鉱床生成の深度に基準が置かれ、またスイスの地質学者・地球化学者ニグリの分類は、イギリスの岩石学者ケネディW. Q. Kennedyによる火成活動の火山、深成の二系列を目安としている。またドイツの鉱床学者シュナイダーヘンH. Schneiderh?hneは、成因を同じくする鉱石中の鉱物共生の特徴を基準にして地殻の構造発達史の基礎にたって鉱床の成因分類を行った。 〔火成鉱床〕 マントル上部あるいは地殻下部で発生したマグマ(珪酸塩溶融体)は地殻上部に上昇貫入し、その一部は陸上もしくは水底に流出する。この間、冷却の過程で多種な鉱物を晶出するとともに、熱や水、炭酸ガスを主とする流体を周囲に放出する。火成鉱床はこのようなマグマ活動(火成活動)に関連した地質的要因により生成した鉱床であって、正マグマ鉱床、ペグマタイト鉱床、気成鉱床、接触交代鉱床および火山噴気鉱床に細分される。 (1)正マグマ鉱床 正マグマ鉱床は、マグマの冷却の過程で不混和による液相分離もしくは結晶分化作用と晶出した結晶の重力沈降が金属成分の濃集に寄与した鉱床である。ダイヤモンドを含みパイプ状形態を示すキンバレー岩は、結晶とガスに著しく富んだ「マグマ」として100〜200キロメートルの深さから上部マントルと地殻を通り抜け地表に達したダイアピルdiapirとよばれる地質構造であると考えられているが、これも正マグマ鉱床に入れられている。アルカリ岩複合岩体に伴うカーボナイトは炭酸塩を主とする溶融体から晶出したと考えられており、このなかのニオビウムや希土類元素を含む鉱床も正マグマ鉱床に分類できる。 (2)ペグマタイト鉱床 マグマの固結が進み、晶出した鉱物が増えるにつれて、マグマの中に含まれていた水・炭酸ガスを主とする揮発性成分がしだいに残存マグマ(残漿{ざんしょう})に濃集し、流動性に富むようになり、圧力も上昇する。この時期をペグマタイト期とよび、希有元素が揮発性化合物として残漿中に濃集する。このような流動性に富んだ残漿が地殻の比較的深部の割れ目に侵入し徐々に固結して生じたのがペグマタイト鉱床である。 (3)気成鉱床 ペグマタイト鉱床中でマグマの固結がさらに進み、珪酸塩鉱物の晶出が終わると、揮発性成分が最大量に達し、有用金属を溶かした高温流体の圧力は最大になる。このようにして生じた高温流体が地殻の割れ目に侵入して生成したのが気成鉱床である。なお、最近では気成鉱床を独立に分類しないで、熱水鉱床の高温型に入れる傾向がある。 (4)接触交代鉱床および火山噴気鉱床 マグマが地殻の比較的上部に貫入した場合、これから放出された高温流体が周囲の岩石と反応する。とくに岩石が石灰岩、苦灰岩のような炭酸塩岩の場合には、これが吸取紙の役割を果たし、スカルンを伴う塊状の鉱床を生成する。これが接触交代鉱床であるが、近来これをスカルン(型)鉱床とよぶ傾向がある。  気成期を過ぎてさらに温度が降下すると、流体はさまざまな金属元素、非金属元素を溶かし込んだ熱水(溶液)となる。この時期を熱水期とよび、この時期にできた鉱床を熱水鉱床という。この熱水はそれ自身有用金属を含むだけでなく、割れ目を通って上昇する際に通路の周囲の岩石からさまざまな成分を溶脱し、また地下水と反応をおこしていろいろな有用鉱物の鉱床を生成する。  マグマが深度300〜1000メートルの地殻の浅い所で固結すると、この亜火山型貫入体の周辺は、最初マグマの熱で高い温度になるが、急激に温度が降下し、温度勾配{こうばい}が急になる。したがって、このような浅い場所では高温型と中・低温型の熱水鉱化作用が交錯して行われる。この現象をテレスコーピングtelescopingといい、多金属鉱床が形成される。  マグマが地表あるいは海底に噴出した場合、この火山活動に関連して生じたさまざまな有用金属・非金属を含む高温流体(噴気)が空気または水の中に放出される。火山噴気鉱床はこのような火山噴気により生成したもので、陸上火山噴気鉱床と海底噴気堆積{たいせき}鉱床の二つに細分される。前者の例として昇華型硫黄鉱床、後者の例として黒鉱(型)鉱床があげられる。黒鉱(型)鉱床の一部は堆積構造をもつだけでなく、泥岩など砕屑{さいせつ}性堆積物を挟み、火成鉱床と堆積鉱床の複合型とみなしうるが、他の一部は後生鉱床の性格をもち、広義の熱水鉱床に入れられる傾向がある。  広義の熱水鉱床や接触交代鉱床においては、鉱床生成の直前・直後もしくは全期間にわたって、熱水作用により鉱床周囲の母岩の組成鉱物が新たな鉱物に置き換えられ、もとの岩石とまったく異なった鉱物組成をもつようになる。このような過程を母岩の変質といい、グライゼンgreisen化作用、粘土化作用、珪化作用はその代表的なものである。このような母岩の変質は、温度、圧力(深度)、熱水の化学的性質など鉱床生成時の物理化学的条件を敏感に反映するだけでなく、一つの鉱床において鉱物組成を異にし、特徴ある変質帯がこれを取り囲んで発達するので、鉱床探査の指標に利用される。  近来の安定同位体地球化学は著しい発展を遂げ、これを基にした陸水・温泉や現世の地熱地帯の熱水系の研究が進んだ。そして、水素、炭素、酸素、硫黄の安定同位体の知識が鉱床学の分野に広く取り入れられるようになった。その結果、鉱床生成に関与した熱水の起源の問題が論議されるようになり、熱水はマグマ水ばかりでなく、地下深部に浸透した地表水や、地層中に閉じ込められた化石水が、マグマ活動により加熱されたものもあることが、しだいにわかってきた。  すでに1941年シュナイダーヘンは二次熱水鉱床の概念を提示したが、近来マグマ源鉱床の存在は否定できないが、すべてのマグマが、はたしてつねに鉱石成分元素の供給者であったかどうかの疑問がもたれるようになった。すなわち、地殻内部に発生した熱水はもともと不毛であったが、これが上昇の過程で、周囲の岩石から鉱石成分を選択的に溶脱して取り込み、これから鉱石を沈殿しうる場合があるとの考えが強まり、熱水系における流体と岩石との相互作用が重視されてきた。  既述の火成鉱床は地球内部の内因的営力により形成されたもので内生鉱床ともよばれる。これに対して堆積鉱床は、地殻と水と大気が相接する地球の表層で、地表水、氷雪、空気、地下水など水を主とする営力によって形成された鉱床であって、地殻外部の働きが支配的であるから外生鉱床ともよばれる。この外因的営力のうち、風化、侵食、運搬、沈積の諸作用を含む堆積作用と、これに続く堆積物を固結して岩石に変える続成作用は、複雑な現象である。 〔堆積鉱床〕 堆積鉱床は、層状をなして広い分布を示し大規模な鉱床をつくる例が多く、また最近、これまで火成鉱床と考えられていた重要な鉱床も同生堆積鉱床とされるようになり、その成因も多岐にわたり、まだ十分な系統的分類はなされていない。ここで鉱床学者立見辰雄{たつみたつお}による分類に従い、これを風化残留鉱床、化学的沈殿鉱床、有機的沈殿鉱床、機械的堆積鉱床に細分する。 (1)風化残留鉱床 この鉱床は、主として化学的風化作用により形成された鉱床である。風化作用はとくに気候条件に支配されるので、これに基づいていくつかの型に分けられている。この代表的なボーキサイト鉱床は、熱帯ないし亜熱帯の多雨湿潤な気候条件のもとで、岩石のアルミニウム以外のほとんどすべての成分が溶脱して生じたものである。 (2)化学的沈殿鉱床 この鉱床は、風化作用によって水に溶解した物質が移動して他所に運ばれ化学作用により沈殿したものであって、これらの作用によって生じた鉱床を単に鉱層ともいう。20億年前に酸化鉄の大量の沈殿により生じた縞{しま}状鉄鉱層がその代表的なものである。また、安定大陸の内陸湖やその周辺の潟の濃厚塩水から蒸発・乾溜{かんりゅう}によりできたカリ塩、岩塩、硬石膏{せっこう}のエバポライトevaporite鉱床もこのなかに入る。 (3)有機的沈殿鉱床 この鉱床の代表的なものが石灰石鉱床である。石灰質堆積物はエバポライト(蒸発岩)として化学的沈殿により生成するが、多くの場合、紡錘{ぼうすい}虫、サンゴ、貝類、藻類など石灰質生物の遺骸{いがい}が炭酸カルシウムの供給源となったものである。地下資源に乏しいわが国において、石灰石鉱床は量・質ともにわれわれが誇るただ一つの鉱物資源であって、現在大規模な露天掘りによって大量に石灰石が採掘されている。 (4)機械的堆積鉱床 この鉱床は、岩石の風化作用により母岩から分離された、化学的に安定で比重の大きい特定の鉱物が、水や風の営力で岩石・鉱物の破片とともに現地から運搬され、さらにこれら営力の淘汰{とうた}作用により機械的に濃集した砂礫{されき}鉱床で、砂{さ}鉱床または漂砂鉱床とよばれている。マレー型錫{すず}鉱床の一部は、旧河道に堆積した砂礫層の下部に錫石が濃集してできた河成漂砂鉱床であり、日本海の海岸地方にある砂鉄鉱床は海浜漂砂鉱床である。 〔変成鉱床〕 地殻の内部における変成作用には、広域変成作用と熱変成作用とがある。既存の鉱床を含む岩層が広域変成作用を被った場合、原岩層は片理の発達した結晶片岩に変わると同時に、鉱床もこれに巻き込まれ、圧延されて片理と調和的な層状の形態をとり、また再結晶の結果、構造・組織がすっかり変わってしまい、鉱石にも微褶曲{しゅうきょく}構造や片状構造が発達して、もとの鉱床の姿は打ち消されてしまう。このため、もとの鉱床が同生の鉱層であったのか、後生の交代鉱床であったのか判断がつかないことがあり、研究者により、もとの鉱床の成因について意見が分かれてくる。別子{べつし}式層状含銅硫化鉄鉱床はその例である。このような鉱床を広域変成鉱床という。  鉱床生成後に、この付近に火成岩が貫入すると、マグマから放出される熱のため火成岩体の周囲の岩層は熱変成作用を被り、これを取り囲んで鉱物組成が改変された接触変成ハロが発達する。鉱床がこれに取り込まれると鉱物組成が変わってくる。足尾{あしお}山地の焼野・加蘇{かそ}型のマンガン鉱床がこれにあたり、熱変成鉱床あるいは接触変成鉱床といい、これと広域変成鉱床を一括して変成鉱床という。 【鉱床の形態と探査】  鉱床の形態と内部構造についての知識は、鉱床の成因を考察するためにたいせつであるだけでなく、鉱床の探査や採鉱法の決定にたいへん役だつものである。鉱床はいろいろな地質的要因で生成されるので、その規模、形態、内部構造も変化に富む。形態から分類される例として、岩石の割れ目を満たす脈状、岩石を交代した不規則な形を示す塊状、一方向に伸びたパイプ状、岩石の層理・片理の面構造に平行に発達する層状、岩石全体に微細な鉱石鉱物の集合体が散点する鉱染状などがある。  鉱床の構造から分類される例は次のとおりである。(1)さまざまな鉱石、脈石{みゃくせき}、中石{なかいし}など大きさの違ったものが不規則に混ざり合った塊状構造、(2)鉱脈に特有な構造でいろいろな鉱物が縞{しま}状に配列する縞状構造、(3)多角形岩片、または鉱石の破片を鉱石や脈石などで膠結{こうけつ}した角礫{かくれき}状構造、(4)鉱床内の大小さまざまな鉱物の自形結晶で縁どられた空洞の存在を示す晶洞構造、などである。  鉱床は地殻の局所に賦存し有限の広がりをもった再生不可能な資源であり、かつ汎{はん}地球的にみると偏在する。したがって、採掘されている一つの鉱床は減ることがあっても増えることがない。隆盛を極めた鉱山も油田も、人間の一生と同様にやがて老衰し、ついに鉱山や油田としての生命を失ってしまう。わが国でも、新潟県佐渡、兵庫県生野{いくの}、栃木県足尾{あしお}、愛媛県別子{べつし}などのように江戸時代から昭和年代まで掘り続けられた鉱山があった。しかし、つまるところ、鉱床が大規模なことと、新鉱体の発見・捕捉{ほそく}により生命が長引いただけで、現在その大部分は鉱山としての姿を消してしまった。  人類は有史以前からいろいろな形で地下資源を利用してきた。そして人類の鉱物資源の消費は18世紀の産業革命以来しだいに増加の傾向をたどったが、第二次世界大戦後の急速な工業化の進展による世界経済の拡大に伴い、その消費は加速度的に増大した。既開発の諸鉱山では既存鉱量の減少が目だち、鉱床探査による新たな鉱量の獲得が切実な問題となっている。また、このような既知鉱床の周辺の局所探査だけでなく、新たな鉱床を処女地に探し求める必要に迫られてもいる。  かつて、まだ科学の発達していないころ地下資源を探す方法はきわめて原始的なものであった。魔術師が占い棒でこれを探し求めたり、いろいろな迷信を頼りにした根拠の薄いものであった。しかし、地下資源について科学的知識のなかった人々も経験によりしだいにいろいろな事実を学び取るようになり、鉱床を探し当てたこともあった。実際のところ、鉱床の存在が予想できる地域(鉱化帯)にはすでに昔の人々が鉱床探査を試みた形跡があり、昔の旧坑をみても、現在の技術に比べると幼稚ではあるが、りっぱな鉱山技術が発達していたことがわかる。 【資源開発の将来】  科学および科学技術の進歩した現在では、地質学、地球物理学、地球化学など地球科学の分野における諸科学の知識や試錐{しすい}工学など近代技術を基にして、鉱床探査の方法も著しい進歩を遂げた。既開発の鉱山や油田が年とともに老衰していくにもかかわらず、世界の金属や石油の生産が年々増加していくのは、新たな鉱床が探し当てられ次々と開発されるからである。しかし世界の地下資源には限りがある。  わが国の第二次大戦後の復興は、エネルギー源としての石炭の傾斜生産と、農業肥料の基となった硫化鉄鉱の生産に負うところが大きく、その後の経済的発展は石油エネルギーに依存した。そして、現在わが国は世界屈指の資源消費国になった。今後さらに世界の発展途上国の近代化が進むとともに、地下資源の消費はますます増大するに違いない。人類は早晩、金属、非金属、エネルギーを問わず地下資源の枯渇という危機に直面することは必至である。したがって、今後は大洋底のマンガン団塊や金属濃度の高い海底堆積{たいせき}物だけでなく、海水そのものからの有用元素の回収に迫られるであろう。「かつての世界の政治・経済は地勢図を中心に回転したが、いまや地質図を中心に回転する」ということばは、まさに世界における地下資源の偏在性を象徴的に表している。われわれ日本人は資源消費国の国民として、今後、地下資源の消費の節約、合理的利用に努力するとともに、鉱床探査・開発技術だけでなく、海洋資源を含めた資源問題の研究を進めるべきである。  また一方では、われわれは、地下資源の地球上における偏在性を正しく認識し、優れた国際感覚の育成により国際間の協調を主軸とし、世界各地の地下資源の探査・開発に寄与する資源政策を確立すべきである。→鉱山 →鉱物資源 →地球 <今井直哉> 【本】W. Lindgren : Mineral Deposits (1933, McGrau Hill Book Co., New York) ▽H. Schneiderh?ne : Lehrbuch der Ertzlagerst?ttenkunde (1941, Springer Verlag, Stuttgard) ▽渡辺武男編『鉱床学の進歩』(1956・冨山房)

日本大百科 ページ 21793 での鉱床単語。