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ガラス🔗🔉

ガラス (がらす) glass もっとも簡潔な定義は「固体状態になった過冷却液体」で、同じく固体である結晶と対比される。アモルファスなど近縁の名称があるが、ガラス転移点Tg(ある狭い温度域を境として熱膨張係数などの温度係数その他の物理量が急激に変化する、この温度域のこと)が観測されるものだけに限定するのが妥当であろう。さらに具体的に「透明か半透明で、主としてケイ酸塩(ホウ酸塩やリン酸塩を混じえていることもある)の非晶質、等方性固体」ということもできる。  ガラスは透明で硬く、清潔な雰囲気のなかにいつまでも美しく輝き続けるという印象に加えて、一瞬にして砕け散ってしまうはかなさも備えている。4000年近く人類の文化とともに育ってきたガラスに対する人々のこのような印象は抜きがたい。しかし、いまやガラスは、防弾ガラス、プラスチックの定規のように曲がるガラス、電気を通すガラス、太平洋の底を横切ってアメリカと日本とを光通信で結ぼうとしているガラス繊維(グラスファイバー、ガラスファイバーともいう)など、その発展に大きな飛躍がみられる。まずその軌跡から眺めてみる。 【歴史】 地球上に初めて現れたガラスは自然がつくりだした黒曜{こくよう}石である。火山から噴出した溶岩が固まると結晶質の岩石になるが、急冷されるとガラス質になるものがある。鉄、マンガンなどを含んでいるから色は黒いが、光沢があり、割れやすく、薄い部分は光にかざすと深い紫色に見えたりする。のちに地上に出現した原始人は、鋭い破片を武器や工具に、形のよいものを装飾に使った。  ヨーロッパには紀元前1500年ごろのエジプト王朝時代のガラス器などが残っているが、人類がいつからガラスをつくり始めたかは正確には知られていない。しかしそれ以前から焼物のタイルがつくられていたから、その釉薬としてガラスに似た物質を扱っていて、それから発展したと考えられる。ガラスとそれをつくる技術とは地中海沿岸からシルク・ロードおよび海路で中国に渡り、約2000年前に日本へ渡来したらしい。正倉院のカットガラス〔白瑠璃碗{るりわん}〕はその一例で、同型のものがシルク・ロードに沿って発見されている。エジプト時代にはるつぼがなかったので、棒の端に砂と粘土の塊をつくり、その表面にすこしずつガラスを溶かしては重ねる操作を反復して成形し、細工など施してから冷ましたのち、砂や粘土をかき出してガラス器とした。溶融も不完全で、泡や不純物も多く、黄、緑、青、赤などの色模様は美しいが透明なものは少ない。やがて紀元前20年ごろに軟らかいガラスを竿{さお}で吹いて中空の器をつくる技術が現れ、また、ガラスを溶融するための耐火物ないしはるつぼの急速な発達もあって、ガラスは一挙に人間の生活に浸透していった。そして3世紀末には窓ガラスが現れている。寺院が色鮮やかなステンドグラスで飾られたことが9世紀末に記録されているが、現存する最古のものは12世紀のものである。他方、中国では紀元前数世紀にすでにガラス玉などの装飾品が現れている。  日本の弥生{やよい}、古墳時代の出土品にみられるガラスの勾玉{まがたま}や管玉{くだたま}などの多くは中国から渡来したものであるが、弥生中期には国内においてもつくられ始めている。しかしこれも平安時代には衰えて、長い空白ののち、16世紀ごろから、スペイン、ポルトガル、オランダなどからの鏡、望遠鏡、コップなどの流入が始まり、これらの刺激によって18世紀以降、大坂、江戸、ついで薩摩{さつま}などでふたたびガラスの生産が始まっている。  ヨーロッパでは12世紀ごろからベネチアのガラス工芸が急速に発展しベネチアンガラスとして数百年にわたる隆盛のなかに、色彩豊かな種々の装飾的技法を生み出し、その影響は北欧からボヘミアまで、ヨーロッパ全域に及んだ。ヨーロッパと異なって、平安時代以降の中断のために、日本では生活のなかにガラスの歴史のにおいが薄く、現代でもなお、陶磁器、漆器に比べて家庭内でのガラスの地位はけっして高いものではない。 【ガラスの一般的な特徴】 多くのガラスには、〔1〕透明で等方性、〔2〕硬くもろい、〔3〕水に溶けず、変質しない、〔4〕耐熱性であるが温度の急変に弱い、〔5〕電気の絶縁体、〔6〕成形、加工しやすい、〔7〕組成に化学量論的制約がない、などの性質があるから、窓ガラス、瓶、レンズ、ファイバー、蛍光灯、テレビのブラウン管、コーヒーサイフォン、ビーズなど、さまざまな形となって、あらゆる方面で使われている。  このなかで特筆しなければならないのは〔6〕の性質で、一見して飴{あめ}細工を思わせるが、実はそれよりもはるかに自由である。その秘密は、同じ固体でも結晶と異なり融点がないから、液体―過冷却液体―ガラスの間で、すべての性質が温度変化に伴って滑らかに連続的に変わる。物質の流れにくさを測る粘性率(ポイズ、記号はP)が、溶融温度の100Pくらいから常温では1018Pまで極端に変わるから、その中間領域でいろいろな成形が可能である。また〔7〕の性質のため、条件さえ適合すれば、ほとんどすべての元素をガラスとして取り込む特性があるので、原子炉の放射性廃棄物なども適当な化学組成に変えて安定なガラスにしてしまえる。  以上のように、ガラスはその歴史も古く、また日常生活はもとより科学、技術の方面まで広く利用されているにもかかわらず、その学問的な本質については不明な点も多く、興味ある物質といえる。 【種類と性質】 日常使われている主要なガラスの化学組成とその特性をみてみると、一般の傾向として二酸化ケイ素SiO[▼2]、酸化アルミニウムAl[▼2]O[▼3]の含有率の大きいものは使用温度限界が高くなるが、酸化ナトリウムNa[▼2]O、酸化鉛PbOの多いものは逆に低くなる。ガラスの粘度が10[▲13]Pになる温度(徐冷点)が高いほど使用温度限界も高い。温度の急変に対しては、熱膨張係数が低いガラスほど強いから、一般のガラスが1000万分の1単位で90付近であるのに対して、フラスコやコーヒーサイフォンなどのガラスでは30近いものが多い。硬さはほぼ使用温度限界の値に対応しているが、機械的強度は微小の傷その他の要因があって簡単には表されない。ガラスは水や酸・アルカリに対してきわめて強いが、薬品瓶やアンプルなどではわずかな溶解量が問題となるので、化学的耐久性として測定され、溶出量の少ないものほど耐久性が大きい。 【機械的強度】 ガラスの破壊強度は、その硬さに比較すると異常に低いだけでなく、測定値のばらつきも大きい。[$00053178000501→図A$]に示す通常のガラスbでは一平方センチメートル当り100〜3000キログラム、つまり30倍くらいの変動がみられる。一平方センチメートル当り700キログラム付近の印は通常のガラスの実用的強度である。しかし強化ガラスcやdのガラスはそれよりはるかに強く、理論強度の一平方センチメートル当り20万キログラムに近いものもあり、直径五マイクロメートルのガラス繊維の強度はスチールよりずっと強い。ガラスの強度にこのような極端な開きが出るのは、〔1〕ガラスがきわめて硬い物質であって、そのため、〔2〕表面の傷によって強度が極度に低下するためである。この傷は深さ1マイクロメートルくらいのものが大半で、この程度のものは手の指で軽く触れても容易に発生する。[$00053178000501→図A$]のbはこのような傷を無数にもつ通常のガラスで、まったく傷がないと仮定した理論強度に比べ、強度は100分の1から1000分の1くらいに低下している。さらに、〔1〕表面の傷、〔2〕なまし不良などによる残留応力、〔3〕大気中の高い湿度、とが共存すると、ガラス製品が使用中または保存中に突然割れることがある。これは、湿気による傷の内面に対する侵食が、残留している引張り応力によって加速されるためで、応力集中が大きいほど侵食が進むという悪循環によって傷の先端がしだいに鋭くなり、応力集中が限界に達した時点で破壊する。この遅れ破壊とよばれる現象は高温多湿の日本などでは注意する必要がある。 【ガラスの構造】 固体のもっとも安定な状態は原子または分子が規則的に整然と配列した結晶で、それがエネルギーのもっとも低い平衡状態であることを考えると、ガラスでは配列の規則性が低く、エネルギーもやや高い非平衡状態にあることになる。[$00053178001001→図B$]に、実用ガラスの主成分である二酸化ケイ素が単独で結晶(クリストバライト)になった場合と、ガラス(石英ガラス)になった場合の原子配列(構造)の相違を二次元的に図示した。両者とも共通の構造単位をもっているから、直径七オングストローム(Å)程度の領域では両者間に差はみいだせないが、30Åほどの領域を比較すれば差がみられる。ただし石英ガラスの構造図にも異論があり、このような原子配列が連続しているのではなく、結晶と似た構造の20Åくらいの微小領域が散在しているとの説も、最近では2、3にとどまらない。以上は二酸化ケイ素単一成分系のガラスの構造であるが、酸化ナトリウム、酸化カルシウムなどを含む多成分系ガラスに関しては、その構造に対してさらに不確定な要素が増え、厳密に統一された結論はない。ただし、ナトリウムなどの陽イオンの存在点が古典的構造論の示すような無規則なものではなくて、結晶構造に準じた配列をとっていることが実証されている。  [$00053178001101→図C$]は、比容(物質1グラム当りの容積)の温度に対する変化から同一組成の結晶とガラスを対比したもので、融液を冷却する場合に、冷却速度が十分に遅いとf―e―d―aの経路をたどって比容aの結晶となるのに対して、冷却速度が速いとe―c―bと過冷却状態、転移点を経て比容bのガラスとなることを示している。室温でガラスの比容bが結晶の比容aより大きいことは、[$00053178001001→図B$]のような同一構成単位の規則的配列(1)と不規則な配列(2)とから容易に理解できよう。なお、ガラスと結晶とがガラス転移点以下でほぼ等しい熱膨張を示すのは、温度変化に対して原子配列がそれぞれ相似性を保っているからで、転移点を超えた過冷却液体では構造の相似性は崩れ、たとえば温度上昇に伴ってc点のガラス構造からe点、f点の融液の構造へと連続的に構造が変化している。厳密には冷却速度に従って転移点は温度軸上で左右に動き、その結果、b、cは上下に平行移動する。同一のガラスでも熱履歴によって密度、屈折率などに小差を示すのはこのためである。  ある種の多成分系ガラスは高温では均質な融液となるにもかかわらず、温度が下がって粘度が増した段階で、組成の異なる2種の液相(液体)に分解する。この現象を分相といい、分解した相の大きさが数十Åくらいでは肉眼的に検知できないが、可視光線の波長に近い大きさに達すると光の散乱によってタンパク光が現れる。たとえば二酸化ケイ素57.9%、酸化ホウ素31.6%、酸化ナトリウム10.5%付近の組成のガラスは、582度C付近では処理条件によって、分離した二相が互いに複雑に絡み合っている。量の多い相は高ケイ酸質で不溶性であるが、少ないほうの相はホウ酸ナトリウム系で水によく溶ける。この分相したガラスを薄い塩酸に浸すと、片方の相が溶出して、残ったガラスには直径20〜100Åほどの貫通孔が無数にでき、その孔の壁面の面積は1グラムのガラスについて200平方メートルにも達する。このような多孔性ガラスは吸着に、酵素固定用に広い用途をもっている。 【ガラスの製造】 どのような用途のガラスを大量に製造しているかによってガラス工業は分類できる。用途もきわめて多様で、それぞれ異なった要求に対応できるよう、耐熱性、温度急変や化学薬品に対する強さ、成形加工の容易さ、各種の色調を与える、などのため、ガラスの化学組成もさまざまである。しかし、社会生活の変化にしたがって、ガラスに対する要求はつねに進むので、絶え間なく新しい化学組成のガラスをつくりだし、あるいは生産性をあげるため、化学蒸着、ゾル‐ゲル法、直接通電式電気溶融など、新しい製造技術が生まれてきている。この項では、古くから行われている溶融法によるガラス製造について記す。→ガラス工業 〔溶融〕 実用ガラスの主要原料は珪砂{けいさ}、珪石が主体で、ソーダ灰等、数種類を添加し、さらに目標とするガラスそのものや、それに類似したガラスのくず(カレット)を数十%加えたものを混合して原料とする。小規模では、100〜200キログラム入りのるつぼで、大規模な連続溶解では、一端に原料の入口、他端に溶融ガラスの出口をもつ、容量10〜1000トン程度の長方形のタンク炉を用い、1400〜1600度Cで溶解する。るつぼの場合には、鉄竿{ざお}でガラスの適量を取り出し、空中で、または金型の中で口で吹いて成形し、あるいは機械でプレスする。前者を宙吹き法、後者を型吹き法という。あいたるつぼには原料を入れ、繰り返し使用する。タンク炉の場合には一般に24時間当り数トンから数百トンのガラスを連続的に取り出し、数台の自動機械にかけて成形する。たとえば単純なコップ(タンブラー)は一台の機械で24時間に約10万個つくられ、タンク炉は数年間、休むことなく運転される。 〔成形〕 ソーダ石灰ガラスに例をとれば、1200度Cから800度Cまで冷却する間にガラスの粘性率は1000倍にも増大するから、製瓶の場合にもほぼこの温度範囲を利用し、金型に投入した軟らかいガラス塊が二段階の成形で急激に冷却し、数秒間で完成品に達して取り出されるよう調節される。なお、板ガラス、ガラス繊維についてはそれぞれの項目を参照。→板ガラス →ガラス繊維 〔加工〕 〔絵付け〕 コップ、瓶などには有機顔料、無機顔料、金属塩などでスクリーン印刷などを利用して模様をつけ、有機顔料以外は500度C以上で焼き付けるので、耐久性が高い。 〔コーティング〕 瓶の表面の摩擦を減らし、微細な傷に基づく強度劣化を防ぐ目的で塩化スズなどの溶液を成形後の瓶に噴霧し、なまし工程を利用して焼き付けたり、また炭酸飲料瓶の破片の飛散を防止する目的で、有機高分子材料の被膜をつけたりすることが行われている。また、光の反射による損失を防ぐため、フッ化マグネシウムその他の薄膜を真空蒸着などによってレンズ表面につけることも広く行われており、効率をあげるため多層膜としたものをスペクトラコーティングとよぶことがある。 【新しいガラス】 古くはるつぼ溶融でつくられ始めたガラスも、特殊ガラスや光通信用グラスファイバーのような新しいガラスが開発されるたびに、新しい合成法が考え出されている。これらの非溶融法による新しい方法のうち、ゾル‐ゲル法とよばれる金属アルコキシドを原料とする方法は、溶融法に比して処理温度が低いこと、るつぼからの不純物混入がないことなどにより、新しい性能をもったガラスの合成法として注目を集めている。原理は、1種または数種の金属アルコキシドのアルコール溶液を加水分解してゲルとし、加・減圧、加熱等の処理で遊離アルコールや過剰の水を抜いて、金属酸化物の均質混合体である透明なガラスとすることである。たとえば溶融法では2000度C近い高温を必要とする石英ガラスは、ケイ素メトキシドSi(OCH[▼3])[▼4]を出発物質として高純度のものが1000度Cそこそこで合成でき、化学蒸着法と異なって大きな塊として得られる特徴がある。化学蒸着法は、ケイ素、ホウ素、ゲルマニウムなどの塩化物の気体を必要量の酸素と混じて高温で反応させて、器壁にそれぞれの酸化物ガラスを蒸着させる方法で、単成分のものも複成分のものもつくれる。既製石英ガラス管の内部で行えるので、不純物を10億分の1単位にまで低減でき、光通信用グラスファイバー製法の出発点となっている。  新しい製法が開発されれば、単にガラスの不純物含有率をいままでの限界以下に下げられるだけでなく、新しい化学組成のガラスをつくりだすことができる。透過率をはじめとする光学的性質や、高硬度、高強度、半導性などといった基本的物性の領域の拡大も可能となるので、生物工学方面に広く利用できる多孔性ガラス、金属、有機材料などとの複合材料等の範囲にまで発展することが期待される。→ガラス工芸 <境野照雄> 【本】作花済夫・境野照雄・高橋克明編『ガラスハンドブック』(1975・朝倉書店) ▽日本化学会編『化学便覧(応用編)』(1980・丸善)

日本大百科 ページ 13529 でのガラス単語。