思考 【シコウ】🔗⭐🔉振
思考 【シコウ】
thinking[E]; Denken[G]; pens
e[F]
「考える」という行為・行動。
哲学から独立した一分科としての
実験心理学の誕生は,通常,
ヴントによってライプチヒ大学に心理学実験室が創設された1879年とされる。ヴントの目的は,「純粋観察」すなわち
内観を用いて
意識をもっと下位の諸
感覚に分析していき,それらで改めて意識を再構成することであった。ヴント自身は思考過程のような高次の精神活動がこうした方法で実験的に研究できることには疑いの念をもっていたが,弟子の
キュルペはそれが可能だと考えていた。1896年,キュルペはヴュルツブルク大学に自らの学派(
ヴュルツブルク学派)をつくり,マルベ(Marbe, K.)や
K. ビューラーらとともに,思考研究の第一線の研究を行ってきた。その意味で,思考研究は心理学研究の最も早い時期から行われていたといえる。
ヴュルツブルク学派の研究者たちは,思考はしばしば
心的イメージ(心像)なしでも行われることがあり意識的な気づきなしでも思考される,という
無心像思考の考え方をとったが,研究の方法論は依然周到に訓練された内観による方法が主流であった。ヴントとともに研究活動をし1892年にコーネル大学に心理学実験室を創設した
ティチェナーは,ヴュルツブルク学派の研究を追試し,ヴュルツブルク学派の研究者たちが行ったあらゆる実験の思考過程にやはり心的イメージは存在したことを明らかにした。
意識や心的イメージの有無にとらわれている限りは哲学的省察の呪縛から逃れられないとして,アメリカでは
ワトソンによる,方法論的に意識を排除した
行動主義の流れが起こり,
トールマンらの
新行動主義によって,学習研究を主体にした思考研究が盛んに行われた。また一方で,
刺激と
反応の
連合の
強化の歴史としての行動主義的な思考観に真っ向から対立するものとして,
ウェルトハイマーや
ケーラーらの
ゲシュタルト心理学の立場からの思考研究が起こった。ここでは,
問題解決事態における問題構造の
再構造化,
中心転換,
洞察等が中心的な説明概念となった。新行動主義とゲシュタルト心理学を統合した形で現れてきたのが,1960年代からの
ブルーナーを中心とする
ニュールック心理学である。その後の
情報処理アプローチで,今日,ヴントの時代の「意識」が形を変えて,コンピュータ科学や周辺諸科学と一緒に
認知科学として,再び思考の問題が盛んに研究されている。
また,スイスの
ピアジェは,思考の発達過程に関心をよせ,
同化・調節,
シェマ,
均衡化というキーワードで乳幼児の思考から成人の科学的研究活動まで一貫した思考の発達理論を打ち立てた。こうした流れは,人間のより日常的な思考活動を,それまでバイアスだとされて避けてきたさまざまな要因も一緒にして,より総合的に
生態学的妥当性のある理論を模索している,といえよう。
思考の研究は,他の多くの心理学研究領域がそれぞれ独自の構成概念で各領域のリアリティを求めているのに対して,どんな領域にも,何に対する関心にも共通なリアリティ獲得過程の研究である。その意味で,心理学の「心理学」,いわゆるメタ心理学といえる。そこでの関心事は,論理的思考の問題(帰納的推論,演繹的推論),
仮説検証行動の問題,
意思決定の問題,
創造性の問題,日常的思考の問題,科学的研究活動の問題,複雑な問題解決の問題,統計的思考の問題,思考の発達の問題等多種多様である。そうした諸問題が生きられた「現実」を背景に研究されていく過程で,教育現場や社会生活においても最も有意義な心理学的知見の一つを提供できるであろう。
→思考心理学 →生産的思考 →創造的思考 →推論 →帰納推理 →演繹推理 →仮説検証 →意思決定 →創造性 →生態学的妥当性《Garnham, A. & Oakhill, J.1994;Mayer, R.1977;Holland, J. H. et al.1986;多鹿秀継1994;Baron, J.1994》
→vid.文献
◆田中俊也







































心理学辞典 ページ 835。