空間知覚 【クウカンチカク】🔗⭐🔉振
空間知覚 【クウカンチカク】
space perception
感覚器に
刺激が与えられると,我々は,広がり(extent),距離(distance, あるいは奥行きdepth),方向(direction, あるいは位置position)のすべて,あるいはこのうちのいくつかを
知覚する。これらを空間知覚の3属性とよぶことにする。
【広がりの知覚】 皮膚の表面を棒のようなもので軽く刺激すると,強さだけではなく広がりをも同時に感じる。この体験は,
触覚だけではなく,
視覚,
聴覚,
味覚,
嗅覚,あるいは
内臓感覚(胃の満腹・空腹感,腹痛など)にも共通して認められる原初的なものである。これらの感覚のなかでは視覚が最も大きな広がりをもち,しかも,この広がりを小部分に分割して各部分を同時に独立させて形と大きさをもった物として知覚することができる。ゲシュタルト心理学者は
図と地の区別をしたが,彼らのいう地は形も大きさももたない,広がりのみをもつ体験であるのに対して,図は地からつくられて形と大きさをもつようになったものといえる。触覚は視覚ほど広くて精妙な
弁別能力をもたないが,基本的には視覚と同じ機能をもっている。音の広がり(
音の太さ volumeとよばれるほうが多い)は刺激の音圧と
周波数によって決められる。すなわち,小さい音や高い音は小さな広がりとして,大きな音や低い音は大きな広がりとして聞こえるといわれる。
【奥行きの知覚】 視覚では,いわゆる距離・
奥行きの手がかりによって距離・奥行きの知覚が成立する。特に近距離では非常に細かい奥行きの弁別が可能である。一方,距離の弁別が可能な最遠平面は,一様な背景のもとで中性的な刺激をターゲットに用いた場合,数十m(Gilinsky, A. S.1951)から600m(西徳道1933)であるのに対して,自然界にあるものをターゲットに用いると数km離れた対象までの距離の弁別も可能になる(Higashiyama, A. & Shimono, K.1994)。また聴覚においても,視覚ほど精密にしかも遠距離まで距離の弁別はできないが,
音の大きさに基づいて音源までの距離を知覚する。
皮膚感覚も奥行きの知覚に有効である。サンドペーパー,普通の紙,鏡面などに軽く触れるだけで,その凹凸の違いが即座にわかる。さらにはコップのような三次元立体を握ったり撫でまわすことができるならば,そのような刺激の全体の形を知覚することができる。
【方向の知覚】 視覚や触覚では,視力や
触空間閾いきの研究が示すように,刺激の方向や位置が弁別される。方向や位置の弁別力は刺激部位に依存して異なる。視覚の場合であれば
周辺視よりも
中心視において弁別力は高く,触覚の場合は,手足の末端や唇,舌先のように可動性の高い部分ほど弁別力が高い。また,両眼(耳)を用いて光(音)刺激を受容したときには,両眼(耳)に刺激を受けているにもかかわらず,刺激源は1方向に知覚される。ところで,刺激の方向や位置に依存してその知覚的属性が変化することがあるが,これを知覚空間の
異方性という。具体的には,二つの同一の図形を縦に置くと上の図形のほうが大きく見えたり,
ランドルト環の切れ目が斜め方向よりも垂直・水平方向にある時の方が
視力が高まったり,ツェルナー図形やポッゲンドルフ図形のような
錯視図形全体の方向を変えることによって錯視量が変化する。
空間知覚の3属性は互いに独立していない。上で示した空間の異方性は,広がりが,方向あるいは位置によって影響されることを示したものである。同様に,視覚に関していえば,広がりが奥行きに影響を与えたり(例:大きく(小さく)見えるものほど近く(遠く)に見える),奥行きが広がりに影響を与えたりする(例:
視角が同じであれば遠く(近く)に見えるものほど大きい(小さい))。また空間知覚の3属性は,次の事例にみられるように,他の視覚的属性や他の感覚
モダリティの影響を受ける。(1)2点の間の広がりはその時間間隔を変えると変わる(
タウ効果,
ゲルプ効果),(2)運動しているものは静止しているものよりも縮んで見える,(3)対象を取り囲む枠組の大きさによって,その対象の大きさが異なって見える(同化と
対比),(4)視覚的正面は頭や身体の傾きに連動して変化する。
→奥行き知覚 →視空間 →聴空間 →触空間 →幾何学的錯視 →異方性《Goldstein, E. B.1989;大山正ほか1994;Rock, I.1975;Sedgwick, H. A.1986》
→vid.文献
◆東山篤規




























心理学辞典 ページ 515。