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気分障害     【キブンショウガイ】🔗🔉

気分障害     【キブンショウガイ】 mood disorder  気分の高揚ないしは抑うつといった気分変化を優勢な症状とする精神医学的障害であり,従来の躁うつ病,抑うつ神経症,情動性人格障害などを統合した概念である。アメリカ精神医学会の診断分類であるDSM--R(APA1987)で最初に用いられた用語であり,現在のDSM-(APA1994)およびICD-10(国際疾病分類第10版WHO1992)に受け継がれた。これら以前の DSM-(APA1980)では感情障害(affective disorder)といわれていたが,全般的かつ持続的な情動の変化を示すには気分障害という用語がより適切であるとして改称された。 【分類】 気分障害は双極性障害とうつ病性障害(単極性うつ病)の二つに分けられる。前者は躁(とうつの両)病相をもつものをいい,後者はうつ病相だけを示すものをいう。単極性の躁病は双極性障害に含まれる。双極性障害は双極型障害(本格的な躁状態がみられるもの)と双極型障害(躁状態が軽躁状態にとどまるもの),さらに,軽症型として気分循環性障害に区別される。うつ病性障害には,本格例である大うつ病性障害と,軽症型としての気分変調性障害(抑うつ神経症に相当)がある。さらに,その他の気分障害として,身体疾患に伴う気分障害,薬物による気分障害がある。 【症状】 気分障害の症状は,大うつ病エピソード(うつ状態),躁病エピソード(躁状態)に分けて考えるとわかりやすい。うつ状態は,悲観的な考え,憂うつで悲しく気落ちした気分,絶望,興味や喜びの低下,食欲減退,不眠,不安,焦燥,思考制止(着想貧困化,考えがわかない),活動性の低下,疲れやすさ,気力減退,罪業感,集中力低下,決断不能,死についての反復思考,などが症状として現れる。躁状態になると,うつ状態と全く逆であり,気分が異常かつ持続的に高揚し,爽快気分,楽天的,易刺激性(些細なことで怒りやすい),誇大的,不眠,多弁・多動,観念奔逸(思考が本筋から逸脱したり飛躍してまとまらない),注意散漫,食欲亢進等が症状として現れる。また,これらの亜型として,軽躁病エピソードや,うつと躁が混在した混合性エピソードもある。 【疫学・経過】 海外の研究によると,大うつ病性障害の生涯有病率は男性で5〜12%,女性で10〜25% であり,時点有病率は男性で 2〜3%,女性で 5〜9% である。双極性障害の生涯有病率は 1〜2% である。好発年齢は,躁病相は多くは30歳以前であり,うつ病相は25歳前後と50歳代(初老期)の二つにピークがあるといわれている。うつ病性障害は愛する者の死や離婚といった重度の心理社会的ストレス因子に引き続いて起こることがしばしばある。病相は再発しやすい。したがって,本当の意味での完全な治癒は困難であるが,個々の病相は寛解することが多い。うつ病性障害の方が双極性障害より予後が良好である。うつと自殺の関連は重要で,大うつ病患者のうちの重症例は約 15% が自殺により死亡するといわれている。 【治療】 重症の躁状態では,周囲に迷惑をかけたり,治療に拒絶的なため,入院治療が望ましい。うつ状態では,原則として外来で行われるが,自殺の危険のある時,自宅では静養できない時などは入院がよい。治療は薬物療法精神療法が主である。薬物療法としては,躁状態には,気分安定薬(炭酸リチウム lithium carbonate, カルバマゼピン carbamazepine, バルプロ酸ナトリウム sodium valproate など)を投与する。うつ状態には,抗うつ薬を投与する。重症例には抗精神病薬,不安焦燥が強い時には抗不安薬が用いられることもある。精神療法としては,うつに対して,認知療法,対人関係療法が効果がある。また,難治例に対しては,電気痙攣療法が劇的に効くことがある。周囲の看護上の注意として,躁状態に対しては刺激するような応対は避けることなどであり,うつ状態に対しては,自殺に注意(特に回復期)し,一人にしないこと,激励したり無理な作業をさせたりしないで,医師の指導のもとでしっかりと休ませることなどが重要である。 →気分 →感情 →思考障害 →軽躁状態 →気分変調性障害 →抑うつ神経症 →抑うつ反応 →仮面うつ病 →初老期うつ病 →抗うつ薬 →抗精神病薬 →抗不安薬 →電気痙攣療法 →精神療法 →認知療法《Frances, A. et al.1996;西丸四方1994→vid.文献 ◆吉村公雄

心理学辞典 ページ 435