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嗅覚     【キュウカク】🔗🔉

嗅覚     【キュウカク】 olfaction 【においの分類】 既知の化合物200万のうち,5分の1の約40万が有香といわれている。このような多様なにおいを分類しようとする試みは古くから行われているが,決定的なものはない。その理由は,個々の研究で対象とするにおいの範囲が異なることもあるが,それ以上に,本来このような知覚レベルでのにおいの分類は時代性や地域性,個人的体験を反映したものと考えられるため,当然ともいえる。表にこれまでに報告された代表的なにおいの分類を示す。においを分類する次元として,快―不快の次元がよくあげられ,嗅覚が感情的な反応や嗜好を喚起することも報告されている。知覚レベルの情報だけでなく,受容器でにおい物質が受容される違いを念頭において,においを分類した研究もある。一連の交差順応実験で受容部位の種類を調べた研究や,複数の臭気物質間の閾値いきちの相関や因子の特徴を調べた研究から,嗅覚には非常に多くの異なる受容メカニズムや受容部位の多様性が推測された。また,アムーア(Amoore, J. E.)の立体化学説では,知覚的に異なる7臭の違いを分子の外形の違いから説明し,嗅細胞の表面にそれに対応した凹みがあると考えた。しかし,この説で説明できない事象もあげられ,現在は支持されていない。その後,アムーアは,「汗臭」を呈するイソ酪酸に代表されるような,「閾値の二峰性」を示すにおい物質が固有の受容部位をもつ原臭と考え,このような原臭が20〜30あると推定した。最近,バックとアクセル(Buck, L. & Axel, R.1991)は嗅細胞のcDNAから,におい分子の受容に関係があると思われる7回膜貫通型の塩基配列を拾い出したところ,塩基配列が少しずつ異なる100種類の受容体がみつかったと報告したが,現在では1000種類に及ぶ受容タンパク質が存在すると推定されている。におい分子はこのタンパク質で形成されるポケットにはまりこんで嗅細胞に電気的信号を引き起こす。 図表 【閾値】 嗅覚の閾値は一般に低く,特に低いといわれるメチルメルカプタンの検値閾は0.0002〜1.1ppb(μg/l, 体積十億分率)という報告がある。におい物質の検値閾,認知閾が複数の研究者によって報告されているが,物質の純度,刺激の呈示法,測定方法,被験者の質,結果の処理法の違いにより2, 3桁は優に異なるので,閾値の比較には同じ方法のものを用いるという注意が必要である。年齢が高くなるほど閾値が高くなる傾向が報告されているが,性差については,女性の方が閾値が低いという報告の方が多いが,逆の報告もあり,性差というよりも個人差の要因と思われる。女性ホルモンの状態によって閾値が異なるにおいがあるという報告もある。においのウェーバー比の報告の多くは,13〜33% であるが,においによっては 4.2% や 9%,あるいは37〜54% という報告もある。 【においの強度】 日本では,環境指標として悪臭の強度を評価するのに,六段階評定尺度(感じない,やっと感じる,弱い,はっきり感じる,強い,極端に強い)が採用されていることから,評定尺度が用いられることが多いが,欧米では,マグニチュード推定法がよく用いられる。強度関数としては,前者では対数関数が,後者ではべキ関数が得られるが,対数関数の傾きやベキ関数のベキの大きさは,においによって異なるだけでなく,測定法によっても異なるため,数値の比較には注意が必要である。 【順応】 嗅覚は順応が顕著である。順応は閾値の上昇や強度の低下で調べられる。刺激が与えられてから閾値が最も上昇するまでの順応時間は,においの強度に比例し,比例定数はにおいによって異なる。閾値の上昇は順応してからの時間と強度が増すほど大きくなる。回復の度合は始めの100秒は非常に速く,その後はゆっくりになるが,においによっては始めも後も同じような速さで回復する。順応における臭気強度の時間経過は指数関数になるという。閾値の上昇でも強度の低下でも,最初の 2 分で 50% 以上の順応または回復を示し,順応よりも回復の方が時間が短かったという報告もある。順応には末梢性と中枢性の両方が関与していると考えられている。 【においの嗜好と個人差】 一般に,花・果実は快,腐敗・糞便は不快,樹脂・薬・磯等はその中間であるが,あるにおいを呈示された時の快―不快度は個人差が大きく,それは呈示されたにおいを何のにおいと思ったかで異なることが多い。たとえば花と思うと快,薬と思うと快ではない。またそのにおいを何のにおいと同定するかは生育環境などの個人の体験内容が影響してくると思われる。 →オルファクティー →オルファクトリウム →嗅覚計 →嗅覚伝導路 →嗅球 →嗅細胞 →嗅受容機構 →嗅脳 →嗅覚異常 →クロッカー = ヘンダーソンのにおい記号法 →においのプリズム《和田陽平ほか1969→vid.文献 ◆斉藤幸子

心理学辞典 ページ 450 での嗅覚     単語。