記憶 【キオク】🔗⭐🔉振
記憶 【キオク】
memory
記憶とは過去経験を
保持し,後にそれを再現して利用する機能で,
符号化(
記銘),貯蔵(保持),
検索(想起)の3段階からなる。 このうちの符号化とは,入力された刺激を記憶表象(または
記憶痕跡)に変換し,貯蔵するまでの過程をさす。しかし,記憶は永遠ではなく,貯蔵されている記憶表象が,時間の経過によって減衰(decay)してしまうか,あるいは何らかの理由で
アクセス不可能になるために,過去経験を再現できなくなる場合(これを
忘却とよぶ)もある。つまり,忘却の原因としては,記憶表象が減衰し利用可能性(availability)を失う場合と,記憶表象へのアクセス可能性(accessibility)を失う場合の二つがあると考えられている。
記憶の過程は多様であり,さまざまな観点から区分することができる。第一に,保持時間の長さによって,
感覚記憶(視覚刺激の場合は数百ミリ秒以内,聴覚刺激の場合は数秒以内),
短期記憶(15〜30秒以内),長期記憶(ほぼ永久)に分けることができる。このうちの短期記憶は,意識的操作が可能な状態で情報を保持することのできる唯一の記憶で,計算,読書,推理などの認知課題を遂行する際の作業場のような役割を果たす。このため,短期記憶は
作動記憶とよばれることもある。これに対し長期記憶は,ほぼ無限の容量をもつ永続的な記憶であり,言語的に記述可能な事実に関する記憶(
宣言的記憶)と必ずしも言語的に記述できるとは限らない手続に関する記憶(
手続記憶)とに区分することができる(Anderson, J. R.1983)。
タルヴィング(Tulving, E.1972)はさらに,宣言的記憶を時間的・空間的文脈に位置づけることのできる個人的経験に関する記憶(
エピソード記憶)と,言語や概念などの一般的知識としての記憶(
意味記憶)とに区分している。
第二に,記銘する情報の種類によって記憶を区分することも可能である。伝統的な記憶実験では,文字,単語,事物の線画などを記銘材料として用い,厳密な条件統制のもとで言語的情報や画像的情報の記憶の仕組が研究されてきた。しかし最近では,日常場面で記憶がいかに機能しているかを明らかにしようとする日常記憶(everyday memory)の研究も盛んになり,日常世界での個人的な出来事の記憶(
自伝的記憶)や,交通事故や犯罪現場の目撃者の記憶(目撃証言),ショッキングな事件(たとえば,ケネディ大統領の暗殺のような)の記憶(
フラッシュバルブ記憶),将来の目標やプランについての記憶(
展望記憶)などの仕組もしだいに明らかにされようとしている。
第三に,
意識の水準によって記憶を顕在記憶と
潜在記憶に区分することができる。顕在記憶とは
再生法や
再認法などのテストで測定される記憶をさす。これらのテストで測られる記憶は,通常「これは先ほど呈示された項目だ」という過去経験の想起の意識を伴うので,顕在記憶とよばれるのである。これに対し潜在記憶は,単語完成課題や知覚同定課題などで測定される過去経験の想起の意識が伴わない記憶をさす。また,人間は自分自身の記憶過程を部分的にではあるが意識化することができる。たとえば,『土佐日記』の作者を尋ねられた時などに,喉まで出かかっているのに思い出せないといった現象(
「喉まで出かかる」現象 TOT)を経験することがあるが,このような場合,「ヒントが与えられれば思い出せるはずだ」とか「再生はできないけれど再認ならばできるはずだ」などといった意識を伴うことが多い。これは
既知感(FOK)とよばれる現象で,人間が長期記憶の貯蔵の状態をある程度までは意識化できることを示している。この他にも,記銘学習中に「この項目は覚えるのが難しそうだ」と記銘材料の難易度を意識化したり,「この項目はまだよく覚えていない項目だ」と学習の進み具合を意識化したりすることができる。こうした自分自身の記憶過程についての記憶(知識)を
メタ記憶とよぶ。
→感覚記憶 →短期記憶/長期記憶 →手続記憶 →宣言的記憶 →潜在記憶/顕在記憶 →自伝的記憶 →展望記憶 →メタ記憶《Gregg, V.1986;Klatzky, R. L.1980;Cohen, G. et al.1986》
→vid.文献
◆森敏昭

























心理学辞典 ページ 389 での【記憶 】単語。