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感情     【カンジョウ】🔗🔉

感情     【カンジョウ】 emotion  感情がどのようなものであるかは誰もが知っているが,その定義を求められると誰もが答えられないといわれる。これは感情の種類についてもいえることで,何を基本感情と見なすかということすら研究者間で意見が一致していない。また日本語においても外国語においても感情にかかわる用語は多様であり,感情をどの範囲に規定するか,また用語をどのように用いるかが,いまだに一致していない。たとえば英語圏においては,emotionという用語が一般的に用いられるが,affectをemotionの上位概念と見なす場合もある。また日本においては,emotionという用語の,その動的側面を強調する場合は,情緒情動という用語が用いられ,またfeelingを「感情」に対応させることが一般的であった。本項では,英語圏においてはemotionが,日本語圏においては「感情」が,感情にかかわる最も包括的な用語として用いられていること,また1993年に発足した日本感情心理学会において感情=emotionを学術用語として対応させたこと(松山義則1993),さらにfeelingとしての「感情」研究は欧米においても日本においても少ないことから,感情とemotionを相互に対応する用語として扱う。なお日常語として用いられる「感情」は,感情の意識化された主観的成分を強調して用いられる場合が多く,emotionというよりaffect ; affection ; feelingといった英語に近い意味で用いられる場合が多いので注意されたい。  感情の先駆的研究として,ダーウィンの『人及び動物の表情について』(Darwin, C. R.1872)がある。感情は,進化の長い淘汰の産物であり,ヒトを含む動物は,系統発生的に連続した,感情に固有の身体反応,生理反応をもつと考えられた。またジェームズは感情の末梢説(ジェームズ = ランゲ説)を,キャノンは感情の中枢説(キャノン = バード説)を唱え,S. フロイトヒステリーを感情の力動的特性から説明した。  ダーウィン,ジェームズの影響を受けたトムキンス(Tomkins, S.)は顔面フィードバック仮説を,またその弟子であったイザード(Izard, C. E.)は心理進化説,エクマンは神経文化説を唱えた。感情を進化論から考える理論家として,他にプルチック(Plutchik, R.)が有名である。  シャクター認知説の影響を受けたアーノルド(Arnold, M. B.)は,感情の出現に先行する事態評価(appraisal)の重要性を指摘し,同様にR. S. ラザラスは,評価を,個体の健康的生存の可能性に関する一次評価と対処可能性に関する二次評価の部分に分けて論じた。これらは,感情は感覚刺激によって直接に喚起されるものではなく,事態の評価という認知過程を経て後に出現するという考え方である。  強い感情状態は,自律神経の交感神経系を活性化させ,生理的に覚醒(arousal)された状態を生み出す。個々の感情と身体の変化との間に明瞭な関係性の存在することは疑問視されているが,主観的には怒り,恐怖,悲しみなどの感情には,それらに固有の身体変化を感じるようである。  感情は,個々の感情に特有の反応を生み出す。顔面表情がその最も代表的なものであり,他に声,姿勢,動作などがある。ダーウィン以来,顔面表情は遺伝的にプログラムされた,生物としてのヒトに共通するものと考えられてきた。エクマンらは,怒り,嫌悪,幸せ,悲しみといった個々の感情に対応する顔面表情は,異なった文化の人間の間においても相互認識が可能であると見なしている。  感情は,その感情に特定される一連の行動を生み出すことが多い。たとえば,怒りは攻撃行動を,恐怖は逃避行動を喚起する。このような感情の動機づけ機能は,感情を喚起する刺激の条件づけ研究を可能ならしめ,これまでに恐怖,不安といった感情に関する実験的研究を発展させてきた。  感情の基礎機構は生物的に規定されており,文化は感情の表出を抑制したりする水準において関与するという考え方がある。このような表出抑制の機構を表示規則という。しかしながら,感情にかかわる用語が文化によって大きく変動する点,特定の感情を喚起する刺激の質的差異が文化によって顕著である点などから,文化は感情形成に主要な役割を果たすと論じる研究者も多い。前者の論客としてはエクマンがおり,後者ではラッセル(Russell, J. A.1994)がいる。  感情は,最も重要な心的特性の一つでありながら,研究の遅れている領域でもある。これは,重要な心的特性であるがゆえに,基本用語の確定も含めて,研究パラダイムの確立が容易でないことの現れであると解釈できる。 →ジェームズ = ランゲ説 →キャノン = バード説 →ヒステリー →顔面フィードバック仮説 →感情と認知 →情動の認知理論 →表情 →覚醒 →感情の発達 →FACS →愛 →怒り →嫌悪 →不安 →興味 →表示規則 →情動 →情緒《吉田正昭1993;浜治世1981;Lewis, M. & Haviland, J. M.1993→vid.文献 ◆今田純雄

心理学辞典 ページ 366 での感情     単語。