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学習     【ガクシュウ】🔗🔉

学習     【ガクシュウ】 learning 【一般的定義】 個体発生過程において,経験により比較的永続的な行動変化がもたらされること,およびそれをもたらす操作,そしてその過程。「経験により」とするのはむしろ遺伝の制約を受ける成熟と区別するためであり,「比較的永続的な」とするのは一時的な疲労や酔い,動機づけによる変容(たとえば,満腹と空腹)と区別するためである。動物の適応行動は,系統発生の過程において種(あるいは系統)レベルで選択された生得的行動と,個体発生の過程において個体レベルで習得される獲得的行動に分類できるが,学習は後者をもたらすものである。ヒトにおいて典型的にみられるように,高等とよばれる動物種ほど,適応行動全体に占める獲得的行動の割合が高くなる。この結果,動物は生後の環境変化に対しても行動の修正が可能となり,より適応的になる。 【学習研究の諸相】 20世紀初頭にかけて,学習研究はさまざまな分野で始まった。パヴロフの条件反射,ソーンダイク問題箱における試行錯誤学習,ケーラーの見通し学習などの先駆的研究は,ワトソン行動主義とともに,その後の学習研究に大きな影響を与えた。  [1] 学習理論における学習研究:行動主義心理学では学習理論とよばれる分野で,おもに全体的な適応行動の学習過程が分析された。その多くにおいて条件づけという方法が用いられたので,条件づけ理論ともよばれる。こうした理論には,刺激 = 反応理論か認知理論か,すなわち,学習の本質を刺激 = 反応間の連合とするか(S-R説),刺激 = 刺激間の連合とするか(S-S説),また,学習と反応遂行(performance)を区別し仲介変数を認めるか否か,学習に強化は必要とする(強化説)か否か,学習の基本的過程を一つとする(一過程説)か,オペラント学習とレスポンデント学習のように二つとする(二過程説)か,といった論点の相違があり,学習の定義もさまざまであった。また,それぞれの学習理論は,自説の検証に有利な,独自の研究方法を開発した。たとえば,スキナーは,オペラント学習を研究する方法として,自由オペラント手続が可能なスキナー箱を開発した。  [2] エソロジーにおける学習研究:エソロジー(動物行動学)でも,生得的行動対獲得的行動という区別において純粋な二分法は成り立たないこと,すなわち,学習と無関係な生得的行動は少なく,他方,どのような学習にも生得的な基盤があることが認められると,学習が研究対象とされるようになった。刻印づけ臨界期など,初期学習における生物学的制約について重要な発見がなされた。  [3] 運動学習と知覚学習:学習の実験心理学的研究はエビングハウスの記憶実験に始まるとされることからも明らかなように,学習が実現されるためには,知覚認知記憶,動機づけといった用語で表現される心的機能が不可欠である。全体的な適応行動レベルではなく,こうした心的機能に限局して学習過程を研究することもある。そうしたものとしては,運動学習(motor learning)や知覚学習が有名である。自動車の運転やタイプライティングに関する技能学習,言語音の音韻知覚学習はその例である。知覚学習や運動学習では,知覚系と運動系の協応が重要であり,両者の関連性を強調し,知覚 = 運動学習あるいは感覚運動習熟とよぶこともある。  [4] その他の学習:その他,概念学習をはじめとする高次学習や言語学習のように,学習対象によって特殊な理論を構成する場合がある。また,学習場面によって分類する場合があり,動物が単独で行う学習を個別的学習(individual learning),他個体との交互作用において行う学習を社会的学習という。  最近では,計算機科学の進歩に伴い学習する機械が開発され,非生物の学習も盛んに研究されている。人工知能ニューラル・ネットワーク・モデルの分野では機械学習(machine learning)の原理が検討されている。また,神経科学でも,における高次情報処理が扱われるようになり,学習の神経科学的メカニズムが解明されつつある。このように,学習の定義は心理学以外の分野でも可能となり,学習研究は新たな局面を迎えているといえよう。 →学習心理学 →成熟 →疲労 →行動主義 →新行動主義 →条件づけ →エソロジー →知覚学習 →知覚 = 運動学習 →言語学習 →社会的学習 →人工知能 →ニューラル・ネットワーク《Bower, G. H. & Hilgard, E. R.1981;本吉良治1969;佐々木正伸1982;佐藤方哉1983;Schwartz, B.1989;Staddon, J. E. R.1983;八木冕1975→vid.文献 ◆山田恒夫

心理学辞典 ページ 279 での学習     単語。