概念 【ガイネン】🔗⭐🔉振
概念 【ガイネン】
concept
個々の事物・事象に共通する性質を
抽象し,まとめあげることによって生活体内に作られる内的表現。たとえば,個々の腕時計や掛け時計などから,一般的な「時計」という概念が抽象化されまとめられる。こうした,概念を作り上げる働きを概念作用(conception)とよぶが,それは生活体の認知的処理の効率化に寄与していると考えられる。
論理学的には,概念は内包と外延から構成され,その概念を
言語で表現した名辞(term)が対応していなければならない。内包とは,ある事物・事象がその概念に含まれるか否かを決定する性質群であり,その概念の意味内容にあたる。外延とは,その概念に含まれる事物・事象,すなわちその概念の成員の集合であり,概念の適用範囲にあたる。先の時計の例でいえば,「時間を計る」という共通する性質が内包であり,個々の腕時計や掛け時計をはじめ時計とよべるすべての事物の集合が外延ということになる。
論理学では,内包と外延は一致していなければならない。しかし,心理学的には内包と外延がつねに一致しているとは限らない。ろうそくや線香はある条件下では「時間を計る」ことができるにもかかわらず,時計とは普通よばれない。また,壊れた時計はもはや「時間を計る」ことができないにもかかわらず,依然として時計とよばれる。また,ある概念に含まれる成員間には,その概念の成員としての
典型性に差があるということが多く報告されているが,これも論理学的な概念においては想定されていないことである。さらに,運動感覚を含む身体感覚的な概念(たとえば,「手による概念」manual conceptなど)のように対応する名辞をもたないような概念や動物における概念的行動をも認めることなど,心理学における概念は論理学のそれとは大きく異なっている。
心理学において概念を扱う際には,個々の生活体が経験を通じて獲得し,それによって環境における行動の効率化に寄与するという側面が強調されている。しかし,心理学において概念の定義が確定しているわけではけっしてなく,概念をどのようなものとして扱うかについて以下のようなさまざまな立場がある。(1)定義的な立場:この立場では,各概念はそれを定義することのできる性質群から構成されていると考え,その意味で論理学的な概念観と軌を一にする。たとえば,
ハルは対象間の共通要素の集合が概念に対応するとしたが,これもこの立場に属する。(2)確率論的な立場:この立場では,概念は定義的な性質の集合によって厳密に規定されるのではなく,確率的な意味をもつ複数の性質によって比較的柔軟に決定される。すなわち,その概念を代表するような事例そのもの,もしくは概念を代表するような複数の事例のもつ性質を平均して作られる
プロトタイプなどを中心として,それとの類似性をもとに,ある事例が概念の成員であるか否かが確率的に決定される,というのがこの立場である。
ロッシュらのプロトタイプ理論は,その代表的なものである。(3)知識ベース的な立場:概念を定義づける性質や確率的に概念を特徴づける性質からなる固定的な構造によって概念を説明するのではなく,生活体がその時に有していて適用しようとする体系化された
知識によって,重要な性質が決定され概念を構成する,というようにその時々の知識の内容によって概念を説明しようとするのがこの立場である。
マーフィらの「理論ベース」の考え方では,領域内の事物・事象を説明するための体系化された知識を理論とよび,領域内の概念はその理論に基づいて重要性が認められた性質によって構成される。つまり,この考え方では,概念は理論に内在されるものとして捉えられている。
→抽象 →内包的意味/外延的意味 →典型性 →プロトタイプ《Bruner, J. S. et al.1956;Neisser, U.1987;矢田部達郎1948》
→vid.文献
◆山崎晃男








心理学辞典 ページ 252 での【概念 】単語。