複数辞典一括検索+

両眼視     【リョウガンシ】🔗🔉

両眼視     【リョウガンシ】 binocular vision  両眼が約6.5cm離れているために外界の事物には視差(parallax)が生じ,両眼網膜像にはわずかな差異(視差,非対応 disparity)が生じる。水平視差と垂直視差があるが,水平視差が奥行き知覚の手がかりであることはホイートストーン(Wheatstone, C.1838)により示された。図のようなステレオグラムを実体鏡で観察すると,中央の正方形が内側に偏る交差視差の場合は手前に,外側に偏る非交差視差の場合は後に正方形が奥行きをもって知覚される。 図表 視差の増加に従い知覚される奥行きも比例的に増加するが,一定の限度を超えると奥行き感は減少する。この限界は中心視から周辺視になるほど増加する。その場合,輻輳という奥行き的に前後の眼球運動立体視の範囲を広げるのに有効である。立体視に必要な最小視差は,最適条件のとき中心視で視角 2″といわれ,25cmの観察距離で0.01mmの奥行き弁別が可能ということになる。この立体視力は周辺視になるほど低下し,対応点(視差ゼロ)の軌跡であるホロプター(horopter)上で最高であり,交差,非交差方向に視差が増加するに従って減少する。  両眼は注視対象を中心窩に結像するように協応的に動くので,普通は視対象は一つに知覚される。この現象を両眼単一視あるいは融合という。両眼視差のために両眼の網膜像が不一致になるが,ある範囲内であれば融合が可能である。一方の眼のある1点に与えられた刺激が反対眼の刺激に対して融合できる範囲はパヌムの範囲あるいは融合域とよばれる。融合域が大きくなるのは,周辺視野で,刺激が大きく,ランダムドットのようにテクスチャー変化のある場合である。視差が融合域を超えた場合は二重像が生じる。ただし一度融合域に入った対象は履歴効果により融合域を超えても融合が維持される傾向がある。  左眼の刺激が右眼のどの刺激と対応するかが理論的には一つに決まらず,多義的になる条件では対応問題が生じる。その典型的な例はユーレス(Julesz, B.1960)の開発したランダム配列の要素からできた単眼で認識可能な輪郭線を含まないランダムドット・ステレオグラム(RDS)である。理論的には多数の実際には知覚されない潜在的対応の可能性ができるが,本来の視差による立体視だけが可能であることから,この視差を計算するべき対応は視覚の初期処理段階で決定されることが示された。このような心理物理実験と並んでコンピュータ・シミュレーションにより,明るさについての比較照合を基礎とする対応問題の解決法が検討されている(Marr, D.1982)。  両眼視差の初期処理については,ネコやサルの大脳皮質の両眼性細胞についての神経生理学の研究からも支持されている。実体鏡を用いて両眼の対応領域に異なる形の刺激を呈示すると,両者が安定せず継時的に交代するという視野闘争が生じる。 両眼に異なる色の刺激を呈示した場合,普通は中間の色で安定するという両眼混色は起こらない。一方の眼に白,他方の眼に黒を呈示すると,両眼での印象は中間の灰色ではなく,ギラギラした見え,すなわち両眼光沢が生じる。日常経験としては単眼視では両眼視より世の中が暗く見えることはないが,実験的事態では両眼の対応点の刺激に対する光覚閾いきは低くなり,そのことを両眼加重という。外界の奥行き差のある面の境界では,遮蔽された一部分が対応する刺激のない単眼像となるが,このような生態学的に妥当な場合,視野闘争はかなり抑えられる(下條信輔1995)。両眼立体視に基づく遮蔽などがパヌム現象やRDSでも問題にされている。 →立体視 →視野闘争 →パヌム現象 →融合域 →視差 →両眼視差 →奥行き知覚 →実体鏡《Levelt, W. J. M.1965→vid.文献 ◆鬢櫛一夫

心理学辞典 ページ 2257 での両眼視     単語。