奥行き知覚 【オクユキチカク】🔗⭐🔉振
奥行き知覚 【オクユキチカク】
depth perception
知覚空間において事物が三次元的に定位すること。人間では,
視覚,
聴覚,探索的
触覚にこの能力が備わっているが,視覚が最も安定的であり弁別力に富んでいる。観察者から対象までの空間的広がりのことをたんに距離,絶対距離(absolute distance),あるいは自己中心的距離(egocentric distance)とよび,対象間の空間的広がりのことを奥行き(depth),相対的距離(relative distance),あるいは対象間距離(exocentric distance)という。
【視覚】 視覚の場合,刺激は
網膜において二次元的に受容されるが,知覚的世界は奥行き方向に広がっている。古典的な手がかり理論では,
眼とその周辺の
感覚器に手がかりとして与えられる二次元的刺激から三次元的世界が構成されると考える。奥行きあるいは距離の手がかりには,
眼球運動の手がかり(oculomotor cues, 眼のレンズの
調節,両眼の
輻輳),両眼網膜像差(binocular retinal disparity),絵画的手がかり(pictorial cues,
肌理きめの勾配,
高さ,
相対的大きさ,
重なり,
陰影,親しみのある大きさなど),運動産出的手がかり(motion-produced cues,
運動視差,
運動奥行き効果など)がある。このような手がかりが豊富にしかも調和的に与えられる日常的世界では弁別力に富んだ奥行き感が生じるが,手がかりを極端に制限した事態(たとえば,針穴を通して単眼で暗闇のなかの光点を観察する事態)では,どのような距離に呈示した刺激も,観察者から数mの距離にしかみえず,弁別力がきわめて低下する。
かなり多くの手がかりが生後1年以内に奥行き知覚に用いられているようである。
バウアー(Bower, T. G. R.1966)は,生後6〜8週の乳児に大きさの恒常性が認められることを実験的に示し,これは,乳児が頭を動かすことによって生じる運動視差を用いて奥行きを知覚しているからであるとした。
ランダムドット・ステレオグラムを用いた実験(Fox, R. et al.1980;Held, R. et al.1980)によると,両眼網膜像差は生後3.5カ月から6カ月の間に用いられるという。また,絵画的手がかりは両眼網膜像差が使えるようになった後の生後5〜6カ月頃に用いられることも示されている(Yonas, A. et al.1986)。
【聴覚】 また,視覚ほどはっきりしないが,聴覚においても,
鼓膜に空気の振動が伝えられると,通常,音源は身体の外に定位されて,音源の方向はもちろんのこと距離の知覚も生じる。この場合,手がかりとしてまず考えられるのは,音源までの距離の増大に伴う音の大きさの縮減である。我々は自動車の音ならこれくらい,人の声ならこれくらいというふうに対象と結びついた標準の音の大きさを記憶しているが,今聞いている音がこの標準音よりも小さければ遠方に,大きければ近くに音源があると判断する。また室内では直接音と反射音の大きさの比に基づいて音源までの距離を知覚するといわれる。
【探索的触覚】 探索的触覚も奥行きの知覚に貢献している。たとえば,眼を閉じていても,竿を手にもって振り回すだけで竿の長さがかなり正確に知覚される。また,眼を閉じていても,つまむだけでかなり細かく紙の厚みが弁別できる。おそらく,皮膚,筋肉,腱などに与えられる刺激が統合されてこのような奥行きの知覚を形成しているものと思える。ソロモンとターヴェイ(Solomon, Y. & Turvey, M. T.1988)は,竿を振り回した時に生じる慣性モーメントから我々は竿の長さを知りうることを示した。
→空間知覚 →立体視 →両眼視 →視差 →運動視差 →音源定位《Kaufman, L.1974;Goldstein, E. B.1989;東山篤規1994;Rock, I.1975;Sedgwick, H. A.1986》
→vid.文献
◆東山篤規



















心理学辞典 ページ 203 での【オクユキチカク】単語。