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偏見     【ヘンケン】🔗🔉

偏見     【ヘンケン】 prejudice[E]; Vorurteil[G]; prjug[F] 【定義と関連用語】 特定の集団に対する否定的な態度のこと。態度の三要素説によれば,認知感情行動が態度を構成する。偏見は認知的要素・感情的要素の複合体をさす。否定的な態度のうちの「行動的要素」に意味を限定したものが差別である。偏見の「認知的要素」とは,対象集団の成員行動に関する信念や期待のことをさす。ステレオタイプは,偏見の認知的要素が集団成員全般に一般化されたものである。偏見というと否定的態度に意味内容が限定されるのに対して,ステレオタイプは肯定的態度の認知的要素も含む(表参照)。 図表 【個人差要因】 偏見を規定する個人差要因に関して,さまざまな研究が行われてきた。たとえばアドルノら(Adorno, T. W. et al.1950)は,反ユダヤ主義尺度(A-Sスケール),より一般性の高い自民族中心主義尺度(Eスケール)で,自分の民族・国家・集団を他よりも優越視する傾向を測定した。これらはファシズム尺度(Fスケール)に発展した。これらの尺度得点が高い個人は,偏見ならびに差別の程度が強いことがわかった。また自己を制御できる程度と偏見・差別をもつ程度は,負の相関を示すことも知られている。認知スタイル研究(Witkin, H. A. & Goodenough, D. R.1981)からは,認知的複雑性が低い人やあいまいさへの耐性が低い人などが偏見をもちやすいことも示唆されている。偏見はある集団の成員全般に対する否定的態度であるので,成員間の個人差をよく弁別できる認知的複雑性が高い人ほど偏見ももたないと考えられる。あいまいさへの耐性が低い人は白黒を明確にしたい人なので,集団に対しても偏見をもちやすいと考えられる。 【偏見の形成】 さまざまに異なる社会・制度的水準における集団への偏見は本来どのように形成されたのだろうか(Allport, G. W.1954)。社会的影響,集団間競争,欲求不満(フラストレーション)の蓄積,差別条項の設定,誤った関連づけなどが偏見形成の要因である。多くの偏見は,偏見をもつ重要な他者からの社会的影響によって形成される。部落・少数者・特定人種などへの偏見が身近の重要な他者から植え込まれ社会的現実となる。また,限られた資源をめぐる競争から集団間の葛藤を生じると,敵対する外集団への攻撃を正当化するように偏見が発生する。あるいは内集団において蓄積した欲求不満を解消するため,成員の誰かを悪玉化(スケープゴート化)し,偏見の対象とする。そのほかに政治的要因がある。偏見がない状態でも何らかの差別条項が設定されると偏見が発生しうる。実際に偏見をもつ理由がなくても,誤った関連づけにより外集団に対する否定的態度が形成されうる(Hamilton, D. L. & Gifford, R.1976;杉森伸吉1993)。 【偏見の維持】 こうした社会・制度的にすでに存在している偏見は,個人が無批判に受容・同調することで維持され,偏見をもつ人々による自己充足的予言の帰結として強化される。特定の偏見をある集団に対してもっている人は,その集団の成員に対しても否定的・非好意的な評価を一般化する傾向がある。また特定集団に対する偏見をもつ人は,集団成員が行う行動のうち偏見に合致する情報を記憶すると同時に,成員の永続的な固有属性によるものとみて成員自身に原因を内部帰属する傾向がある。反対に,偏見に合致しない行動は無視したり,成員以外の状況的要因に原因を外部帰属し一時的なものとみる傾向もある。 【偏見の解消】 偏見が容易に生成されるのに対して,偏見の解消は困難な問題である。注意深く中立的に相手を判断するという態度は非常に大切である。特に偏見が強すぎる場合には偏見を制御する努力が不可欠になる(Devine, P. G.1989a)。しかし,心のなかで差別に反対していても,言動に表さなければ,差別を黙認し,消極的でも差別に加担していることになる。また共通危機の回避を目標に協力することは集団間の葛藤解決を促進しうる(Sherif, M. et al.1961)。その他,偏見をもつ人の社会的地位や満足度が上昇し欲求不満が解消されると,偏見も自然消滅しうる。さらに,偏見はその集団成員と相互作用を深めることにより氷解しうる。ただし接触自体が嫌悪を喚起する状態や集団間の地位が違いすぎる場合,偏見を低減することに熱心な唱導者がいない場合,協同よりも競争が支配的な場合などの接触は逆効果を招くことが多い(Cook, S.1985)。 →誤った関連づけ →A-Sスケール →Fスケール →Eスケール →エスノセントリズム →攻撃/攻撃性 →差別 →自己充足的予言 →リアリティ →スケープゴート →スティグマ →内集団/外集団 →内集団びいき →認知スタイル →vid.文献 ◆杉森伸吉

心理学辞典 ページ 2009 での偏見     単語。