不安 【フアン】🔗⭐🔉振
不安 【フアン】
anxiety
自己存在を脅かす可能性のある破局や危険を漠然と予想することに伴う不快な
気分のこと。漠然とした不安が何かに焦点化され対象が明確になったものを恐怖(fear)というが,
行動理論では,両者を明確に区別することはしない。一般的には,恐怖が特定の脅威事態に直面した時に生じる刺激誘発型の
情動であるのに対し,不安は予感・予期・懸念といった個人の認知機能に大きく依存した認知媒介型の情動であるといえる。また,不安は信号や手がかりを通じて未来の危険を現在に手繰り寄せることによって発生することから,時間的展望のなかにおいて生じる現象であり,本質的に未来志向的な情動であるといえる。不安についての見解を大別すれば,
精神分析的不安論,行動理論的不安論,認知論的不安論の三つに分けることができる。
[1] 精神分析的不安論:
フロイト(Freud, S.1926)は,脅威の原因が実際の外界にあるか,あくまで個人の内的
衝動にあるかによって,現実不安(Realit
tangst)と神経症的不安(neurotische Angst)を区別した。現実不安が外的脅威によって予想される危害や苦痛に対する複合した内的反応であるのに対し,神経症的不安は不安を引き起こしている原因が内的衝動であるため,周囲からわかりにくいという特徴がある。しかも,内的衝動の多くは
抑圧されているため,不安を感じている当人にも不安の原因がわからないことが多い。
[2] 行動理論的不安論:行動理論的にみれば,不安も恐怖も本質的な違いはない。
マウラー(Mowrer, O. H.1939)や
ミラー(Miller, N. E.1944)によれば,不安や恐怖は苦痛に条件づけられた
反応と見なされている。特定の場面で苦痛を経験すると,その経験場面に含まれていた各種の
刺激は,その後,実際の苦痛によって引き起こされたと同様な情動や回避反応を引き起こすようになる。このように不安は,経験のなかに含まれていた刺激によって喚起された苦痛の
予期反応であり,条件づけられた反応と考えられる。また,回避条件づけにおいては,不安が脅威刺激の出現を妨げるような反応の
動因になっている点も見逃すわけにはいかない。
[3] 認知論的不安論:
ラザラス(Lazarus, R. S.1966)は,不安が事態を脅威的だと認知することにより生じる認知媒介型の情動であると主張し,一次的評定(primary appraisal),二次的評定 (secondary appraisal),再評定(reappraisal)の三つの認知的評定が関連していると考えている。一次的評定とは,予想される脅威事態の属性および自己関連性の評定である。二次的評定は脅威事態に対する制御可能性の判断であり,再評定とは新たな情報入手や実際の経験から認知的評定に変更を加えることである。予想される事態が脅威的で自己関連性が高く,しかも,自分ではどうにも制御できないと評価したとき,不安は高くなると考えられる。
不安発生の条件としては,一次的過剰刺激,認知的不協和,反応の非有効性の三つに集約できる。一次的過剰刺激(primary overstimulation)とは,恐れや不安が引き起こされる基本的原因となる強い感覚刺激のことである。耐性の限界を越えた刺激量は,高い情動覚醒状態を引き起こし,落ち着きのなさやさまざまな行動的変調を誘発しやすい。認知的不協和(cognitive incongruity)とは,未知の事態に直面した時などにみられるもので,自分の解釈図式では自己と環境条件との関係を正しく定位できないことへの懸念と関係している。反応の非有効性(response unavailability) とは,脅威事態からの
回避や
逃避を可能にしたり,高まった情動覚醒を低減させたりする反応が,不可能もしくは困難であることを意味する概念である。これらの条件は,客観的な条件というより多分に主観的なものであり,個人の認知機能によって不安の程度は大きく左右されることになる。
→恐怖反応 →不安障害 →神経症 →抑圧 →条件性不安モデル →認知的評価理論 →系統的脱感作法 →抗不安薬 →不安検査《Edelmann, R. J.1992;Spielberger, C. D.1972》
→vid.文献
◆生和秀敏

















心理学辞典 ページ 1885 での【不安 】単語。