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表象     【ヒョウショウ】🔗🔉

表象     【ヒョウショウ】 representation ; idea[E]; Vorstellung[G]  表象は対象に関して心理学的過程を経て抽出された情報を長期記憶保持するための心的形式の総称である。 【表象の区分】 表象は,少なくとも次の2種類に区分できる。第一の表象は,刺激の物理的特徴とできるだけ類似の特徴をもつように形成される表象である。これをアナログ的表象(映像的表象)とよぶ。刺激とアナログ的表象との間の関係は,地形に対する地図にたとえることができる。地図は,実際の地形を,高さを除いて正確に縮小したものであり,実際の方位や距離は,地図上でも方位と距離であり,特性として一致している。第二の表象は,刺激の物理的形式と類似する特徴をもたないが,刺激のもつ意味を十分に再現できるように形成される表象である。これを分析的(抽象的,命題的)表象とよぶ。このような表象の例として言語があげられる。たとえば,視覚的対象としての“△”は,それを表す単語「三角形」と物理的な特徴では一致しないが,意味的には一致している。 【アナログ的表象】 イメージは最も重要なアナログ的表象と考えられている。シェパードとメッツラー(Shepard, R. N. & Metzler, J.1971)の心的回転の実験では,10個の立方体を結合した三次元物体を二次元平面に投影した図の対を被験者に呈示し,2対象が同一か否かの判断を求めた。その結果,正反応の所要時間は両図の呈示方向の角度差に比例することがわかった。この実験結果は,反応時間が刺激に物理的操作を施す場合の所要時間に比例することを明らかにしている。このことは,刺激がアナログ的な表象によって保持されていることを意味する。 【分析的表象】 分析的表象は「心的文章」ともいわれ,対象に関する一連の命題からなるリストと考えられている。たとえば,机の上にコップがある光景は,「上にある(コップ,机)」のように表現される。マンドラーとリッチー(Mandler, J. M. & Ritchey, G. H.1977)は,学校の授業風景を描いた線画の記憶実験を行った。被験者は,最初に学習する線画と検査時の線画との一致・不一致を判断した。両線画の間では,ある場合には先生の服装が,別の場合には黒板に掲げられた教材の種類が変化した。授業場面においては,教材の変化は服装の変化よりも重要な変化であり,実験の結果,教材変化の場合には,服装変化の場合よりも正確に不一致判断がなされた。このことは,線画の構成要素がそのもつ意味に応じて記憶されていることを示しており,表象は分析的であることを意味する。 【表象の刺激依存性】 サンタ(Santa, J. L.1977)は,図形“△”,“○”を上段に左右に配置し,“□”を下段の中央部に配置した刺激を被験者に学習させた。学習後,学習刺激と同じ配置の刺激と,“△○□”のように直線的な配置の刺激とを呈示し,再認実験を行った。再認条件は配置ではなく要素が一致することであったが,再認の所要時間は,検査刺激が学習刺激と同じ配置の場合により短くなった。このことは,図形は要素の配置を含むアナログ的な表象として保持されることを意味する。一方,単語「三角形」「円」を上段に,「四角形」を下段に配置した刺激を学習させて同様の実験を行うと,単語を直列に配置した検査刺激に対する再認時間の方が学習刺激と同じ配置よりも短くなった。この結果は,単語は直列的なリストとして分析的に表象されることを意味する。この実験結果は,表象が,刺激材料に依存して,アナログ的でもあり分析的でもありうることを示している。 【議論の現況】 ペーヴィオ(Paivio, A.1971)は,アナログ的・分析的両表象がともに一つの情報の保持に関わるとする二重符号化理論を主張した。一方,言語情報を取り扱う研究者たちは,情報は分析的な表象によってのみ保持されると主張している(たとえば,Anderson, J. R.1983)。最近,コスリン(Kosslyn, S. M.1994)は,神経心理学的研究も考慮に入れて,アナログ的表象によって情報が保持されうるという主張を展開している。現在,アナログ的表象と分析的表象を同列に論ずることの可否も含めて,多様な議論が展開されている。 →心的イメージ →映像的表象 →音韻表象 →行為的表象 →象徴的表象 →命題表象 →vid.文献 ◆須藤昇

心理学辞典 ページ 1868 での表象     単語。