認知発達 【ニンチハッタツ】🔗⭐🔉振
認知発達 【ニンチハッタツ】
cognitive development
認知発達の研究は,知る過程や
知識の構造化や利用などの
認知を研究対象として,知識の初期値,知識獲得機構,知識構造の変化などの問題を明らかにすることをめざす。
ピアジェ(Piaget, J.1970b)によって大きく進められた。ピアジェの基本的な考えは,
認知(
思考)が内容とは独立して領域一般的に発達するとし,認知のモデルとして論理モデルを考え,一般的段階を設定した。また,
発達のメカニズムも,生得的でも経験主義的でもなく,主体と環境との絶えざる相互作用による
均衡化というメカニズムで説明できるとした。このようなピアジェの理論に対して,最近の認知発達研究の流れは種々の点で異なっている。最近の研究の特徴は,生涯発達の視点に加えて,乳幼児期の有能性(
コンピテンス)の強調,認知発達の
領域固有性の強調,孤独な科学者としての子どもに対する社会的相互作用による知識獲得の強調等があげられる。
【乳幼児の有能性】 乳児が
奥行き知覚,
知覚の恒常性,
色のカテゴリー的知覚,言語音と非言語音の区別(生後12時間児),生後4日児が異言語(フランス語とロシア語)の韻律パターンの違いに敏感である,また節で区切られる方がそうでないより長く
注意を向ける(7カ月児),言語音のカテゴリー的知覚,6カ月児における因果的知覚や物理的な因果性認知,生後36時間児の顔の
表情の模倣(共鳴),9カ月児の
延滞模倣,運動における生物と無生物・男女の弁別,感覚間
協応,
記憶における
再生,ものの物理的特徴に関する理解,数の理解,乳児の母親とものに対する相互作用の違いの理解,他者の
情緒表出を自分の行動の承認・拒否として読み取るという社会的参照(social referencing, 他者への問い合わせ),動物や乗り物の
カテゴリーの形成,幼児の対象物の見えない内部の理解,
心の理論(精神世界と物理世界の区別,誤信念の理解),幸せ,悲しみ,怒りなどの情緒の因果的な理解等を示すことが知られている。特に,このような有能性の発見の背景には,研究法の工夫がある。
【乳幼児の有能さの説明】 乳幼児の有能さを,制約や
モジュールなどの種に特有の生得的傾向という年長児や大人とは異なるメカニズムで説明しようとする考えがある。制約とは,仮説を狭め,
学習を方向づけるものといえる。ゲルマン(Gelman, R.1990)は特定の認知領域の
概念や事実と関係したデータに注意を向けさせ,それらを領域固有に
体制化する原理をもたらし,環境の考えられる解釈の幅を狭めることができるということだという。数の領域に関して,ゲルマンとガリステル(Gelman, R. & Gallistel, C. R.1978)は計数の学習に制約を与える生得的に特殊化された原理として,(1)一対一対応,(2)安定した順序,(3)項目無関連性,(4)順序無関連,(5)基数性という五つの原理をあげている。また,スペルキ(Spelke, E. S.1994)は,発達の最初の知識は,(1)発達初期に現れる,(2)領域固有的である,(3)領域内の実在物への基本的な制約をもつ,(4)生得的である,(5)後の成熟した知識の核となる,(6)課題固有的であるという六つの特徴をあげている。しかし,たとえば語の意味の制約では,マークマン(Markman, E.1992)は相互排他性,事物全体仮定,事物カテゴリー仮定という制約をあげているが,これらが生得的ではないと考えているというように,生得性に関しては議論がある。
【認知の領域固有性】 ウェルマンとゲルマン(Wellman, H. M. & Gelman, S. A.1997)は,「領域」を生物学,心理学,物理学等のように知識や
信念がその領域内で相互にまとまりをもち,その領域内の現象に一貫したその領域にのみ適用できる固有の因果的説明を与える素朴理論の適用される範囲をさすと定義し,現象を特定の領域に解剖するフレームワーク理論を仮定した。そして,三つの基本的フレームワークとして素朴物理学,素朴心理学,素朴生物学をあげている。理論の基準として,(1)その領域の核となる存在論的区別ができる,(2)その領域の現象の
推論にその領域固有の因果的原理を用いる,(3)この因果的な信念がさまざまな知識をまとめ理論的な枠組を形成する,という三つをあげている。子どもは特定の知識が欠けている場合にでもフレームワークによって理解したり信念をもつことができるという。
【社会的文脈における知識の獲得】 ピアジェのように一人で知識を獲得するという孤独な科学者としての子どもの把握に対して,ロゴフ(Rogoff, B.1990)は認知発達を子どもが親や他者と一緒に社会的に構造化された活動に参加することで知識と
技能を獲得する徒弟制(apprenticeship)と見なし,そこでは親などがその子の知識と技能の現在の水準に合わせた援助をするというガイドされた参加(guided participation)の過程を通して特定の
文脈で学ぶことを強調する。
→領域固有性 →素朴概念 →模倣 →認知的制約 →認知的徒弟制 →認知発達理論
→vid.文献
◆落合正行





























心理学辞典 ページ 1711 での【認知発達 】単語。