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認知科学     【ニンチカガク】🔗🔉

認知科学     【ニンチカガク】 cognitive science  認知科学は知を解明しようとする科学である。特徴として,知的活動を心的表象(mental representation)のレベルで分析しようとすること,コンピュータを心の一つのモデルとすること,学際的であること,ギリシア以来の認識論的伝統の影響を受けていること,などがあげられる(Gardner, H.1985)。1977年より学術雑誌 Cognitive Science が刊行され,79年に第1回目の認知科学会が開催された。その比較的短い歴史のなかでも知に対する考え方はすでに微妙に変化してきており,機構のレベルで記憶など高次認知機能を解明しようとする試みや,文化人類学や社会学の新しい動きの取り込みや,感情文化,社会などのテーマ,ひいては「心とは何か」「子どもは心をどう理解するか」など,心についてのより直接的なテーマを取り上げる研究が盛んになっている。同時に,それらの成果を,インターフェイス・デザイン,教育環境開発など,日常的な人の生活に直接かかわる場面で応用検証していこうとするプラグマティックな傾向も強い。  歴史的に見ると,1950年代後半から始まっていた人工知能(AI)研究者による知的なシステムを計算機上に実現しようとする試みが理論構築の方法論として心理学に取り入れられ,言語過程や記憶表象の問題などの複雑なプロセスの明確な記述と,シミュレーションによるその整合性のテストを可能にした。このような方法論的変革により,心理学の扱う現象の幅が大きく広がった。反対に,AI研究者の提案した枠組が心理実験によって欠点を指摘され,修正されるという実りある相互作用も起こるようになり,全く新しい方法論を生み出す原動力となっていった。  心理学,AI研究のほかにも,エソロジー,構造主義言語学,文化人類学,脳の神経回路における情報処理的アプローチなど,認知科学を構成する諸領域はおのおの異なる視点から認知システムに関する有用な知見を提供する。たんに隣接領域が協力しあうというのみにとどまらず,異なる方法論,視点の融合により全く新しい方法論が生まれるとともに,領域の境界を超えて共通に存在する問題が認識される。異なる領域間の交流には種々の障害もある。一つは領域間の障壁,理論的言葉や,基本理念,価値観の違いであり,もう一つは,領域内の障壁,すなわち時には確立された方法論的制約からはずれなければならない認知科学研究者に,いかにして正当な研究の地盤を確保するかである。アメリカでは認知科学と名のつく学部が1980年代後半になっていくつも設立され,研究体制が確立されつつある。日本でのこれからの動きが期待される。 →人工知能 →認知 →認知心理学 →認知神経科学 →認知工学《安西祐一郎ほか1992;Posner, M. I.1989;Osherson, D. N.1995;橋田浩一ほか1995→vid.文献 ◆三宅なほみ

心理学辞典 ページ 1696 での認知科学     単語。