認知 【ニンチ】🔗⭐🔉振
認知 【ニンチ】
cognition
英語cognitionの語源はラテン語のcognoscereで,「知ること」という意味をもち,哲学的用語としては認識と訳される。この語源の意味は学術用語として認知の意味に受け入れられている。たとえば,「認知とは知ることであり,認識ともいう。知るためには
知覚,
記憶,
学習,
思考が必要であり,認知はそれらを必然的に含む」という表現(梅本堯夫1996)に,また,
認知科学の対象は「知覚することおよび知ること」にある(Stillings, N. A. et al.1987)とする考えに認められる。しかし,「知る」内容に問題がある。後者の例では,認知を知覚することと知ることとに分けている。これに対して,前者の例では知覚することは知ることに含まれると考え,そのことが明確に示されている。
人は「知る」ために,それに適した構造と機能を有する認知系と考えられる。人という認知系は対象を知るために必要な情報を処理し,所定の認知過程を経て対象を知る。対象認知がいかになされるか。この問題は
認知心理学の研究対象である。
ナイサーは認知心理学の古典ともいうべき彼の著書(Neisser, U.1967)で,認知は
感覚器に入力された情報が変換,整理・単純化され,表現を与えられ,記憶に貯蔵され,必要に応じて再生,利用されるすべての過程と関係する,と説く。さらに,彼は外界から関連情報が入力することなしに起きる心像(
心的イメージ)や
幻覚も同様に認知に関係すると考えた。彼はこのような考えに基づいて,とりわけ関心の深い下位認知として,
感覚,知覚,イメージ,
保持,
再生,
問題解決,思考等をあげている。なお,人は,ある
知識について,その知識の有無,確からしさ,検索利用の容易さ等を認知することができる。この能力があるので,人は知識の
モニタリングを行い,知識を制御することができる。このような知識の認知は
メタ認知(Flavell, J. H.1979)とよばれ,人の認知の特徴と考えられている。
人は認知機能をもち,認知について知ろうとする強い興味を有する。認知についての研究はギリシアの哲学者(たとえば,
プラトン,
アリストテレスら)によって始められた。17世紀頃よりイギリス経験論が起こり,知識は後天的に経験により獲得されると主張した(たとえば,
J. ロック)。これに対して,
カントは内省による研究により,心には空間,時間,因果関係を認知する構造が備わっており,認知はその先天的構造によって決定されると説いた。19世紀になると,哲学的研究から離れて,
内観法を用いて
意識の分析・総合を行う実験心理学的研究が
ヴントによって開始された。やがて,
ワトソンにより,
行動主義が提唱され,客観性を重視する立場から内観法を否定する研究の流れが起こった。その特徴は,研究が客観的に測定される
刺激と
反応の関係に限られ,内的な認知過程の研究を否定した点にあった。しかし,
ハルや
トールマンの認知論的な心理学研究および人の知的能力と関係する応用心理学的研究から,刺激と反応の間をブラック・ボックスとする行動主義の考え方はあまりにも制約が強く,単純で,適切でないことがしだいに明らかになった。おりしも,
チョムスキーは彼の言語理論の立場から
スキナーの行動主義を批判した。他方,通信工学の領域で
情報理論が構築され,その概念・理論が心理学の研究に導入され,また,計算機による
人工知能,認知モデル構成等の工学的な認知研究が著しい進歩をみせるにおよんで,
認知構造および認知過程を明らかにする研究が一気に進んだ。こうして,行動主義から認知論的研究へと研究態度が変化した。
近年,認知を対象とする研究は,認知心理学,情報科学,神経科学,言語学,哲学等の領域で盛んに進められ,顕著な成果が産み出されてきた。現在では,これらの学問領域を総合した学際的研究の必要が認められて,認知科学の名のもとに人(一般には動物)の認知および人工知能・ロボットの認知,およびそれらの間の関係についての活発な研究が進められている。
→知覚 →記憶 →学習 →思考 →心的イメージ →認知心理学 →認知科学《Benjafield, J. G.1992;Hampson, P. J. & Morris, P. E.1996;Johnson-Laird, P. N.1988;梅本堯夫1987》
→vid.文献
◆今井四郎



































心理学辞典 ページ 1694 での【認知 】単語。