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動機づけ     【ドウキヅケ】🔗🔉

動機づけ     【ドウキヅケ】 motivation  行動の理由を考える時に用いられる大概念であり,行動を一定の方向に向けて生起させ,持続させる過程や機能の全般をさす。それゆえ,知覚学習思考発達をはじめとする行動の諸過程を理解しようとする時には欠くことのできない概念であるともいえる。ごく一般的には,行動は,主体が何らかの要求(欲求)をもち,同時に要求の対象(誘因)が存在する時に生起すると考えられている。さらに,要求と誘因が出会うことによって生じ,行動の直接的な推進力となる動因の概念もこの過程に加えられることがある。動機づけの概念は,これら行動の発現と維持にかかわるすべての要因を含んだものとも考えられる。しかしながら,動機づけ概念の捉え方は,各研究パラダイムによって異なり,確定的なものはない。以下にさまざまな立場よりの動機づけ研究について簡単に触れる。 【本能論】 我々の行動は本能とよばれる生得的に与えられた動機づけ要因によって引き起こされるという構想である。精神分析学者S. フロイトは,自己保存および種の維持を目的とするエロスの本能(欲動)と,自己や種を無機的状態に導こうとする死の本能とが対立しながら行動を支配するという理論を提出した。また,マクドゥーガル(McDougall, W.1908)は,社会的行動を含む人間の行動を本能から生じるものと考え,性,逃避,拒否,自己主張,群居等の本能のリストを提出している。この後,さまざまな研究者によって数多くの本能のリストが示され,一時は数千種類の本能が仮定され(Bernard, L. L.1924),「本能を信じる本能」という副題をもつ論文(Ayres, C. E.1921)まで発表された。しかしながら,特定の本能を分類するのみでは行動発現のメカニズムを述べることにはならず,また容易に循環論に陥ることになるという理由から本能に関する研究はしだいに衰微した。 【エソロジー】 動物を用いた研究により,本能の概念は再び注目されることになった。ローレンツを中心とする比較行動学者たちは,動物の行動を通じて,解発刺激転位行動あるいは真空活動などの概念を検討し,行動は生得的要因によって大いに影響を受けることを示した。 【生理学的動機づけ理論】 行動発現における生得的要因の影響を重視する点では本能論と同じ傾向をもつが,生理学的過程に注目することによって本能論では言及されなかった行動発現のメカニズムについて考察しようとする立場である。キャノンは,生理学的過程を中心とする個体内部の平衡状態が失われるとき,これを回復させるために行動が生起するというホメオスタシスの原理を提唱した。一方,行動主義心理学者のハルは,ホメオスタティックな不均衡の状態を解消するために要求および動因が生起し,それに導かれた行動によって動因や要求が低減されることが,当該行動を強化するための最も大きな要因であるとした(動因低減説)。しかしながら,行動は生理学的な不均衡の存在のみでは生じない。動因低減説を発展させたスペンス(Spence, K. W.1956)の誘因動機づけ理論では,クレスピ効果などの現象を用いることによって内的な動因(たとえば,飢え)ではなく,誘因とよばれる外的な刺激や目標物(たとえば,食物)によって行動が引き起こされることが示されている。 【認知的動機づけ理論】 生得的ないし生理学的な過程とはなかば独立に,人間の認知機能が行動を発現させる原因になるという立場である。行動は目標達成への期待目標の価値(誘因価)との関数であると仮定するJ. W. アトキンソンらの期待 = 価値理論や,入力された刺激と何らかの内的な基準とのずれが行動を発現させるというバーラインらの認知論的な内発的動機づけ理論,あるいはTOTE単位の理論を発展させたパワーズ(Powers, W. T.1973)らのコントロール理論がその例としてあげられよう。 【人間的動機づけ理論】 人間は能動的な存在であるという前提にたち,人間に特有の主観的な要因が行動の原因になるという構想である。ロジャーズマズロー自己実現の要求,ホワイト(White, R. W.)のコンピテンス(有能性)の感情,あるいはディシ自己決定感への要求等が行動を統制する要因として主張され,産業場面や臨床場面において影響を与えている。 →欲求 →動因/誘因 →好奇心 →本能 →動因低減説 →期待 = 価値理論 →TOTE単位 →内発的動機づけ →コンピテンス →社会的動機づけ →達成動機《Cofer, C. N.1972;Heckhausen, H.1991;前田嘉明1969;Weiner, B.1992→vid.文献 ◆赤井誠生

心理学辞典 ページ 1596 でのドウキヅケ単語。