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適応     【テキオウ】🔗🔉

適応     【テキオウ】 adaptation ; adjustment  生物が環境に合うように自らの身体や行動を変容させること,またはその状態をさす。もっとも,その調節をもたらす仕組は多様であり,その捉え方によって適応の意味も多義的である。 【系統発生的な適応】 自然選択によって集団中に何らかの遺伝的な性質が広まっていく過程,もしくはそれによって個体の生存や繁殖がより有利になった状態を適応とすることができる。また場合によっては,そうして広まった生存価をもつ性質そのものをさして適応ということもある。たとえば,19世紀以降イギリスの工業化による大気汚染に伴って,短期間のうちにオオシモフリエダシャクというガに黒色型が増加したという工業暗化の現象は,このような適応の好例といえる。そういった性質は,単独でみられる場合もあれば,複数の性質の複合としてみられる場合もあり,こうした適応によって,生物界にみられる多様性がもたらされている。もともと同一起源をもつ生物が異なる環境に適応し,やがて異なる系統に分岐していくことを適応放散(adaptive radiation)という。しかしながら,自然選択によって広まった性質がすべて適応的であるとか,適応的な性質はすべて自然選択の原因になるといった,自然選択と適応の単純な結合は必ずしも正しくない(河田雅圭1989)。  社会生物学では,たんに繁殖可能な齢まで子孫がどれだけ生き残れるかではなく,血縁個体の生存によるものも含めた総和として自分のもつ遺伝子をどれだけ次代に伝えられるか(包括適応度)が適応上の問題だとした。またそのような適応戦略は性によって異なると考えられており,その説明にゲーム理論が用いられることもある。 【個体発生的な適応】 個体が生後の発達のなかで遺伝情報と経験をもとに,物理・社会的環境との間において,欲求が満足され,さまざまな心身的機能が円滑になされる関係を築いていく過程もしくはその状態をいう。心理学領域では適応をこの個体発生的意味で扱うことが多い。防衛機制はこのような適応のメカニズムと見なすことができるが,一方においてこのような環境と個体との調和的関係が乱れた状態は不適応とよばれ,疾病や犯罪といった形をとって現れる。しかしながら環境と個体の調和的関係という捉え方は必ずしも単純なものではなく,たとえば動物の隔離飼育による行動変容のように,いわゆる不適応的行動とみえるものがじつは不適切な環境条件への適応であるという可能性がある。  なお,適応の第三義として,順応ともよばれる生活体の可逆的な調整過程があるが,これには,まぶしさに徐々に目が慣れる時のように持続的な刺激に対する感覚受容器または感覚器の反応性の変化と,寒暖に対する体温調節等の生理学的変化とがある。 →ダーウィニズム →順応 →包括適応度 →不適応《Wilson, E. O.1975;Dawkins, R.1976→vid.文献 ◆根ヶ山光一

心理学辞典 ページ 1559 での適応     単語。