運動の知覚 【ウンドウノチカク】🔗⭐🔉振
運動の知覚 【ウンドウノチカク】
motion perception
運動の
知覚は,生物の生存にとっては非常に重要で,運動知覚は進化的にみると,その初期に発達したという。たとえば,飛んでいる動物を捕食できるためには,動き,方向,位置,速度などを知覚できなければならない。そのような能力がなければ,捕食者の生存の可能性は低くなる。同様に,被捕食者も生存するためには捕食者を知覚できなければならない。たしかに,今日の私たちはこのような意味での能力は直接には必要としないが,自動車のような接近対象を回避できなければ,生命が失われる可能性はある。さらに,運動知覚には次のような機能がある。(1)運動は,私たちの注意を惹きつける。
網膜周辺部の動きは
眼球運動を生じさせ,対象を
中心窩かへもたらし,明確に知覚させる。(2)観察者に対する対象の運動は,複数の見えを与えることにより,対象の三次元形状に関する確かな情報を与える。(3)運動は,
図と地の
分凝を可能にする情報を与える。(4)運動は,私たちが環境と能動的に接触するための情報を与える。たとえば,車を運転する際,諸対象の光学的流動はドライバーが正しいコースを保ったり,対象との衝突を回避する情報を与える。
運動知覚の研究は,主として二つの方向から行われてきた。一方は,受動的観察者を用いた,運動知覚の伝統的アプローチである。研究の多くは実験室状況で行われ,比較的単純な刺激事態が使われ,(1)運動知覚に影響する刺激属性,(2)運動知覚の生理的メカニズム,の解明におもに焦点が当てられている。私たちの知覚特性は,刺激の物理的特性とは必ずしも一義的には対応していないが,これは運動知覚においても同様である。たとえば,運動が知覚されるには五つの場合がある。典型的場合は,対象が物理的に運動している,
実際運動の場合である。従来,多様な運動刺激を用いて,運動知覚に影響する刺激属性(速度,大きさ,位置など)や生理的メカニズム(運動ディテクター等)について研究が行われている。第二の場合が
仮現運動である。2光点を適切な時間間隔をおいて交互に点滅すると,滑らかな運動が知覚される。第三の場合が,
誘導運動である。暗室内で,静止光点を取り囲む長方形が動くのを観察すると,逆に長方形が静止し,光点が動いて見られる。この現象は,運動の知覚が,観察されている文脈に依存していることを示す。第四の場合は,暗室内で呈示した静止光点が動いて見える,
自動運動である。最後は,滝の流れなどを見ていて,回りに目を転じると,風景が逆に動いて見える,
運動残効の場合である。このように,運動の知覚が成立する要因は,非常に多様で複雑である。
運動知覚の他方のアプローチは比較的最近であり,
J. J. ギブソンの生態学的アプローチの影響を強く受けている。これは伝統的研究よりは複雑な刺激事態を用い,能動的観察者による知覚を重要視している。また,運動知覚を時空間上の変化である事象(event)の典型的ケースと考えている。ギブソンと並ぶ事象知覚の代表的研究者であるヨハンソン(Johansson, G.1950)は,暗室内で数個の運動光点を呈示し,物理的軌道とは異なる運動軌道が知覚されることを示した。たとえば,直交するL字型軌道上を運動する2光点を観察する。すると,2光点は互いに斜めの軌道上を往復運動し,同時にそれらが一つのユニットとして,別の斜めの軌道上を動くのが知覚される。つまり,知覚系は
近刺激運動パターンから各運動光点に共通の共通運動成分を抽出し,それが残余の相対運動成分の背景となる,という知覚的ベクトル分析(perceptual vector analysis)を提唱した。その妥当性を示すために選ばれた複雑な事象が
生物学的運動であり,光点運動パターンから,人の知覚や,性別や友人の認知などが可能なことが示されている。
→実際運動 →仮現運動 →誘導運動 →自動運動 →運動残効
→vid.文献
◆柏原崇














心理学辞典 ページ 151 での【ウンドウノチカク】単語。