知覚 【チカク】🔗⭐🔉振
知覚 【チカク】
perception[E, F]; Wahrnehmung[G]
知覚とは,生活体が(感覚)
受容器を通して,外界の事象や事物および自己の状態を直接的・直感的に捉える働き,およびその過程をさす。
感覚,
認知という言葉も,同様に外界や自己の状態を把握する働きを意味するが,
課題の複雑性から区別し,より単純な課題の場合「感覚」という語を使用し,複雑な場合を「認知」とすることもある。また,質的な違いから区別する場合もあり,「知覚」は「感覚」と比べて行動的な意味や象徴および時空間的内容を備えているという点から区別される。
運動の知覚,
時間知覚,
音声知覚,
形の知覚,
奥行き知覚,
因果関係の知覚という用語は,知覚内容からの区別である。
外界および自己の内部に生じる
刺激は受容される際,感覚器官の働きに基づくため,感覚器官の性質に依存する。そのため,知覚は環境の模写ではなく,刺激に忠実ではないという限界が生じる。つまり,刺激により受容器が
興奮され,
神経細胞の電気的活動としての
インパルスに変換され,求心性神経によって
中枢神経系に伝達され,
脳中枢の複雑な電気活動によって知覚が生じるが,刺激は受容器を興奮させる場合もあるが,興奮させない場合もある。受容器の性能として,受容する刺激が決まっているため(
適刺激),刺激の種類によっては,感覚器官の興奮が生じない場合もある。また逆に眼を強く押すと光が見えるというように,
視覚が圧刺激によって引き起こされる場合もある(
不適刺激)。また,受容器は刺激の範囲が限定されており(ほぼ
刺激閾いきから
刺激頂までの範囲に該当する),刺激が持続して与えられると感受性が変化し(
順応),それに応じて知覚体験も変化する。また知覚は,中枢神経系の活動にも大きく依存するため,感覚相互の関係にも基づいている。知覚はそれ自身独自の構造,体制を有している点が研究の焦点であった。
古来,知覚を感覚的要素に分析する
ヴントの
実験心理学の発端以来,知覚は研究者を引きつけてきた。現前する現象として知覚を捉える
実験現象学から出発する
ゲシュタルト心理学では,知覚の体制の研究がその発生の契機になった。
図と地の
分凝や反転が問題とされ,
群化の法則,
プレグナンツの傾向が提起された。対象は他の対象と無関係に知覚されるのではなく,他の対象との関係において知覚される。たとえ同一の刺激が与えられたとしても,刺激文脈,過去経験によって,異なった知覚が成立する。この問題は,知覚判断における準拠系(
枠組),
順応水準の問題として研究されてきた。また
恒常現象,
幾何学的錯視,
視空間の
異方性,
仮現運動,
図形残効等,これらの現象は知覚の独自の体制を示している。
しかし一方で,知覚は閉じられたシステムではなく,全体として他のシステムとも何らかの統合的な相互関連的システムをなしているという観点からの研究も行われている。生活体の
価値,
欲望,
情動など内部要因との関係については,力動的知覚,
社会的知覚と名づけられ,いわゆる知覚ないし心理学におけるニュールックのテーマとなった。また知覚は成立に際して,発生的な変化を受けることも知られている。知覚の成立における
学習の役割は,
知覚学習として研究が行われてきた。乳幼児の知覚,先天盲の開眼手術後の知覚,動物の知覚環境の制限等の研究がある。身体運動系と知覚との関係は,逆転視等の
変換視の研究によって明らかにされている。さらに知覚は
記憶,
思考など他の心的機能とも関係している。これらの高次な精神機能は,深く関連した一つのシステムとして捉えられ,多く「認知」という語が用いられる。
情報処理の観点から
認知心理学では,感覚情報装置,
注意等の過程が知覚研究で問題となってきた。
歴史的にみて,研究者による心理学研究の枠組の相違は,知覚に対するスタンスに影響を与えており,種々の理論を提起してきた。
ケーラーは,知覚的現象と中枢神経的過程とを
心理物理同型説で捉えたし,
ブルンスウィックは,刺激と行動との関係を
レンズ・モデルで説明した。相互作用説では知覚者と知覚対象との相互作用を強調する。これに対して
行動主義では,知覚は初期には軽視されたが,
新行動主義といわれるグループでは知覚を刺激と反応との
仲介変数として捉え,学習における刺激の条件に還元する者(
ハル,
スキナー)から,
精神物理学的測定法を取り入れ積極的に研究する者(
スティーヴンス)や目標と手段との関係の認知を重視する者(
トールマン)まで広がりをみせている。現在では極端な行動理論は影を潜めつつある。認知心理学では画像,文字等の情報からの情報抽出過程に関する研究や記憶
検索との関係等,従来の知覚研究では限定できない研究領域が広がると同時に,それぞれ研究の分化の度合も強まっている。
→枠組 →順応水準 →知覚学習 →知覚発達 →ニュールック心理学 →感覚 →認知 →記憶《大山正1970;柿崎祐一・牧野達郎1976;和田陽平ほか1969》
→vid.文献
◆嶋田博行































































心理学辞典 ページ 1472 での【知覚 】単語。