相貌失認 【ソウボウシツニン】🔗⭐🔉振
相貌失認 【ソウボウシツニン】
prosopagnosia
よく知っている人物の顔を見てもそれが誰だかわからず,新しい顔を学習することもできない症状で,1947年にボーダマー(Bodamer, J.)が,独立した臨床症状として物体失認など他の視覚性失認から分離した。顔ははっきり見えており,顔に関するさまざまな知覚テストは問題なくできる連合型と,顔の知覚も障害されている統覚型とが区別される。重度な場合は家族はもとより鏡に映った自分の顔さえわからなくなる。目の前に居ても認知できない家族などの顔のイメージが浮かぶ例もあるが,顔だけのイメージが喪失し,場所や物品など他のイメージは残る場合もある。外界から色が消えて白黒の世界になる大脳性色盲や物体失認など,他の視覚認知障害を随伴していることもあるが,相貌失認だけが単独で出現することも多い。
後頭葉内側下部の紡錘状回の両側性損傷で起こるが,右一側性損傷で生じた例も報告されている。
相貌失認では,自動車,衣類などが認知できてもそれが誰の物なのかを特定できないことが多く,相貌失認は個々の対象を特定することの障害で,顔に限定された認知の障害ではない,と主張されることも多い。しかし,重度の相貌失認で顔以外の対象の特定には何ら困難を示さない症例も報告されている。こうした事実や視覚刺激のなかで顔のイメージだけが選択的に喪失することがある事実,顔だけが実際とは変わって見える相貌変形視が存在する事実などから,脳内には,顔を他の視覚刺激とは区別して処理する顔固有の処理機構があるとする見解も提唱されている。
相貌失認の患者が,誰だかわからない顔でもそれと正しい名前との対に対しては,誤った対より大きな
皮膚電気活動を示す事実や,顔と名前の正しい対を誤った対より早く学習する事実から,顔の潜在的認知は残っていると考えられるが,潜在的認知を示さない症例も報告されている。
→失認 →視覚失認 →顔認識
◆河内十郎


心理学辞典 ページ 1376 での【相貌失認 】単語。