精神分析 【セイシンブンセキ】🔗⭐🔉振
精神分析 【セイシンブンセキ】
psychoanalysis[E]; Psychoanalyse[G]
S. フロイトの創始した心理学理論であり,その理論に基づく心理療法であって,人間心理の研究方法でもある。精神分析をどのように定義するか,またどの範囲までを精神分析とするかは研究者によって異なるほど,今日では精神分析は
精神医学や
心理学のみならず,他の学問分野へ大きな影響を及ぼしている。そもそもフロイトは,「(人の)内部に抑圧されている精神的なものを意識化する仕事を我々は精神分析と名づけた」(Freud, S.1918 b)として,
無意識の深層を研究する科学と定義したが,彼の娘である
A. フロイト(Freud, A.1936)は,「
深層心理学すなわち精神分析ではなく,(
イド,
自我,
超自我)これら三つの部分について完全な知識を得ることが精神分析の課題である」としている。このような変化は,精神分析が古典的な精神分析から
自我心理学へ発展した証左であり,今日ではそれが
対人関係論や
対象関係論へと進展している。一般には,精神分析とは「
パーソナリティの機能および構造に関する理論であり,かつ特殊な心理療法的技法であって,この理論の他の学問への適用をも含むものである。この学問は,ジグムント・フロイトによる非常に重要な心理学的発見を基盤としている」(国際精神分析学会第30回大会(1977)での定義)。
フロイトは,もともと有能な小児神経学者,神経解剖学の研究者であり,当時の著名な神経学者
シャルコーやベルネーム(Bernheim, H. M.)のもとでも研究を進めていたが,神経学的には説明しえない現象が
催眠によって引き起こされることに関心をいだいた。特に,ヒステリー性の神経症状が催眠暗示によって消失することから,本人の意識されていない感情や欲求の存在を確信するに至った。そのため催眠を用いて,心の深層に潜む感情や欲求などのしこりを解放する浄化法あるいは
カタルシスとよばれる方法によって,心理治療を行った。しかし,「多くの神経症者はどんな方法によっても催眠されえない」という事実から,フロイトは催眠とは違う新しい浄化法を考えることになった。それは,「患者を覚醒状態において取り扱う。すなわち,患者は他からの影響を断たれて寝椅子の上に心地よく仰臥させられ,フロイト自身は患者の視線を避けるために背後の椅子に腰掛ける」というものであった。そして,自然に頭に思い浮かぶことをそのまま話すようにという,いわゆる
自由連想法が開発されたのである。さらに,意識の統制が弱まる睡眠中の
夢も無意識を知る素材を提供してくれるものとして,
夢分析も重視され,これらの方法を用いて患者の治療にあたるとともに,無意識に関する独自の理論を構築していった。
フロイトの主要な理論は,以下の五つの観点に集約できる(Rapaport, D. & Gill, M. M.1959)。(1)心理的過程は意識,前意識,無意識からつくられていると考え(局所論的観点),心を自我,イド,超自我という3層からなるモデル(心的装置)として捉える(構造論的観点)。(2)さまざまな心理的現象は,心理的な力関係によって生み出される(力動論的観点)。(3)性的欲動である精神的エネルギー(
リビドー)を仮定し,その充当や対象への分配などから種々の
不適応や
防衛機制を考える(経済論的観点)。(4)自我,イド,超自我の相互の関係やエネルギー分配の様態を幼児から成人へという発達のなかで捉え,その逆方向を
退行と考える(発達論的観点)。そして,(5)対人関係や社会への
適応という視点から心理的現象を考える(適応論的観点)。その後独自の理論を展開した分析家たちは,これらの観点のいずれかで立場を異にしている。
ユングは独自の局所・構造論を展開して
集合的無意識と
自己の働きを,
アドラーは性欲動よりも力への意志や
優越感といった社会的欲求を,自我心理学は自我の主体的な役割を,
新フロイト派は社会的・文化的影響という対人関係を,そしてイギリスの対象関係論は本能論と最も早期の発達論的観点を,それぞれ強調しているといえよう。
→精神分析療法 →無意識 →心理 = 性的発達 →自我 →自己 →対象関係論 →新フロイト派《Freud, S.1917,33a,70;河合隼雄1967;宮城音弥1959;小此木啓吾1973;Segal, H.1973》
→vid.文献
◆小川俊樹






























心理学辞典 ページ 1271 での【精神分析 】単語。