ストレス 【ストレス】🔗⭐🔉振
ストレス 【ストレス】
stress
心身の適応能力に課せられる要求 (demand),およびその要求によって引き起こされる心身の緊張状態を包括的に表す概念である。前者をストレッサー(stressor),後者をストレス反応(stress response)またはストレイン(strain)とよぶことが多い。
ストレスとは,もともと「圧力」「圧迫」や「苦悩」などを意味する言葉であったが,1930年代後半にカナダの生理学者
セリエによって,「外界のあらゆる要求によってもたらされる身体の非特異的反応」を表す概念として提唱された。彼のストレス学説(Selye, H.1976)によれば,生体に与えられた有害刺激は,副腎皮質の肥大,胸腺・脾臓・リンパ節の萎縮,胃と十二指腸の出血や潰瘍に代表されるような,さまざまな刺激に対して共通の(非特異的な)生理学的変化を引き起こす。このような変化は
汎適応症候群とよばれており,ストレスとはそれが生じている状態をさすものと考えられている。
1960年代後半になると,生活環境の変化や生活上の出来事と心身の疾患との関連性について検討した生活ストレス(life stress)研究を契機として,ストレスに関わる心理社会的要因を明らかにしようとする研究が盛んに行われるようになった。ホームズとレイ(Holmes, T. H.& Rahe, R. H.1967)は,生活上の重大な出来事(stressful life event)によって引き起こされた生活様式の変化に再適応するまでの労力が心身の健康状態に影響を及ぼすという考え方に基づいて,社会的再適応評定尺度(social readjustment rating scale)を作成し,個人のストレス・レベルを測定しようとした。この尺度は,生活上何らかの変化をもたらす出来事が記述された43の項目からなり,各項目には出来事の重大さに応じて重みづけ得点(life change unit ; LCU)が与えられている。過去1年間のLCUの合計が一定の基準を超えると心身疾患に罹患する可能性が高まることが報告されているが,出来事の重大さの評価の個人差が反映されていないこと,LCUと心身疾患との間に必ずしも高い相関が認められないことなどの問題点も指摘されている。
これに対して,
ラザラスとフォルクマン(Lazarus, R. S. & Folkman, S.1984)は,環境からの要求に対する認知的評価(cognitive appraisal)や
コーピングという個人的変数を導入し,環境と個人との相互作用を強調する心理的ストレス・モデルを提唱した。個人が環境からの要求に直面した場合,それがその個人にとって重要な関わりをもち,害や脅威,対処努力をもたらすものであると評価されると(一次的評価),ネガティブな
情動(抑うつ,
不安,
怒り,いらいらなど)が喚起される。また,その要求をコントロールできるか否かの評価(二次的評価)が情動の種類や強度を規定する。すなわち,環境からの要求そのものが直接ストレス反応を引き起こすのではなく,要求の有害性やコントロール不可能性の評価がなされることによってはじめてその要求はストレッサーとなり,情動的ストレス反応を引き起こすものとなるのである。こうした評価を経て喚起された情動的反応は,それを低減することを目的とした行動を動機づける。そのようなあらゆる行動はコーピングとよばれている。コーピングが環境からの要求に対する有害性の評価を低減するように作用すればストレス状態は緩和されるが,そうでない場合にはストレス状態は慢性的に持続して,生理的ストレス反応や認知・行動的ストレス反応をもたらし,心身の健康を損なう可能性を高めるのである。このような考え方は,心理的ストレス研究に大きな影響を及ぼし,現在では最も広く受け入れられているものとなっている。
→汎適応症候群 →コーピング →日常いらだち事 →心因反応 →内因性精神病
→vid.文献
◆岡安孝弘







心理学辞典 ページ 1222 での【ストレス】単語。