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心理学     【シンリガク】🔗🔉

心理学     【シンリガク】 psychology  古代ギリシアの自然哲学者たちは,生物を生物たらしめている原理としての霊魂をも元素から成る万物の一つとして捉えていたが,アリストテレスはこのような考え方を排して質料と形相の区別を明らかにし,かつプラトン的二元論からも脱して,生物を身体(=質料)と霊魂(=形相)が分離しがたく一体となった個物と考え,身体のいとなみを通して霊魂の本質(働き)を明らかにすることを『霊魂論』(心理学)の課題とした。アリストテレスにとって霊魂論は第一哲学(形而上学)に次ぐ位置にあり,自然学のなかで最上位を占める学問であったが,霊魂の最高の機能である理性をめぐってアリストテレスにもすでに垣間みられる論理の破綻から,次の時代には再びプラトン流の神秘主義が復活した。一方,アリストテレスの弟子たちも多くかかわっているアレクサンドリアの医学や自然学のなかで形成されつつあった生化学的概念ともいうべきプネウマ(pneuma, 気または精気)も,時代が下がるにつれてストア学派や新プラトン学派の哲学と結びつき,思弁的性格の強い中世の霊物思想へと変質していった。ヨーロッパ古代中世の自然学を支えてきたこのような生気論的基盤は近代科学の勃興とともにしだいに後退し,ついには近代科学思想を特色づける機械的原理にとってかわられたが,その際,デカルトによって,精神は,思惟をその本質とする実体として,延長をその本質とする物体のカテゴリーに含められる身体と峻別され,身体とは連続的な因果の鎖でつなぐことのできない別枠の認識対象として留保された。これが近代的な物心二元論の始まりである。19世紀後半のドイツで成立する実証的な一経験科学としての実験心理学(古典的実験心理学)の背景には,このデカルト的二元論から派生した心身問題をめぐるヨーロッパ大陸とイギリスの,およそ200年にわたる認識論の歴史が介在する。  古典的実験心理学を代表する一人,ヴントは,当時のドイツ・アカデミズムの一般的風潮でもあった経験主義的視点から,心理学の対象を直接経験(意識)に限定し,分析的内観によって意識過程を構成する最小の心的単位(感覚簡単感情)をとり出して,これら要素的過程の結合の際に働く心的世界の一般法則を発見することを心理学の固有課題とした。また,その場合に,心身平行論を暗黙の前提にして外部から生理過程を統制し,これに対応して生じる意識過程を繰り返し被験者自身に観察させ報告させるという「実験的方法」を取り入れた生理学的心理学を提唱,そのための心理学実験室をライプチヒ大学に開設した(1879)。こうした機械論的・分析加算的発想に対しては,これを思考などの高等な意識過程に適用しようとして成功しなかったヴュルツブルク学派の離反をはじめ,当初より疑問を投げかける人々も多かったが,最も系統だった反論は20世紀初頭のゲシュタルト学派によって展開された。さらに同じ頃,アメリカで生まれた行動主義によって,古典的実験心理学の意識主義的立場や内観的方法もまた根底から問い返されることとなったが,これらの批判の直接矢面に立たされたのはヴントの実験心理学の後継者ティチェナー構成的心理学であって,ヴント自身は生理学的心理学(実験心理学)創設と同時に,その方法的限界にも気づき,言語,慣習,宗教など歴史的文化の研究を通して人間の精神発達の法則を追求する民族心理学の建設へと向かい始めていた。  現代の実験心理学は思考や言語を含む人間の認知機能の全体を高度に発達した情報処理系と見なし,かつ,この系を個体と環境の有機的な交渉を通じて系統発生的に形成されてきた適応過程の産物として捉える生物学的機能主義の見地から,その具体的解明に取り組んでいる。その原理は広義の機械論であり,それゆえコンピュータ・シミュレーションや数学的モデルの適用が可能であり,研究の最前線は脳生理学や生体工学のような自然科学系諸学に対しても開かれた境界領域をなしているが,一方,その認識論的大外枠を形づくる物(身体)と心(意識)の近代的二元論はなお健在であり,その結果として了解や共感を不可欠かつ本質的手段とする臨床心理学と上記のような自然科学的心理学との間の方法論的統合を,依然,困難にしている。 ◆高橋澪子

心理学辞典 ページ 1179 での心理学     単語。