意味記憶 【イミキオク】🔗⭐🔉振
意味記憶 【イミキオク】
semantic memory
タルヴィング(Tulving, E.1972)は,
長期記憶を意味記憶と
エピソード記憶に区別することを提唱し,意味記憶については次のように定義している。「意味記憶は
言語の使用に必要な
記憶であり,単語やその他の言語的シンボルやその意味やその指示対象について,それらの関係について,そしてそれらの操作に関する規則や公式や
アルゴリズムについて人が保有する知識を体制化した心的辞書である」。これに対してエピソード記憶は,「時間的に特定されるエピソードや事象やそのような諸事象間の時間的・空間的関係についての記憶」であるとしている。
意味記憶
表象のモデルとして代表的なものに,
概念やその関係をネットワーク構造で表現するネットワーク・モデル(Collins, A. M. & Quillian, M. R.1969など)と,概念はその要素の集合によって表象されているとする集合論的モデル(set-theoretic model, Smith, E. E., Shoben, E. J. & Rips, L. J.1974など)がある。
コリンズとキリアンのモデルでは,図1に示されているように,概念はノード(node)とよばれる点で表され,概念間の関係はそれらを結ぶリンク(link)とよばれる線で表される。またネットワークは上位概念から下位概念へと階層的に構造化されている。そして,個々の概念のもつ特性はその特性を一般的にもつ最も上位の概念に貯蔵されると仮定されている。たとえば,「カナリア」という概念はその上位概念である「鳥」と,そして「鳥」はその上位概念である「動物」と結びつけられている。また,カナリアの特性である「黄色い」などの情報はカナリアのノードで貯蔵されているが,「翼がある」といった他の鳥にも共通する特性は鳥のノードに貯蔵される。コリンズとキリアンは,文の真偽判断課題に対する反応時間を測度として検討するという,意味記憶研究のための新たな研究パラダイムを開発し,ネットワーク・モデルの心理学的実在性を実証した。
図表
スミスらは,意味記憶のモデルとして素性そせい比較モデル(feature comparison model)を提唱している。このモデルでは,概念はその概念のもつ
意味素性のセットとして意味記憶に表されている。素性には,
カテゴリーの成員であることを厳密に定義する定義的素性と,その成員を特徴づける特徴的素性がある。文の真偽判断は,図2に示されているような,2段階の比較過程によりなされると仮定されている。第一段階では,主語と述語のすべての素性を比較して類似度を決定し,類似度が非常に高い,あるいは非常に低いことが示されれば,第二段階は省略され反応がなされる。類似度が中程度であれば,第二段階へ進み,ここでは定義的素性にのみ基づき比較が行われる。第二段階が省略されると,真偽判断はより速くなされることになる。
図表
意味記憶における
情報検索の問題に関してその中心となるのは,
活性化拡散理論と
プライミング効果である。
検索のメカニズムを
活性化の拡散という概念で説明しようとする活性化拡散理論は,コリンズとロフタス(Collins, A. M. & Loftus, E. F.1975)がその基本的な枠組を理論化している。メイヤーとシュヴェインヴェルト(Meyer, D. E. & Schvaneveldt, R. W.1971)は,呈示された文字列が有意味語か無意味語かの判断を求める
語彙判定課題を意味記憶研究に導入し,活性化拡散理論の証拠となるプライミング効果を初めて見出した。プライミング効果は,意味的に関連する2語を継時的に処理するとき,2番目の語の処理が促進あるいは抑制される現象である。
人間の記憶においては意味記憶だけが独立に機能するとはもちろん考えられない。記憶システムをどのように考えるかという観点からは,先にあげたタルヴィングの意味記憶とエピソード記憶を区別する理論は,記憶システムの理論化に一石を投じたといえよう。この意味記憶とエピソード記憶の区別に関しては,その後,実験変数が意味記憶とエピソード記憶に別々に影響するかどうかを明らかにすることにより,検証しようという研究が試みられ,多くの研究者の間で論争をよんだ。意味記憶とエピソード記憶を区別しない単一の記憶システム理論としては,
アンダーソン(Anderson, J. R.1983)の
ACTモデルなどがあげられる。
→意味ネットワーク →活性化 →活性化拡散 →プライミング →語彙記憶 →単語認知 →エピソード記憶 →宣言的記憶
→vid.文献
◆岡直樹




















心理学辞典 ページ 107 での【意味記憶 】単語。