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三酔人経綸問答     →三酔人経綸問答🔗🔉

三酔人経綸問答     →三酔人経綸問答  南海先生、性酷だ酒を嗜み、又酷だ政事を論ずることを好む。而して其酒を飲むや、僅に一二小瓶を(のみほ)す時は、醺然(くんぜん)として酔ひ、意気飄揺として大虚に游飛するが如く、目怡び、耳娯み、絶て世界中憂苦なる者有るを知らず。更に飲むこと二三瓶なれば、心神頓に激昂し、思想頻に湧(ほんゆう)し、身は一斗室の中に在るも、眼は全世界を通観し、瞬息の間を以て、千歳の前に溯り、千歳の後に跨り、世界の航路を指示し、社会の方計を講授して、自ら思ふ、我は是れ人類処世の道の指南車なり、世の政事的の近眼者が、妄に羅針盤を執り、其船を導きて或は礁に触れしめ、或は沙に膠せしめ、自ら禍ひし人に禍ひすること、実に憫れむ可きの至なり、と。(中略) 先生輒ち一人の客を呼で紳士君と称し、今一人を呼で豪傑君と称して、其名姓を問はず。(中略) 洋学紳士遽(にわか)に云けるに、僕久く先生の高名を聞けり、先生の学、東西を該(か)ね、先生の識、古今を串(つらぬ)く、と。僕も亦宇内の形勢に於て、窃に看破する有り。願くは先生に就て、一たび之を質すことを得ん。  嗚呼、民主の制度なる哉、民主の制度なる哉。君相専擅の制は、愚昧にして、自ら其過を覚らざる者なり。立憲の制は、其過を知りて、僅に其半を改むる者なり。民主の制は、磊々落々として、其胸中、半点の塵汚無き者なり。(中略)  豪傑の客曰く、先生の論は、吾儕両人の言に於て、一も採用せらるゝこと無し。請ふ、邦家将来の経綸に於て、先生の所見を述べて之を教へよ。  南海先生乃ち曰く、亦唯立憲の制を設け、上は皇上の尊栄を張り、下は万民の福祉を増し、上下両議院を置き、上院議士は貴族を以て之に充てゝ世々相承けしめ、下院議士は選挙法を用ひて之を取る、是のみ。若し夫れ詳細の規条は、欧米諸国現行の憲法に就て、其採る可きを取らんのみ。是は則ち一時談論の遽(にわか)に言ひ尽す所に非ざるなり。外交の旨趣に至りては、務て好和を主とし、国体を毀損するに至らざるよりは、決て威を張り武を宣ぶることを為すこと無く、言論、出版、諸種の規条は、漸次に之を寛にし、教育の務、工商の業は、漸次に之を張る、等なり。  二客是言を聞くや、笑ふて曰く、吾儕素より先生の持論の奇なることを聞けり。若し単に此の如くなるときは殊に奇ならずして、今日に在て、児童走卒も之を知れるのみ。(下略)                           〈岩波文庫〉

広辞苑 ページ 24249 での三酔人経綸問答     →三酔人経綸問答単語。