風🔗⭐🔉振
風
[英 wind 仏 vent 独 Luft 露 ветер]
大気の流れ.ふつう,*風速と*風向を用いて表わす.地上付近では,風向,風速とも絶えず不規則に変動している.このような変動を風の息といい,地上付近の風が乱流であるために生じる(→大気乱流).気象庁の発表する風向,風速は,観測時刻10分前から観測時刻までの平均を指すことが多い.風の変動には,このような乱流によるもののほかに,1)昼夜で風向の逆転する海陸風,山谷風などの局地風,2)温帯低気圧,台風,竜巻などの通過に伴って吹く風,3)夏冬で風向の逆転する季節風,4)平均すると通年して同方向に吹く偏西風,貿易風,ジェット気流などがある(→大気大循環).上空の風は*コリオリ力の影響を受けて等圧線に沿って吹くが,地表面付近での*大気境界層の内部では,地表面との摩擦の作用で風速は弱まり,高圧側から低圧側に向って吹く傾向を示す(→地衡流).
大気は安定な密度成層を形成しているため,鉛直方向の運動は妨げられ,風は水平に吹く性質がある.ただし山などの地形によって強制的な上昇気流が生じ,それが密度成層の効果で山の風下側に強風が吹きおろすことがある.これをおろし(颪,fall wind,katabatic wind),おろし風,だしなどとよび,地方によって日高おろし,小保内だしなどの名がつけられている.これには*フェーン現象をともなうことが多い.なお,熱帯低気圧(台風やハリケーンなど),竜巻などの大気の渦も強い風の原因となる.
火星🔗⭐🔉振
火星
[英仏独 Mars 露 Марс]
太陽に最も近い外惑星.太陽からの平均距離は約1.524天文単位.赤色の輝星で,遠日点で衝のときの光度は−1.1等であるが,近日点で衝となれば地球に5550万kmまで近づき−2.8等(最大光度)に達する.軌道の離心率が水星についで大きく0.093である.公転の恒星周期は1.88年.直径は地球の0.53倍,質量は0.107倍.平均密度は約0.71倍,表面重力は約0.38倍,脱出速度約5.0km/s,反射能は0.16である.早くから惑星探査の対象とされ,1964年のマリナー4号以来,マリナー,バイキング,フォボス,マースオブザーバーなどの探査船が相次いで送られた.1976年に表面に軟着陸したバイキング1,2号の観測では初めて火星表面の試料を採取し,地球からの遠隔操作で分析した.火星大気は表面気圧が約5.5mbで地球の約1/2000,主要組成はCO₂(95%),N₂(3%),Ar(1.6%)で,ほかに微量成分として,CO,O₂,O₃,H₂Oなども検出されている.希ガス(Ne〜Xe)の存在比は地球大気と酷似しているが,N,Ar,Xeの同位体比は地球とかなり異なっている.火星面の平均温度は地球より約20℃くらい低いが,火星の夏の赤道部分では10〜20℃に達すると考えられる.大気が非常に希薄なため,大気の温度は地面よりずっと低い.火星面には明暗2種のほとんど固定的な斑紋が見られる.自転周期の値は24h37m22sで,赤道の軌道面に対する傾斜23°59′とともに,地球にきわめてよく似ている.斑紋の中には四季の変化を示すものがある.とくにカッシーニが発見した両極の白く輝いた部分は極冠とよばれ,火星の夏の終りにはほとんど見えなくなり,冬の終りには緯度40°のあたりにまで拡がる.極冠は二酸化炭素の氷雪と考えられている.赤道近くは暗い帯状の部分がとりまいている.地球からの観測では表面に黒い線が見られ,運河と名づけられていたが,数々の探査船の近接撮影写真によると,火星面はむしろ月面に近く,荒れた地面のうえに大小の丸い凹孔(クレーター)が多数みられる.バイキング1,2号の火星表面着陸船は火星表面の様々な岩石の組成,地質を明らかにし,過去に火山活動や液体の水があったことを示した.オリンパス山に代表される火成高山がある.また,火星起源の隕石の研究から,初期の火星に原始的な微生物が発生していた可能性が指摘されている.火星には2個の衛星があり,第1衛星をフォボス(Phobos),第2衛星をデイモス(Deimos)という.ともにいびつな形をしており,表面は小クレーターで覆われている.密度は2g/cml³程度で反射能は低い.フォボスの公転周期0.3189日は火星の自転周期より小さいので,火星の月フォボスは西から出て東に沈む.
岩波理化学辞典 ページ 924。