大気大循環🔗⭐🔉振
大気大循環
[general circulation of atmosphere]
惑星大気の(惑星に相対的な)大局的運動.気温の水平方向の変化によって生じる一種の熱対流で,すべての惑星大気に見られるが,大循環の構造は惑星によって異なる.大気組成,太陽からの距離,惑星の自転速度,自転軸の黄道面に対する傾き,地表面の形状などが大循環の構造を決定する.地球大気(地表面から高度120kmまでを占める部分)の大気大循環は2層に分かれる.対流圏(地表面から高度約10km)の大気大循環と中層大気(高度約10〜120km)の大気大循環である.
(1)対流圏.対流圏の気温は1年を通じて低緯度側で高温,高緯度側で低温の分布が維持される.このため,常に赤道付近で上昇,極付近で下降する*子午面循環が北半球と南半球にそれぞれ生じると予想されるが,実際は自転効果(*コリオリ力の効果)のために,それぞれの半球で3つの細胞状の子午面循環に分離している.また,それぞれの子午面循環に伴って東西方向に地球をとり巻く帯状流,zonal stream(帯状循環,zonal circulationともいう)が形成されている.低緯度の大気大循環を*ハドレー循環(貿易風はその一部をなす),中緯度の大気大循環をロスビー循環(Rossby circulation)とよぶ.高緯度の大気大循環はハドレー循環に似ているが,高緯度の面積が小さいので,中緯度の大気大循環の影響を強く受ける.ロスビー循環内の帯状流は西風で*偏西風とよばれる.偏西風は上空にいくほど強くなり,とくに強い部分はジェット気流とよばれる.対流圏の大気大循環は,高緯度と低緯度の気温差に起因するために,熱を高緯度側に運んで南北の気温差を小さくする作用がある.もし大循環が生じなければ,極と赤道間の温度差は100℃程度になるが,大循環が生じた結果,気温差は40℃程度に減少している.対流圏の大気大循環は,このほかに,大陸‐海洋間の気温差による*季節風が重なっている.とくに,日本列島はユーラシア大陸と太平洋の境界に位置しているので,季節風の影響を強く受ける.対流圏の気温分布は海面温度の分布に支配され,海面温度は風によって駆動される*海水大循環に支配されているので,2つの大循環は力学的に結合されている.それぞれの大循環は一定不変ではなくて,いろいろな時間規模の不規則な変動が存在し,年ごとの季節の不規則性(暖冬や寒冬など)や気候の変化をもたらす.
(2)中層大気.中層大気の気温分布はオゾンによる紫外線の吸収によってつくられており,季節によりいちじるしく変動する.夏至(南半球では冬至)の時期には,夏の極が高温,冬の極が低温になるために,夏の極で上昇,冬の極で下降するただ1つの子午面循環が生じる.これに伴って夏半球の中層大気中には東風が,冬半球の中層大気中には西風が卓越する.東風の時期には極を中心とした円形の渦が形成されるが,西風の時期には対流圏から上方に伝播する波動(プラネタリー波)の影響を受けるために,ゆがんだ形の渦になる.
岩波理化学辞典 ページ 2940。