海水大循環🔗⭐🔉振
海水大循環
[general circulation of sea water]
地球規模の海水の運動をいう.地球表面積の70%を占める海洋は,大陸によって,太平洋,大西洋,インド洋,南極海,北極海などに分離されているため,それぞれの海域でほとんど閉じた循環,すなわち環流(gyre)が形成されている.しかし,分離が不完全であるため,各大洋間で海水の交換が生じる.海水大循環は,海面を吹く風の水平応力が原因で生じる風成循環(wind-driven circulation)と海面からの冷却が原因で生じる熱塩循環(thermohaline circulation)が組み合わさったものであるが,循環の構造が3次元的なので2つの原因を分離することはむずかしい.高緯度の海洋を除いて,水深500〜1000mの深さに水温が急変する層があり,主水温躍層とよばれる(→水温躍層).これより上層の海流系(水平方向の循環流)はおもに海上の風系に支配される.これより深い層の海流系については調査が不十分であるが,おそらく熱塩循環が主要な動力源になっていると思われる.
風成循環の構造は次のように考えられている.水面に吹く風は海面付近に*エクマン流(吹送流)を形成する.エクマン流の収束,発散によって,海水内部(エクマン流よりも下側)に弱い鉛直流が作られ,*ポテンシャル渦度の保存則にしたがって環流が形成される.環流は球面の一部を覆っているために,ベータ効果(→コリオリ力)とよばれる特殊な力学的作用がはたらき,環流の西側に強い海流が生じる(北太平洋の黒潮,北大西洋の湾流など).また,コリオリ力の作用で,環流の東側に*湧昇(沿岸湧昇)が生じ,好漁場を形成する.熱塩循環の構造は次のように考えられている.南極海の一部とグリーンランド沖で作られた低温の海水が深海に沈降し,大陸の縁に沿って世界中にひろがっていく.この沈降流を補償するため,世界中の海域でごく弱い上昇流(1cm/日程度)が形成されている.
⇒海流.
岩波理化学辞典 ページ 773 での【海水大循環】単語。