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乱流🔗🔉

乱流 [英 turbulent flow 仏 écoulement turbulent 独 turbulente Strömung 露 турбулентное течение] 時間的,空間的に不規則な変動,すなわち乱れを含む流れをいう.乱れを含まない流れは層流という.*縮まない流体の乱流には大小さまざまな渦が不規則に配置されている.この点で規則的な渦の配置(たとえば*カルマン渦)とは区別しなくてはならない.縮む流体では,音波のような密度変動が不規則に伝播する流れ,プラズマでは電磁場と流れが不規則に変動する流れを乱流とよぶ.乱流研究の発端は,1883年のレイノルズによる円管流の実験である.円管内に流体を流すとき,層流であれば流体の各部分は管軸に平行に動きポアズイユの法則(→ポアズイユ流)が成り立つ.ところが,*レイノルズ数RdU/ν(dは管の直径,Uは平均速度,νは動粘性率=粘性率/密度)がおよそ2000を超すと,この法則は必ずしも成り立たない.そのとき管内に色素が注入すると,乱れによって色素が管断面全体に拡がるのが観察される(→流れの可視化).管内の流れに限らず,一般にレイノルズ数が大きい流れでは,層流は不安定で乱流に遷移する.  乱流の研究には,分子の熱運動の類推が有効である.乱流中の速度変動を巨視的な平均流と,それからのゆらぎ(乱流成分とよぶ)に分けて考える.平均流の運動量密度(=流速×密度)や混入物質の平均濃度などは,分子の熱運動の場合と同様に乱流成分によって輸送される.しかも,これらの輸送は,分子運動による輸送である粘性や拡散に比べてはるかに速く,それぞれ渦粘性(あるいは乱流粘性),渦拡散(あるいは乱流拡散)とよばれる.分子運動による動粘性率ν,拡散率Dの大きさの程度は,どちらもνclDclと書ける(cは平均分子速度,lは平均自由行程).同様に,渦粘性率,渦拡散率もνt〜vlDt〜vl(vは乱流成分の大きさ,l*混合距離とよばれる長さ)と書ける.ただし,分子運動による粘性率,熱伝導率,拡散率が主として温度だけに依存して流速には依存しない定数であるのに対し,渦粘性率や渦拡散率は平均流にも強く依存して変動する.分子運動の粘性に伴う粘性応力の類推で,乱流成分によって平均流に働く応力を*レイノルズ応力とよぶ.実際に重要な平均流分布や混入物質の拡散を求める問題においては,渦粘性率,レイノルズ応力,乱流成分の運動エネルギーも変数とみなし,それらを支配する方程式を追加して数値的に解くことが行なわれている.このような方程式の系としては,kεモデル(kε model)や大規模渦近似(large eddy simulationLES)がしばしば使われる.  乱流成分の空間分布のスペクトルは,波数kの高い方でなめらかに減少する連続スペクトルである.このスペクトルは,乱流を発生させた原因である噴流や攪拌器などのスケールより小さな領域(大きな波数)では,発生機構によらない普遍的な形をもつと信じられている.この領域のうち,分子運動による粘性の効果が弱い比較的小さな波数の領域では,*コルモゴロフ・スペクトルとよばれるCk⁻⁵³(Cは定数)が実験的にも理論的にも確立している.また,粘性の効果が強い領域も含めて普遍領域全体のスペクトルを求める理論もいくつか発展している.フラクタル(→フラクタルズ)の概念を応用してスペクトルを求める試みもある.

岩波理化学辞典 ページ 5342 での乱流単語。