大気乱流🔗⭐🔉振
大気乱流
[turbulence in the atmosphere]
不規則的に変動する大気の流れ.野外の大気は風洞気流に比べて空間スケールが大きいので,*レイノルズ数が風洞気流に比べたら極端に大きくなり,流れは*乱流状態になる.地面から高度100m程度までの接地層内部の乱流,100mから1kmの大気境界層内部の乱流,それより上空の自由大気中の乱流に区別される.
接地層では,上空を吹く風(主風)の平均風速が地面近くで弱くなることが乱流を生み出す主要な原因である.したがって,乱流の強さは主風の強さに支配される.乱流の性質は,風洞気流内の格子乱流と似ているが,主風の鉛直シアー(剪断)のために一様等方性乱流ではない.慣性小領域(大きな渦からより小さな渦にエネルギーを受け渡される領域)がはっきり存在し,乱流エネルギーのスペクトルは周波数の−3/5乗に比例する.最大の乱流渦の大きさはほぼ高度に比例して増加し,中立成層の場合の平均風速の鉛直分布は対数則に従うことが知られている.ただし,地表面付近の大気成層の安定度によって平均風の鉛直分布は対数則から多少変化する.
接地層より上空の大気境界層内部では,水平方向の圧力勾配やコリオリ力などの影響が現われる.最大の渦の大きさが数百mで,高さに比例して大きくなる性質はなくなる.昼間は,地面が日射で加熱されるため,大気境界層内部は成層が熱的に不安定になり対流が生じる.そのため,大気境界層を対流混合層と呼ぶことがある.夜間は安定成層になり,昼間に比べて乱流エネルギーは著しく減少する.平均風速は,経験的にべき法則(高度の0.2乗程度)で近似される.
自由大気には地面効果が直接及ばない.自由大気中には,局所的な乱流と大気循環自身の乱流が存在する.局所的な乱流は,風速の鉛直シアーが局所的に大きくなって,ケルヴィン‐ヘルムホルツ不安定が起こる場合,内部重力波の振幅が大きくなって破波する場合などがある.これらの現象は晴天乱流(CAT,clear air turbulence)と呼ばれる.航空機が遭遇すると激しい振動をもたらす.
地球上のどの場所から気体を放出しても,気流に乗って地球全体に拡散するから,地球規模の大気循環も乱流と考えることができる.特に,中緯度帯では偏西風の傾圧不安定によって高低気圧が発生するが,これらの渦は変化はカオス的であり一種の乱流とみなすことができる.流れは地球表面に沿った成分が卓越するので,2次元的乱流に近い性質を示す.しかし,弱い鉛直流を伴うので厳密な意味では2次元ではない.理論的には準地衡風方程式で記述される.大規模な大気循環を地衡風乱流ということがある.
岩波理化学辞典 ページ 2944 での【大気乱流】単語。