複数辞典一括検索+

境界層🔗🔉

境界層 [英 boundary layer 仏 couche limite 独 Grenzschicht 露 пограничный слой] 水や空気のように粘性の小さい流体では,粘性を無視した完全流体の理論が大体あてはまる.ただ物体表面の近くでは,速度勾配,すなわち渦度が大きく,粘性が無視できない.粘性の小さい流体ではこのような領域がきわめて薄いので,境界層とよばれる.たとえば速度Uの一様な流れの中に,流れに平行に平板をおくと,板の前端からxだけ下流では境界層の厚さはの程度である.νは動粘性率で,空気ではν=0.15cm²/s,U=10m/s,x=10cmとすればδ≃0.04cmとなる(図1). 一般に*レイノルズ数の大きい流れでは,物体表面に境界層が現われ,その外側では流体は完全流体とみなせる.一般にδ/xは微小量なので,物理量をεδ/xのオーダーによって分類し,*ナヴィエ‐ストークス方程式を簡単化した境界層方程式を用いることができる.これを境界層近似(boundary layer approximation)という.*縮まない流体では,境界層内の流れは境界層方程式    と連続の方程式∂u/∂x+∂v/∂y=0とで支配される.tは時間,(xy)は物体表面に平行および直角方向の座標,(uv)はその各々の方向の速度,ρは密度.またpは圧力で,境界層のすぐ外側の圧力に等しい.この方程式の解はブラシウス(Blasius,H.)が研究した(1907).境界層内の速度分布をuUf(y/δ)とおき,fy/δの級数展開で表わされる.これをブラシウスの解とよぶ.物体表面にそい下流に向かって圧力が増している場合,層内の速度分布は図2aのA,B,C,Dのように変化し,境界層はC(剥離点とよぶ)において物体から*剥離する.剥離した境界層はまきこんで大きい渦になったり(図2b),分裂して多くの小さい渦になったりする. *ヘルムホルツの渦定理によれば,完全流体では渦は発生しないはずであるが,実在の流体では境界層のはがれによって渦の発生が説明される.境界層の概念は1904年にプラントルが導入し,近代流体力学の基礎をつくった.なお,広義の境界層は,流速,温度,電場などが境界の近くの薄い層にわたって激しく変化し,その外側でゆっくり変化する場合をいう. ⇒流体力学⇒レイリー問題

岩波理化学辞典 ページ 1220 での境界層単語。