う蝕〔症〕[ウショクショウ]🔗⭐🔉振
う蝕〔症〕[ウショクショウ]
【英】dental caries
【独】Zahnkaries, Zahnf
ule
【仏】carie dentaire
【ラ】caries dentuium
《同義語》う歯,むし(虫)歯
口腔細菌の侵襲によって起こる,歯の硬組織(エナメル質,象牙質,セメント質)の破壊である.う蝕を発生させる誘因,原因には,次の4要因がある. 1)う蝕に罹患する側である歯や唾液などの宿主感受性, 2)う蝕を発症させる誘因,原因となる微生物叢に関するもの, 3)う蝕原因菌の活動の基盤となる基質,食餌成分に関するもの, 4)時間的な要因.これらの要因が重複して条件が成立すると,う蝕発症の危険性が高まり,このいずれかの因子が欠けた場合は,う蝕は発症しない.現在エナメル質う蝕の原因菌として注目されているのがStreptococcus mutans(ミュータンス菌)であり,この特徴的な因子の一つとして,グルコシルトランスフェラーゼglucosyltransferase(ブドウ糖転移酵素)を菌体外に分泌し,ショ糖を基質としてブドウ糖の多糖体である粘着性の不溶性グルカンを合成し,菌の表面に細菌を凝集させた歯垢を形成する.この歯垢中の細菌は,糖類を直接・間接的に代謝し,乳酸や酢酸などの酸を生成する.生成された酸は唾液の緩衝作用や歯垢中のveillnellaにより,乳酸は消費され,歯垢内部のpHは変化するが,新たに飲食物由来の糖質が供給されるとpHは確実に低下する.このpH変化をステファンカーブStephan curveという.エナメル質はpH 5.5以下になると脱灰されることが知られており,歯垢のpHが長時間にわたり低下すれば,酸はエナメル質のアパタイトを溶解して脱灰していく.一方,唾液中のカルシウムが沈着したり,脱灰されたアパタイトを再合成させてエナメル質を回復させようとする再石灰化作用remineralizationもある.しかし,さらに酸による侵襲が続くと,エナメル質の表層が脱灰し欠損が生じるようになる.この欠損部に歯垢や食物残渣がたまり細菌が増殖して,産生された酸によりさらに脱灰と崩壊が進み,象牙質う蝕へと進む.象牙質では無機成分の脱灰と有機成分の変性破壊,細菌の象牙細管内侵入,象牙質の崩壊によりう蝕はさらに進行して,歯髄炎*や根尖性歯周炎*を続発する.

南山堂医学大辞典 ページ 574 での【症】単語。