腸チフス[チョウチフス]🔗⭐🔉振
腸チフス[チョウチフス]
【英】typhoid fever
【独】Typhus abdominalis
【仏】fi
vre typho
de
【ラ】typhus abdominalis
チフス菌*Salmonella typhiの経口感染によってヒトのみに起こる.他の多くの法定伝染病*がほとんどみられなくなった今日でもわずかに残された重要な法定伝染病の一つである.近年の全国発生数は300人程度で,一般の臨床家からほとんど忘れられようとしている.そのため,昔は不明熱*では何をおいても本症を疑ったものであるが,今ではともすれば診断決定が著しく遅れがちである.最近は国外感染例が増加の傾向にあって再び注目されているが,今なお多数存在すると考えられる本菌の胆道系保菌者に由来する国内感染例もあとをたたない.本菌は小腸粘膜から侵入し,回腸下部のパイエル板および孤立性リンパ濾胞内で増殖して初期病巣を作り,さらに腸間膜リンパ節を介して,リンパ行性に胸管から血中に入って第一次菌血症を起こす.血流中より,肝,脾,骨髄などの網内系で捕捉され,一時血中から菌は消失するが,ここで増殖した後第二次の強度な菌血症を起こすとともに,宿主は臨床症状を現す.10〜14日の潜伏期ののち,定型的な症例では階段状に熱が上昇し,第1週の終わりに39〜40℃に達し極期にいたり,稽留熱*となる.バラ疹roseola(現在も本症の臨床診断の重要な根拠となる),比較的徐脈,脾腫*の三主徴のほか,皮膚・粘膜乾燥,舌苔など多彩な症状をみるが,最近は病初から行われる化学療法に修飾され,このような定型的な症状・経過をとることは少ない.検査所見としては,極期の核左方移動を伴う白血球減少,血清トランスアミナーゼ値の軽度の上昇,LDH値の著明な上昇が診断の参考となる.診断の確定は血液・糞便を中心とする培養の結果に待つ.ウィダール反応*は今日では診断的価値が乏しいとされている.化学療法薬としてクロラムフェニコール*chloramphenicolは今でも本症の第一選択薬剤で,本剤が用いられるようになってから,予後はきわめて良好となった.わが国ではまだ報告はないが,外国では本剤耐性菌による症例がある.アンピシリンampicillin,ST合剤sulfamethoxazole-trimethoprimも用いられる.化学療法が行われるようになってからも,安静・食事療法などの基本的看護は今でも重要である.本症の最も重要な合併症である腸出血・腸穿孔と再発ならびに胆道系長期保菌者への移行を警戒する.胆道系長期保菌者で胆石の保有が確認されれば,胆嚢摘出術*cholecystectomyを行うのが最善とされている.


南山堂医学大辞典 ページ 5011 での【腸チフス[チョウチフス]】単語。