やんごとさんの「河原崎家の一族2 完全版」の感想
85点 河原崎家の一族2 完全版
絶望下にすら残された生への衝動、魂魄、そして執着、汝の名は狂気!われらの狂気を生き延びる道を教えよ!(久々の大ヒットでテンション壊)・・・「名著」を読んでいる時の高揚感が味わえる、異質上質のサスペンスフィクションがここにはある。嗚呼、狂気と洋館の何と相性の良い事か!(ネタバレは本作の致命傷になりかねないので全無しの方向にしたら、もはや感想ですら無くなりました)
<絵>5/15点、<設>30/30点、<ゲーム性>5/5点、<キャラクタ性>30/30点、<笑>0/5点、<システム>10/10点、<クリア後>5/5点
巷間に目にすること数多な話題だが世に言う「名作・名著」、その条件とは何だろうか。
一笑にふされるかもしれないが、どんな見解があるのかウェブをチラ見してみた。
「魅力的な世界観や共感」
・・・『坊ちゃん』や『銀河鉄道の夜』や『キノの旅』(個人的に師匠のくだり除く)などはどうだろう。
なるほど「名著」に出会った時いつまでもそこに居たいという感覚に本を措く事を惜しく思う経験は私もある。
「だいたい5頁おきにくる『決めのフレーズ』」
・・・随分とユニークな意見である(ページって字数バラバラじゃんw)。塩野七海の『ローマ人の物語』などはこれか?
世に数ある価値観や見解を前にしても単純明快でブレない著者のスタンスを魅力的に感じるケースは確かにある。
「科学的で説明可能な柱のある作品、そして出来れば意外性を伴うもの」
・・・「ミチオ=カク」や「カール=セーガン」らの科学読本だけでなく、「マキャベリ」や「ドラッカー」もここに入れたい。
「よいものをよいしかたで引き出したもの」
・・・清少納言の『枕草子』や梶井基次郎の『檸檬』などは正にこれか?そうそう、『色々な色』(近江源太郎 監)も挙げたい。
「カタルシスと説得力を持つ結末」
・・・これなどは私は泣いて賛同してしまいたくなる意見である。
メジャーどころで遠藤周作の『海と毒薬』やカフカの『変身』、アレクサンドル=デュマの『モンテクリスト伯』だけでなく
ドストエフスキーの『カラ兄』などが、この条件では私の好みである。私なりに表現を改変すれば優先順位を反映して、
「大さじ1杯のカタルシスと小さじ1杯の説得力に、カタストロフィを少々」とさせて頂きたい。
だが例えば、浅田次郎の『壬生義士伝』はこのどれに該当するのだろう?一言感想に借用した「大江」は?
最近流行の「万城目学」は?上記いずれの条件も畢竟、全ての名著に共通した条件とはいかない。
そもそも書に内在する目指すものが違うのだから当然と言うものだろう。
「読者が名著と思ったものが名著」などという意見もあった。
一見確実な解に思えるそれも所詮は「結論=結論」のトートロジー。
ある種の認識論的側面からの結論としては興味深いが納得はいかない。
そこで私は「次のページを繰る時の高揚感」などという書の外に飛び出てしまうキテレツな結論を用意するが如何だろう。
いささかエッセイ的な自論でbeyond descriptionに過ぎているかもしれないが、高尚な文学であろうが世俗的な物語だろうが、
奇書であろうが学問書であろうが、それならば汎く「名著」に共有される条件たりうるのではないか。
近年の作品でそれを具現する一例に挙げたいのが、
私が大好きな現代作家を聞かれて一番に口にする「フレデリック=フォーサイス」である。例えば『ジャッカルの日』の主人公が
ススっと侵入して、バーンと任務了解して、サッと消えて、大統領周辺がガガーっとなって結末はごにょごにょな、
ドコまでフィクションでどこまで事実なのか分からなくなる程、わくわくドキドキするすごい展開がものすごくすごい。
ページを進める時の高揚感で言えば、私は彼をこそ現在屈指の「名著」メーカーに推したい。
この『河原崎2』、エロゲとしての機能を問われればクビを傾げざるを得ない。だって抜きどころがないんだもん。だが代わりに、
あの、面白い本のページを繰る時の首筋から尾てい骨の下あたりに突き抜ける妙な「高揚感」やムズムズ感がそこにはあったのだ。
敢えて言おう。少なくとも自分にとっては、もうなんて言うか、これはエロゲじゃなかった。むしろ『八ツ墓村』に近い「読み物」である。
願わくばこの拙文が合点がいくものだったかどうか、プレイ後に思い起こしてもらいたい。
・・・そして本作の中身には触れまい。私が未プレイ者であれば、きっとそうして欲しいから。
■追記 -例のsystem32への干渉問題について-■
例のテルテン問題は聞き及んでいました。自分の場合リリース直後から積んでいたとは言えDMM経由ではないので
心配する必要はなかったのですが、流石に心配で、自分は安全だと納得したかったので、DMMの公式で情報を集めようとしたのですが・・・
おいおい、過去の履歴も無い。無かった事にされてるよw。elf公式でも何も触れてないし、双方共にベストの対応では無いなと思いました。
(DMM購入者だけにメールでお知らせしたのかもしれません、この辺の事情は良くわかりませんが・・・)
結局、インスコ前後のsystem32やレジストリを自分で比較しました。
すげー面倒だし、system32以外でなんか入ってたら、自分みたいな半チクリンの知識じゃ対応できないよ。
DMMでの購入者以外には情報開示しないってのは、別に許されない行為ってことでは無いですが、
どういう顛末になったのか分からない以上、今後はDMMからは購入しない+Elfの新作は初回版回避という盲目的対策で自己防衛しないと
怖くてしかたねーってのが正直な感想です。
やんごとさんの「河原崎家の一族2 完全版」の感想へのレス
kenken1231
楽しまれたようで何よりです。
>そこで私は「次のページを繰る時の高揚感」などという書の外に飛び出てしまうキテレツな結論を用意するが如何だろう。
面白い考えですね。私はこの作品が『エロゲー』で良かったと心底思います。活字だけではない、美麗なCGやアニメ・
良質のBGMに声優の演技・様々に分岐する悪夢を穴埋め形式にゲーム化したフローチャートシステム等々・・・。
活字だけならば、読み手である私はここまで作品の世界観に引き込まれることは無かったと思う。これは臭作でも感じた事ですが
「魅力的な世界観や共感」というものが名著の条件の一つであるならば、紙芝居エロゲーはその条件を極限にまで高める事が
できる作品形態だと言えないでしょうか。もっと言えば、もはや名著を超えた別次元の何かになりうるとさえ考えています。
それは名著より優れているというわけではなくて、比べて評価するのも憚られるほど別種の存在へと昇華したという意味です。
私がエロゲーから足を洗えない理由の一つにその「名著を超えた別次元の何か」がいつか現れるのではないか・・という願望がある
のですが、それは置いといて。
この河原崎家の一族2は、私の中で正しくその「別次元の何か」に昇華した作品にあたると考えています。
魅力的な世界観やキャラクターを主人公視点で把握していくスタイルは、「共感」という条件をこの上なく満たしてくれる。
もちろんシナリオ・テキストが良質でないとそもそも成り立たない事ではありますが、それはさておき、
続きが気になって仕方がない、ワクワクする気持ちというのは、まずこの共感が無いと始まらないと思うのです。
その意味で、やんごとさんがそのような結論をお出しになられたのにも私的に非常に共感を持てました。
>この『河原崎2』、エロゲとしての機能を問われればクビを傾げざるを得ない。だって抜きどころがないんだもん。
エロゲとしての機能を主として「自慰補助ツール」と捉えるならば私も首を傾けますね。私も本作品を抜きゲーとして見るならば
いまいちだな・・と、作品をプレイしてて感じました。それは何故かと考えると、良くも悪くも主人公に共感できていた事の証
なのではないでしょうか。劇中での主人公は、いわば被害者です。どうしようもない惨劇に巻き込まれた一人の男。無理矢理に
回春の為の駒として、贄として扱われる様は本当に酷いものです。物語を主人公視点で進める上で上手く共感することに成功した
プレイヤーは、より共感の度合いが高ければ高いほど、まるで自らの精神まで陵辱されるかのような錯覚に陥るようになる。
「極エロ」というのは言いえて妙だなと納得したのは私だけでしょうか。なるほど確かにこれは一つの「極み」だと思う。
エロの源泉をキャラクターへの感情移入に求めるならば、その感情が善悪どちらに傾いてるかに関わらず、性描写の対象となるヒロイン達への
思い入れを強めることが肝要となってくる。近年のいわゆるキャラゲーと称される作品が特化しているのも其処にあるのでしょう。
本作品はそれを更に一歩進めて主人公(プレイヤー)までも陵辱対象とし、幾度となく繰り返される陵辱の連鎖に読み手までをも引きずり込んだ。
しかし、自分を含めて陵辱の対象となりながらその境遇にすら興奮を覚える・・という極みの人が果たしてエロゲープレイヤーの中に
一体どれだけいるんだ?という疑問はあると思います。いつ殺されるかも知れないという恐怖の中で腰を振るなんて鬼畜王ランスでもない限り無理です。
劇中で優馬は薬により強制的に勃起させられ事を成していましたが、プレイヤーは素ですからね。それこそ酒でも飲みながらじゃないとやってられんと
いう人もプレイヤーの中にはいたかもしれません。そこまで踏み込む事は、もはや自慰を目的とする抜きゲーとしてのエロの範疇を超えているとさえ思えてきます。
これがエルフの提唱する極エロというやつか・・・とクリア当時震えたものです。これはこれで完成されてるなという印象はあるので私的には有りでした。
2010年10月12日06時52分07秒
やんごと
kenken1231さん、そしてヤングさん、
投票とレスまでたんでぃがーたんでぃー(ありがたいです)。
文字カウンタで1万字くらい書いた後に、やっぱり内容に触れないようにと削りまくったら、
本作独自の内容がマルウェアの愚痴だけになってしまって、あれ?こんな筈じゃなかったのに、と思ってまして・・・
それだけに自由に書いてしまった物に反応が頂けてとても嬉しいです。ぷからすー。kenken1231さん、
そうですねー。エロゲに限らずゲーム好きとしては自分も、
「ゲームならでは」の表現技法が作品に花を添えているのを見出せた時は大変嬉しくなります。
この『河原崎2』の2歩進んで1歩戻る進行は正にそれで、映画や小説ではこうはいかなかっただろうと思います。
もしkenken1231さんが「昇華」の末に望む物を多少緩やかに捉えて
私が「名著」と呼んだ物の新しい形態と定義する事が許されるとすれば、
それはもしかしたらもう既存のゲームに存在するのかも、と思ったりもします(本作もそうなのかも)。
勿論、「ゲームならでは」の表現技法が「別種の存在」への突然変異を生み出す姿を目の当たりにしたいという気持ちもあり、
その為自分もまだ卒業できそうにないという意味ではkenken1231と同じ期待をエロゲーに持っています。良くも悪くも主人公に共感できていた事の証なのではないでしょうか。
そう。そうなんですよね。プレイ中に自覚はしてなかったのですがやはり、次は?その次は?と、
話を進めていく方に夢中になっていたのは、今思うとそれは物語に入ってしまっていたのだと思います。
・・・まぁつまり自分の場合抜くどころじゃなかったと。この作品の楽しみ方は人それぞれなのでしょうが、
これからプレイされる方で私の様に「読み物」として楽しむ場合には、
エロに気を散らされずに「名著」を楽しむのと同じやり方でパンツを上げて臨むことをオススメしたいです。
ではではみやーくふつで、とになしー。
2010年10月13日02時01分44秒